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第二章

第67話:伝説と情報

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 俺は相も変わらず魔法であちらこちらと飛び回っていました。
 豪雪によって全てが閉じ込められてしまう連邦領ですが、俺がいれば何時でも何所にでも行けるので、父上と母上も本領に戻る事ができます。

 炎竜砂漠は季節に関係なく灼熱地獄です。
 東竜山脈の村は、冬の寒さは厳しいですが、炎竜砂漠の影響で絶対に雪が降らないので、寒さに強い作物なら植える事ができます。

 ただ地表部分は水を撒くと凍ってしまうので、とても根が深い改良種を土面が凍らない季節に撒いて、厳冬期はお湯を作物から離した場所に撒くしかありません。

 でも今年は、そこまでする必要はありません。
 秋の実りが十分だったので、少なくとも俺が責任を負わなければいけない民が、餓死するような状況では無くなっています。

 そこで地竜森林を利用する活動を最優先にしました。
 他にする事のない厳冬期に、亜竜軍団に与える飼料を確保して置ければ、活動期に餌の確保に時間を取られる事がなくなり、これまで以上の亜竜外交ができます。

 最初に二つの男爵領と東竜山脈の高度千メートル付近に、圧縮強化岩盤製サイロを造りました。

 東竜山脈の千メートル付近は、炎竜砂漠の影響で常に熱いので、厳冬期でも発酵させるのに丁度いいからです。

 サイロに貯蔵した草を嫌気的条件で発酵させるとペーハーが下がるので、長期保存ができるだけでなく、草食動物が美味しく感じてくれるそうです。

 これはテレビで見ただけの知識で、本当かどうか分からなかったのですが、ここ数年小規模にやってみて、間違いないと分かったので大々的にやる事にしました。

 地竜森林の結構な面積を大々的に伐採しました。
 材木はストレージに保管、切り株も魔力に任せて全て掘り起こして保管します。

 魔術で耕された地面からは、魔境の高濃度魔力が影響してとんでもない速さで芽が出るのですが、美味しい新芽を草食動物の餌として集めてサイロに保管します。

 伐採した材木と切り株は、東竜山脈の低温で乾燥している所に放置しておけば、普通よりも格段に速く乾燥してくれます。
 生木のままでは材木にも薪にもできないのです。
 
 伐採して山や森に枝葉を付けたまま放置する葉枯らし乾燥だと、最低でも半年は乾燥させなければいけません。
 更にその後で枝葉を落とし、更に自然乾燥や機械乾燥させなければいけません。

 しかしこの世界には機械乾燥などないので、自然乾燥しか方法がないのですが、それだと葉枯らし乾燥に加えて半年から一年は待たなければいけません。
 合わせて一年から一年半も乾燥させなければ使えないのです。

 ですが、炎竜砂漠の影響で雨が降らず乾燥している我が家の本領地では、低温除湿式人工乾燥と同じ条件の場所があるのです。
 普通なら一年以上かかる乾燥が、僅か十五日から三十日ですむのです。

 上手く行けば、燃料が不足している連邦領で薪を売ってやることができます。
 結構な金額になってしまいますが、お金ができた時に払ってくれればいいので、今はまず凍死さないようにする事が最優先です。

 ただ乾燥させる高度には気を付けないといけません。
 気温に高い場所でやってしまうと、万が一木材の細胞を破壊するほどの温度になってしまった場合は、二三日で乾燥できますが、強度が落ちてしまうのです。

 そんな、食糧の次に大切な燃料確保に飛び回り、乾燥させた切り株を薪にしてもらおうと、竜爪街道北砦に立ち寄った時の事でした。

「フェルディナンド殿下、かねてからお申し付け頂いておりました、炎竜砂漠の伝説について書かれたモノをお持ちさせていただきました」

 行商人から身を起こし、我が家の急成長に上手く乗って、中規模商会の会長になったピエトロが待っていたのです。

 俺は以前から炎竜砂漠が自然を無視した環境だと思っていました。
 単に魔力の影響だとするには、地竜森林や東竜山脈高所にある魔境と違い過ぎるので、何か別の影響があると思っていたのです。

 炎竜砂漠と竜爪街道にまつわる伝承を信じるなら、今も炎竜砂漠の何所かに炎の巨大属性竜が眠っている事になります。

 そのような強大な存在が眠っているというのが本当なら、此方も気をつけなければいけません。

 伝承通りだとすると、人間の事を嫌っているはずです。
 大嫌いな人間が、自分が寝ている間に直ぐ近くに住むようになった。
 それも、人間が近づかないようにした砂漠に入り込んでいるのです。

 激怒するに違いありません。
 竜爪街道を造った時のような一撃を放たれたら、地下のシェルターも一撃で粉砕されてしまう事でしょう。

 そんな不安があったから、ピエトロに炎竜砂漠や竜爪街道に関する伝承を集めてもらっていたのですが、これまでは広く一般に残っている物と同じでした。
 些少な変化はありましたが、俺の行動に変化を与えるほどの違いはなかったです。

 ですが、今日のピエトロは本気です。
 目を輝かせて値段交渉をしようとしています。
 本当に役に立ちそうな話なら、真偽は別にして情報料を払います。

 情報を集めるのはとても大変なのです。
 特に精度の高い情報を集めるのは至難の業です、

 まして数千年前の話を集めろという無茶な命令です。
 真偽など確かめようが有りません。

 これまでも、国や地方による些細な伝承の違いにも褒美を渡してきました。
 大きな違いがあるなら、それなりの褒美がもらえるのは想像がつく事です。

 性根の腐った奴なら、嘘を言って大金をせしめようとするところです。
 我が家との取引で一番大切なのが信用だと知っているピエトロは、今後の大きな利益を考えて、絶対に嘘をつきません。

「どのような証拠を持って来たのですか?」

「残念ながら直接証拠をお持ちする事はできませんでした。
 ただ、教都の権力争いに敗れてクラウディウス王国にまで逃げてきたという神官から、教皇図書室に保管してある石板のなかに炎竜に関する記述があると聞きました」

「それ朗報ですね、それが本当なら、それなりの情報料を払わなければいけませんが、確認する方法を考えてくれているのですよね」

「はい、マクネイア大公王家の御用商人を務める私が、直接接触するわけにはいきませんが、手の者を使って教都の神官に賄賂を渡そうと思っています」

 どれくらいの地位にいる神官を買収する気か知りませんが。流石に石板を持ち出すのは無理でしょう。

 単に書き写しただけでは、証拠として薄過ぎます。
 幾らでも嘘を書く事ができますからね。

 ピエトロがその程度の事でここまで自信満々な顔をする訳がありません。
 だとすると、石板に墨でも塗って写すのでしょうね。

「石板を墨で写した物なら、ピエトロが望む亜竜肉を千樽売ってあげます」

「千樽くださるのではないのですか?」

「小竜でいいのなら千樽差し上げましょう」

「それも美味しいですが、最近は小竜肉が手に入りやすくなっております。
 それに、中型亜竜肉も何時値崩れするか分かりません。
 金貨で支払って頂けると助かります」

 ほう、中型亜竜肉の購入権を拒みましたか。
 これは大問題ですね。

 比較的食糧事情がいいはずの、クラウディウス王国を更に西に行ってから南に一月旅した場所にあるという、南大陸でも凶作が始まりましたか?
 それとも、また南大陸で新教徒と旧教徒の戦争が始まりましたか?

 どちらだとしても、食糧が大量に必要になります。
 これまで以上の食糧難、食糧の高騰が起きてしまいます。
 早急に耕作地と労働力を増やさなければいけないでしょうね。
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