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第一章

第31話:愚者・セザール城代家老視点

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「みゃああああ」

 その巨大な体躯から発せられる神々しさと強大な力からは想像もできない、思わず吹き出してしまうような可愛いらしい声を発するバロン。
 以前はもっと禍々しい強大な力だけを発する魔獣が護りを固めていたが、今では表に出てくるのは一柱のバロンだけになった。
 そのバロンがまた城へ侵入しようとした者を口に咥えて持ってくる。

「ありがとうございますバロン様。
 全てを調べた上で解放したしますので、ご安心ください」

「みゃああああ」

 バロンの姿が見えなくなったが、恐らく塔に戻ったのだろう。
 公爵と夫人が幽閉されている塔には、多くのモノが潜入しようとした。
 我ら公爵家の者が発見捕縛する前に、塔どころか領都に入ったとたんに、バロンやその前に派遣されていた魔獣が捕らえてしまうので、最初は苛立つ事もあった。
 だが今では仕方がない事だと諦めている。
 キャメロン様の使い魔に我らごときが太刀打ちできるはずがないのだ。

「セザール城代家老、この者は公爵への密書を持っております」

 驚くほど迂闊で愚かな奴がいる。
 どこの王侯貴族かは分からないが、証拠が残る密書を送るなんて、キャメロン様に殺してくれといっているようなものだ。
 今大陸で噂されているのはリアナ様の事だけだが、少し調べればその全てにキャメロン様が手助けしている事など直ぐに分かる。

 この点に関してだけは、キャメロン様も迂闊な点が多々ある。
 リアナ様の事に関してだけは、自分の危険を後回しにされる。
 もしかしたらワザと自分に敵が来るように仕組まれているのかもしれない。
 キャメロン様のリアナ様への愛情は、溺愛と表現するほかない。
 それなのに、ろくに調べもせずにリアナ様を欲得だけで手に入れようとするなんて、命知らずにもほどがある。

「密書を調べて相手を特定するのだ、それと直ぐに祐筆に書き写させろ。
 こちらに残すのは書き写した物だけでいい、密書はキャメロン様に送るのだ」

 さて、本物の密書は使い魔に預けてキャメロン様に届けてもらおう。
 一緒にこれまでの密書の内容を検討した結果も送ってもらう。
 私はちゃんと敵を見極めていられているだろうか。
 密書に書かれている差出人が、送り主と同じとは限らない。
 書かれている差出人をキャメロン様に殺させようとする黒幕がいるかもしれない。

 キャメロン様を欺く事など不可能だが、我らを騙す事はできるかもしれない。
 我らに、いや、私に領地を任せるだけの力がないとキャメロン様が判断されたら、容赦なく城代家老を解任されてしまうだろう。
 キャメロン様はリアナ様を危険に晒す存在を絶対に許されない。
 それは敵味方関係なく、一切の容赦をされない。
 いや、譜代の家臣は殺されずに役目を解かれるだけだから、敵味方で処分は違っているな。

「準備が整いました、セザール城代家老。
 重臣それぞれの見解を書いた報告書も準備できております」

 さて、今回は誰が解任されるのだろうな。
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