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第一章

第42話:連合艦隊

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神暦2493年、王国暦230年1月11日:王都・ジェネシス視点

 俺は魔力と前世の知識を総動員して全装帆船を大量建造した。
 成長が早く魔力を含むのが魔境で育つ魔樹だ。
 その魔樹の中でも特に大きく太い物を無制限に伐採した。

 魔樹は根さえ残していたらまた芽を出すので、どれだけ大量に伐採しても数年すれば元の魔境に戻る。

 枝を払い丸太にした状態で火魔術を使って乾燥させた。
 全装帆船(フリゲート)に組み立てる為の加工は風魔術を行った。
 最終的な組み立ては重力魔術と風魔術を組み合わせて行った。

 払った枝や加工の時に出た屑は商人に払い下げた。
 騎士家で欲しい者がいれば燃料に使うように念を押して渡した。

 陰でこっそり売って小遣い稼ぎするくらいなら笑って許してやる。
 だが、枝や木屑を家宝として残されるのだけは絶体に嫌だ。

「……私達は海軍について無知でしたな」

 セバスチャンの言葉が胸に突き刺さる。
 水属性竜を狩った時に理解しておくべきだった。
 船員が風魔術を使って操船している事を軽く考えすぎていた。

「そうだな、船が沿岸用か遠洋用かの問題ではなかったのだな。
 王家王国に逆らって家が滅ぼされるのが嫌だったのと、海の点在する魔海の場所が分からないから、損害を恐れて外国との交易を諦めていたのだな」

 王都沖には、王家海軍を含む多くの貴族船が集結していた。
 嵐が来ない冬の間に、南から大陸に渡ろうと言うのだ。
 船団では大陸に行けなくても、密偵だけでも送り込む作戦だ。

 王都沖合のある魔海の水属性竜を俺が狩り、大量の海の魔獣と魔魚を狩った。
 各貴族家の船が集結する前に、また大量の海の魔獣と魔魚を狩った。
 その結果として多くの船が集結できるようになった。

 各貴族家から選り抜きの風魔術使いが船に乗り込んでいる。
 自然の風に関係なく海を進む事が可能だ。
 攻撃魔術や防御魔術の使い手も乗っている。

 だから、全ての船が無敵だと言いたいところだが、そうではない。
 貴族家によって人材に大きな差がある。
 乗船させられる魔術士の力量差がとても大きい。

 そこで速力、攻撃力、防御力を考えて5つの艦隊に分けた。
 特に重視したのが速力、風魔術士の能力差だ。
 艦隊行動をとる以上、同じ速さで移動できなければ無意味だ。

「王太子は最低ラインをどの辺に置いておられますか?」

 セバスチャンが艦隊出撃前に最終確認しようとする。

「大陸に渡れるのが一番良いのだが、島伝いで渡れる大陸支配下の島にたどり着ければ良いと思っている」

「その島を占領されるのですか?」

「大陸が紅毛人に国に負けるようなら、その気に乗じて占領する。
 大陸が勝つようなら、援軍に来たが間に合わなかったとして、友好使節を送る。
 延命の秘薬を送り、対価を払うなら延命の秘術も行うと言えば、ある程度の交渉は可能だろう」

「以前は攻め込んで来たら全滅させると言われていましたが、随分と弱気になられたのですね」

「今まで集めた情報では、紅毛人の国は魔術具がとても発達しているという。
 そんな国の侵略軍を撃退できたのなら、大陸の底力はまだまだあるという事だ。
 正面から戦って家臣や国民を傷つける事もない。
 友好関係を探っている間に、紅毛人の第二軍が攻めて来る可能性もある。
 時間稼ぎをしている間に、両国が消耗してくれるのが1番良いのだ」

「そういう事でしたら、島にたどり着くのが1番ですね。
 最良の状況とはどのような場合ですか?」

「大陸が交易を認めてくれて、船団が大陸の港に入れて、多くの船員が自由に港町で動けるようになる事だが、まず無理だろうな」

「そうですね、大陸も我が国との交易は規制していました。
 紅毛人の国と戦いになっているとしても、無制限交易は認めてくれないでしょう。
 認めるとしたら、紅毛人との戦いが不利になり、我が国に援軍を求める場合くらいでしょうか?」

「そうだな、それくらい不利にならなければ、自由交易は無理だろうな。
 普通なら大陸に渡っての交易も認めない可能性がある。
 俺達を蛮族だと蔑んで、見下しているのが大陸だ。
 延命の秘薬と秘術を献上すると言ったとしても、朝貢貿易の量を増やすくらいだ。
 いや、強欲で愚かな皇帝なら、それでも我が国を脅して金銀を納めろという可能性がとても高いな」

「やれ、やれ、紅毛人の国が勝ってくれた方が我が国には利がありますね」

「それならいいのだが……」

「何を心配されているのですか?」

「紅毛人の国の魔道具にどれくらい破壊力があるかによる。
 俺の力でも勝てないほどの魔道具だと、大陸が完全に負けては困るのだ。
 強欲で愚かな皇帝では話にならないが、ある程度能力のある皇帝に代替わりしてくれるのなら、同盟して紅毛人と戦える可能性も残しておきたい」

「紅毛人をそこまで警戒されているのですか?」

「ああ、遠く離れた母国からここまで交易にやってくるほど積極的な連中だ。
 とても強欲で、利益の為なら命の危険をかえりみない性格でもあるのだろう。
 そんな連中が、俺の延命術を知ったら、どのような手段を使ってでも手に入れようとするだろう。
 その手段が、紅毛人の国々が連合して攻め込んでくる事態になりかねない。
 話が支離滅裂になっているのは自覚している。
 情報が少な過ぎてあらゆる可能性を考えて備えなければいけない状況なのだ。
 場合によっては紅毛人の国同士を争わせなければいけないかもしれない。
 情報だ、情報が必要なのだ」

「人、金、モノを惜しみなく投入するしかありませんね」
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