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第一章

第7話

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「これは由々しき問題でございます」
「分かっておる」
「犯人を捕まえて、背後にいる者も吐かせました。
 直ぐに逮捕していただきたい」

 サライダ公爵家の公用人が、宰相府の次官に厳重な抗議を行っていた。
 王太子殿下の権力で事件が握り潰されないように、先に襲撃の噂を王都内全域に流していた。
 他の噂なら聞き逃されたかもしれないが、禁忌とも言える地下用水路を使っての襲撃は瞬く間に広まった。

 特に絶対にあってはならない、地下用水路に毒を流すと言う凶行は、平民ばかりでなく貴族士族にも衝撃を与えた。
 何よりも興味を引かれたのは、実行犯達がメイヤー公爵領の人間だったと言う事だった。

 昨日の王太子殿下によるカチュアへの婚約破棄宣言と、メイヤー公爵家の養女が新たな婚約者に選ばれた件は、権力構造の劇的な変化として、貴族士族の間で駆け巡っていたからだ。
 当然今回の襲撃事件も、権力闘争の一環だと受け止められた。

 犯行を指示した者が、メイヤー公爵領の犯罪者ギルドである事までは、サライダ公爵家の捜査で分かっていた。
 だが、だからと言って、サライダ公爵家がメイヤー公爵領に押し入って、犯罪者ギルドの人間を逮捕する訳にはいかない。

 それが出来るのは、王家の憲兵隊だけだ。
 普通の王家の警察は、平民しか捜査逮捕権がない。
 だが、宰相府の権力者であろうと、今回の件は迂闊に手が出せないかった。
 どう考えても、今回の件は、王太子殿下とメイヤー公爵閣下がやらせたモノだ。

 次期国王陛下と次期宰相閣下を相手に、捜査逮捕など出来るはずがない。
 普通はそうだ。
 だが今回は、地下用水路に毒を流すと言う、オアシス王国の存立にかかわる重大犯罪だ。
 うやむやには絶対に出来ない事件だった。
 しかも既に王都中に事実が流布しており、隠蔽など絶対に出来ない状態にあった。

 ここまで的確で早い一手を打てたのは、カチュア様襲撃の報告を受けた城代が、常在戦場の優秀な戦士だったからだ。
 長年カチュア様の護衛を務めていた戦闘侍女も、実行犯を殺してしまうと、背後にいる黒幕を追い込めない事をよく知っていた。
 だから襲撃犯を殺すことなく、生け捕りにしていた。

 即座に拷問官が送られ、苛烈とも言える拷問が行われた。
 陰惨な仕事を務める拷問官であろうと、カチュア様への忠誠心は鋼鉄のように揺るぎのないモノだった。
 殺してしまわないように、慎重に激烈な痛みを与える拷問が加えられた。

 もちろんカチュア様は、館の奥深くに隠し、護りを固めた。
 拷問が行われている事など知らされなかった。
 いつも通りの厳重な警備が行われていた。
 王太子殿下との婚約が破棄されたとは言え、不貞を捏造されないように、父親以外の男性は絶対に側に近づかせなかった。

 サライダ公爵家は、万全の防御態勢を固めた上で、敵の悪手を的確に撃退して、攻めの一手に出た。
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