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第一章

第9話

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「精霊様、民の悪行を御許しください。
 精霊様、私の無力を御許しください。
 精霊様、毒を御清めください。
 精霊様、どうか水を御恵みください」

 祈りの場から逃げ出したカチュアだったが、館の井戸の前で跪いて祈りを再開していた。
 襲撃犯の悪行を詫び、自分の無力を詫びた。
 その上で、自分達を見捨てないでと祈った。
 精霊の加護なしでは、人間はこの地で生きていくことなど出来ないのだから。

(大丈夫。
 今迄と一緒だよ。
 カチュアの事大好き。
 カチュアを護るよ)
 
 不意に、先程の存在から想いが届いた。
 最初驚いたカチュアだが、直ぐに心が通じあった。
 精霊と交信出来るようになったのだ。
 不幸な事があったが、その御陰で力が強まった。

 その御陰なのか、それとも精霊の腹いせなのか、異変が起こった。
 サライダ公爵領に、勢いよく水が湧き出したのだ。
 基礎を積み上げて高くしていた、サライダ公爵館の井戸から、滾々と水が湧いたのだ。
 こんな事は、王国の歴史始まって以来の事だった。

「御嬢様。
 御嬢様こそ、本当の水乙女様でございます」
「ありがとう、ロディ。
 でもそんな噂話は広めないで」

「何故でございますか。
 御嬢様が本当の水乙女様である事が広まれば、王太子殿下も迂闊に手が出せなくなります」
「本当にそうかしら。
 あの殿下が、素直に手を引くかしら」

「左様ですな。
 確かにあの殿下なら、逆上して私兵を動かすかもしれませんな」
「ロディ。
 民を戦乱に巻き込むのは本意ではないの」

「なるほど。
 そう言う事でございましたら、最良のタイミングを計る事に致しましょう」
「そうしてくれる。
 水乙女の噂を流す時期は、ロディに任せるわ」

「承りました。
 臣が謀って噂を流すような事は致しませんが、民が自発的に噂を広めることを、無理に抑える事は不可能でございます」
「そうね、それは難しいわね」

「人の口に戸はたてられません。
 勝手に広まった噂の所為で、王太子殿下が逆上する可能性もございます」
「その時の手立てはあるかしら」
「御任せ下さい」

「私はこれからも精霊様に祈りを捧げたいの。
 今迄のように、オアシスに行って祈りたいの。
 出来る事なら、城外でも祈りたいの」
「オアシスに行くのだけは御止めください」

「城外はいいの?」
「ただ時期は臣に決めさせてください」
「何故なの?」
「御嬢様が城外で祈りを捧げられ、その場で水が湧くような事あれば、水乙女の噂が広まってしまいます」

「そう。
 そうね。
 噂が広まってしまうのは不味いわね」
「はい。
 時機を見て、万全の警備を整えて、我がサライダ公爵領の城外農園で、祈りを捧げていただきます」
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