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第1章

第20話:主客交代

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アバコーン王国暦287年4月25日ハミルトン公爵領テンペス城・美咲視点

(ミサキの言う通り、麻酔薬によってはわたくしに身体の優先権がきますわね)

(うん、でも、麻酔薬によっては、身体に悪影響が出るわね)

(それに、麻酔薬にも強弱がありますわ。
 必ず眠れる麻酔薬と、ミサキの体調がいい時には眠れない麻酔薬もありますわ)

(問題はそれなのよね。
 身体が重く動きにくくなるだけで、眠れなくてエマに身体をゆずれないのは最悪で、危険極まりないのよね)

(麻酔薬についてはこれから研究を重ねればいいですわ。
 それよりも、今目の前にある問題を片付けないといけませんわ)

(そうなのよね、王家からの要求を聞き入れるかどうかなのよね)

(別にどうしても聞いて差し上げなければいけない訳ではありませんわ。
 レオンお爺様のブラウン侯爵家軍が王国軍を撃破して、王家に与する貴族士族領を次々と支配されておられます。
 我が家の軍勢も、王家直轄領はもちろん、王家に与する貴族士族領を次々と占領し、領主一族を斬首していますわ。
 このまま王家を滅ぼす方法もありますもの。
 問題は、どの方法を選ぶかですわ)

(そうなの?
 だったら全部エマが決めてよ。
 私はエマが決めた通りに動くから。
 私は私にしかできない事を試すから、エマは魔術書を読んで探してよ)

(クローンとかホムンクルスとか言う技術でしたわね?)

(そうよ、ハミルトン公爵家が代々守り継承してきた魔術書の中に、自分の複製を造り魂を移す技術があるのなら、私がその身体に移って、エマにこの身体を返せると思うのよ)

(そうしてもらえるのなら、とてもうれしいですが、さすがにその様な都合のいい魔術があるとは思えないのですが……)

(この世界の過去の魔術がどれほど発達していたのかは私も分からないわ。
 でも私の暮らしていた世界では、長生きと若さにお金も時間も掛けていたわ。
 この世界でも、長生きしたい考えはないの?
 歴代の王の中に、永遠の命を求めた者はいなかったの?)

(ミサキの言う通り、歴代の王も、長寿を願って秘薬を探していました。
 中にはミサキの言う通り、失われた魔法や魔術の中に、不老不死を探させた者もいましたが、ことごとく失敗していました。
 大抵は、王の欲と弱さに付け込んで、地位と富を得ようとする者を数多く集めてしまっただけでした)

(今までは失敗するだけだったとしても、私の知識と経験があれば、成功するかもしれないわよ。
 現にこうして魔力を蓄えられるようになっているじゃない)

(確かに、ミサキの知識と経験があれば、これまでできなかった事が出来るようになるでしょう。
 分かりましたわ、やれるだけやって見ましょう。
 昼間の政務はわたくしの言う通りにやってください。
 身体を鍛える事も、これまで通り続けてください。
 ミサキが疲れてくれるほど、眠りが深く長くなりますから)

(分かっているわよ)

 エマとの話し合いが終わってからは、互いの役割をこなしました。
 王家の使者は全て無視して追い返しました。

 神明裁判で正義を証明されたのですから、道義的に王家に従う必要はありません。
 主君として振舞いたいのなら、罪を犯した王太子とイザベラを厳罰に処し、エマやハミルトン公爵に対する賠償をすべきです。

 現実的な状況においても、王国軍は連戦連敗です。
 潜在的な敵であった貴族家士族家が、王家直轄領と王家派の貴族士族領に攻め込んでいます。

 半数弱の貴族家と士族家は中立を宣言していますが、このまま王国軍の連戦連敗が続くようなら、いつまでも中立を続ける訳にはいかなくなります。

 いつ王家に味方するか分からない貴族家や士族家を背後に残して、王都に侵攻する事はできませんから、占領するのが当然なのです。
 
 ハミルトン公爵軍とブラウン侯爵軍に踏み潰されたくなければ、王家に宣戦を布告して一緒の王都に攻め込むしかありません。

 エマの話しでは、その期限はあと三日ほどだそうです。
 それまでに王太子とイザベラを処刑しなければ、王家は滅ぶそうです。

 ただ不安要素が全くないわけではないそうです。
 これまでアバコーン王国に圧迫されていた周辺の中小国が、この内乱にどう反応するのか読み切れないそうです。

 アバコーン王国に対する恨みを晴らすために、ハミルトン公爵軍とブラウン侯爵軍に味方する可能性が高いそうですが、絶対ではないのだそうです。

 弱体化したアバコーン王国を更に混乱させて、戦国乱世になるように誘導し、自分が大陸を統一しようと考える者が現れる可能性があるそうです。

 周辺中小国が1番恐れているのは、元々アバコーン王国2強だったハミルトン公爵家とブラウン侯爵家が統合される事だそうです。

 チチェスター王家の領地を接収するだけでなく、敵対していた貴族士族領を併合したハミルトン公爵家とブラウン侯爵家が統合される事です。

 ハミルトン公爵家唯一の後継者が女性のエマです。
 しかも母親がブラウン侯爵の実の娘です。

 ハミルトン公爵家とブラウン侯爵家の関係は高位貴族とは思えないほど良好で、従姉弟で結婚すれば争う事なく両家を統合できるのです。

 チチェスター王家の時代でも常に存亡の危機だった周辺の中小国にとっては、これまでチチェスター王家から護ってくれていたハミルトン公爵家とブラウン侯爵家が統合されたら、臣従するしか道はないそうです。

 大陸が1つの王家の下に統一され、戦いのない平和な世の中になればいいと思うのですが、代々国を護ってきた王家にとっては耐えられない事だそうです。
 各国に仕える貴族士族も誇りにかけて抵抗するそうです。

 ですので、滅亡必死の状況になる前に、チチェスター王家に味方して、ハミルトン公爵家とブラウン侯爵家の新王家設立を阻む可能性もあるそうです。
 その方法の1つが、ハミルトン公爵家唯一の生き残りとなったエマ殺害です。

 ですから、どれほど下手に出られてもそう簡単に王都に行くわけにはいきません。
 王太子とイザベラが処刑されたと分かるまでは、王都には行けません。

(ミサキ!
 ありました、ミサキの言っていた複製体に関する魔術書がありました!)

(私にも読ませてください!
 モノによったら、直ぐに複製体を作れるかもしれません。
 直ぐに作れなくても、新たな魔術を創り出すヒントになります。
 これで色々試して魔力を浪費したかいがあります)
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