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3話

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「追手は送られてこないようですね、義兄上」

「そのようだな。
 正直拍子抜けだよ。
 あそこまでやっておいて、ここで手を抜くとは、何を考えているんだ?」

 ディラン義兄上と私は、王都屋敷をハウス・スチュワードに任せて、陪臣騎士に護られながら、公爵領に急いでいました。
 ウィリアム王太子や極悪令嬢スカーレットが、必ず刺客を送ってくると判断したからなのですが、全くそのような気配はありませんでした。

「本当にこれでよかったのだろうか?」

「気にする事など何もありません。
 全ては王家王国、いえ、全貴族が決めたことです。
 私がいなくなれば封印が解かれること、馬鹿でもわかる事ではありませんか。
 その私を連座といって妾にしようとしたのです。
 そのような愚かな事をするような者達は、皆死ねばいいのです」

「だがな、事は王侯貴族だけではすまない。
 王都の民まで巻き込まれることになる。
 三万の民が全て死ぬことになるのだ」

 義兄上は本当にお優しい方です。
 見も知らぬ民を気にかけ、助けようとされます。
 そのお優しいお心で、私も助けていただきました。
 ですが、私はそれほど優しくはありません。
 この世界は弱肉強食なのです。
 弱い者が強い者に喰われるのは仕方のない事です。

「義兄上。
 全ての民が死ぬわけではありません。
 最初に死ぬのは、魔窟の上に建つ王城王宮に住む王族と貴族です。
 魔獣が王族や貴族を喰い殺し尽くす前に、逃げればいいのです。
 その段取りは、ハウス・スチュワードが整えてくれています」

 私は別に王都の民が全員死んでも平気ですが、義兄上は心を痛められます。
 だから王都の民を救う方策を、ハウス・スチュワードに教えました。
 事前に情報を流しておくのです。
 魔窟を封印していた私が、王太子達に追放刑にされたので、魔獣が王都に現れ民を喰い殺すという噂を流しておくのです。

 私が王都を離れたからといって、直ぐに封印が解けるわけではありません。
 半月から一カ月程度の余裕はあります。
 その間に、シーモア公爵家は完全に王都を引き払いますが、家臣が王都にいる間に噂を流し、魔獣が現れたら民が逃げる決断をできるようにしておくのです。

 なぜここまでするかといえば、全て義兄上のためです。
 民を助ける方策を定めておかないと、義兄上が民のために王都に留まってしまい、王太子達に義兄上を殺す口実を与えてしまう事になります。
 それだけは絶対に防がないといけないので、仕方なく民を助けるのです。

 それに、この逃避行は、私には至福の時です。
 刺客の可能性は常にあり、無警戒にはできません。
 警備が容易になるように、義兄上と私は常に一緒にいます。
 朝から晩まで、馬車の中だけでなく、一時休息する時も宿に泊まる時も、護衛の騎士が護りやすいように、手も触れあわんばかりの側にいることができるのです。
 私の人生で最良の時です!
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