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3話

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 ケヴィンの話に結構衝撃を受けてしまいました。
 イェルク王太子が腐りきった外道なのは知っていましたが、軍までが腐っていたとは思いもしませんでした。
 それでは、ある意味命の恩人であるコバーン男爵が、処刑されてしまうかもしれません。

「ケヴィン、それならば……」

 ケヴィンを助けるためにリンド王国に戻りましょうと言いかけて、お腹の子供の事を想い、続きを口にできなくなってしまいました。
 身勝手な考え方ですが、お腹の子供が何よりも大切です。
 恩人のコバーン男爵を見殺しにする事になっても、お腹の子の安全を優先したいと思ってしまうのです。

「分かっていますよ。
 なにも言わないでいいですよ。
 コバーン男爵の言った事を思い出して下さい。
 お腹の子供を護るために王太子を見殺しにしたと口にしましたね。
 それなのに、お腹の子を危険に晒して、コバーン男爵が喜ぶと思いますか?
 思いませんよね。
 むしろ自分の想いを無にしたと怒りますよ。
 ここは彼の漢気に甘えて逃げることこそ、彼の漢気に報いることになるのです」

 私はケヴィンの言葉に救われて、安心して逃げる準備をしました。
 本当は最初からなにをすればいいのか分かっていたのです。
 ですが、まだ捨てきれない貴族の見栄と誇りが、コバーン男爵を助けたいと口にさせそうになります。
 早く本当の庶民になって、見栄や誇りを捨てなければいけません。

 私達は、いえ、身重の私はあまり動きません。
 私のお腹の子を心配するケヴィンが動く事を許してくれません。
 逃亡準備のほとんど全てを、ケヴィンが一人でやってくれます。
 我が家唯一の財産。
 と言っても銅貨一枚持たずに追放された私の財産ではなく、ケヴィンの財産なのですが、軍馬三頭と調教中の若駒四頭に鞍と荷車をとり付けます。

 再度の襲撃を恐れたのでしょう。
 家財の持ち出し準備をする前に、ケヴィンは完全武装します。
 久し振りに見るケヴィンの騎士姿です。
 真銀と魔獣の素材を上手く組み合わせた、戦闘美の極致とも言える騎士装備に、こんな時なのに見惚れてしまいます。
 やはり私の旦那様は美丈夫です!

 ケヴィンは私を護るために、国も地位も家族も捨ててくれましたが、騎士として必要な物、自分の力で手に入れた物は持って、私について来てくれました。
 その最大のモノは三頭の軍馬なのかも知れません。
 完全装備の騎士を乗せることができて、戦場で主人と一緒に戦えるまでに調教された軍馬は、莫大な金額で売買されるのです。

 この三年間は、調教の時以外は荷車を引いてくれていました。
 近所の人達に有料で貸し出したり、薬の素材となる薬草などを運んでくれました。
 そして毎年仔馬を生んでくれて、我が家の財産を増やしてくれています。
 仔馬達は何時か売らなければいけないと思っていたのですが、今は夜逃げに役立ってくれています。
ブケパロス:牡馬軍馬
バビエカ :牝馬軍馬
タトゥス :牝馬軍馬
ラディン :一歳牝馬
バイアリ :一歳牡馬
ハーゲン :当歳牡馬
マレンゴ :当歳牝馬
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