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第一章
第17話:輸送依頼
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「昨日は留守にしていてすまなかったな」
ダンジョンに丸一日潜ってから戻ると、ギルドにマスターがいた。
昨日と同じ受付嬢が直ぐにマスター室に案内してくれた。
入室一番に言われたのが詫びの言葉だった。
俺の価値がとても高い証拠だろう。
「いえ、この国では久しぶりの白金級冒険者なのでしょう?
審査や認定に時間がかかるくらいは理解しています」
マスターの立場にある者が礼儀正しく接してくれるのだ。
俺だって礼儀を守って敬語を使う。
「そう言ってくれると助かる。
領主閣下が承認してくださったので、ショウは辺境伯領に限って個人もパーティーも正式な白金級だ」
「他の都市では違うのですか?」
「ああ、大陸共通の冒険者ギルドと言っても、連絡手段も行き来も限られているので、各ギルド間で実力に差が出てしまう。
何より都市によって現れる猛獣や魔獣が違う。
冒険者の戦い方によって相性が違ってくるから、冒険者のレベルは各ギルドで再確認されるのが普通だ」
「だったら、普通は冒険者が移動する事がないのではありませんか?
ここに案内してくれた時に聞いた、稼げるようになったら、美味しい獲物のいる都市に移動すると言っていましたが、実際は珍しいのではありませんか?」
「それは正しくもあり間違ってもいる。
前にも言ったが、銀片級に成れる冒険者は百人に一人しかいないのだ。
その銀片級冒険者も、全員が生まれ育った場所から移動するわけではない。
だから、確率的には少人数になる。
だが、その移動する冒険者の大半が、稼げる獲物のいる都市に移動する」
「その時には、俺のように初心者認定をさせられるのですか?」
「初心者認定ではなくレベル確認だが、やる事は同じだな。
魔境かダンジョンに行って、自分のレベルに相応しい獲物を狩る。
それを終えるまでは仮レベル扱いだ。
ショウの場合だと個人仮白金級となる。
小さな認識票とは言え、白金ともなれば百万セントだ。
そう簡単に渡せる金額じゃない」
確かにマスターの言う通りだ。
薄く延ばされているとはいえそれなりの量の白金だ。
百万セント、日本円で一億円くらいだ。
ギルドはもちろん領主に、それ以上の利益を与え続けないと渡せない。
「それで、俺に白金の認識票をくれるのですよね?」
「ああ、準備してある。
ただ、たった一回のダンジョンアタックで白金級だ。
さっきも言ったように、領主閣下とギルドに対する利益が足らない」
「六億以上、ドロップの切り上げで考えれば、七億は利益を上げたはずですが?」
「その通りなのだが、まだドロップが換金できていないのだよ。
この都市でドロップした肉を、他の都市に輸出して初めて利益になるのだ」
「俺に輸送をしろという事ですか?」
こんな危険に満ちた世界なのだ。
都市間での交易は困難を極めるだろう。
少しでも安全に交易しようと思えば、厳重な護衛が必要になる。
量を運ぼうと思えば、馬車や護衛の数がとても多くなる。
それを根本的に解決するには、アイテムボックスを活用するしかない。
護衛対象が一人で馬車もいらないのなら、少数の騎馬部隊で都市間を駆け抜けさせるのが一番安全だ。
「俺一人で他の都市に輸出品を運べと言う事ですか?」
「いや、ショウ一人だと輸出品を持って逃げられる危険性がある。
分かっているだろうが、これはショウだけに限らず、全ての人間に言える事だ」
「ええ、それくらいの事は分かっていますが、俺が本気で持ち逃げしようと思ったら、誰にも止められませんよ。
田舎者で、自分よりも強い相手がいるかもしれないと思っていた、ここに初めて来た時とは考えが変わっていますよ?」
「俺にも人を見る眼がある。
ショウが持ち逃げするような人間ではない事くらい分かっている」
「そう言っていただけると、悪い事などできなくなりますね」
「最初から悪い事などしないだろう。
そんな事をする奴が、女子供のためにポルトスを使ったりしない。
ポルトスを誘導して、女子供のレベル上げをさせたりしない。
その見返りにポルトスとパーティーを組み、経験値を稼がせてやる気だろう?」
「良い人間が損をしたり酷い目に遭ったりするのは、見たくないですからね。
女子供とはダンジョンで同じヘルメットで飯を食べています。
死傷するのはもちろん、食い物にされるのも見たくないですから」
「そう言うショウだから、他の都市との交易を任せられるのだ」
「分かりました、引き受けましょう。
ですが、俺はこの辺の地理に詳しくありません。
どのような猛獣や魔獣が、どの辺に現れるかを知りません。
何より、何処に何という都市が有るのかも知りません。
信頼できる案内役がいないと、誰に騙されるか分かりませんよ」
「その点は領主閣下も気になされている。
辺境伯家の騎士団から信頼のできる者を派遣される。
だが、辺境伯閣下の身の回りから多くの人数は割けない。
少数精鋭になると思ってくれ」
「辺境伯閣下の命を狙っている者がいる。
それも、閣下の身近に黒幕がいる」
「そう言う事だ。
だから今回の依頼はショウとポルトスのパーティーに依頼する」
「女子供が実力不足なのはどうします?
女子供だけでダンジョンに行かせたら、ポルトスを脅すための人質にするかもしれませんよ」
「女子供も今回の輸送任務に同行させる」
「まだ木片級なのではありませんか?
冒険者とも言えない女子供に、輸送の護衛依頼を出すのですか?」
「いや、護衛としての依頼ではない。
荷役としての依頼だ」
「必要もない荷役を依頼するのですか?」
「こちらからの荷物を運ぶと言う意味の荷役ではない。
向こうから輸入する荷物を運ぶために雇うのだ」
「俺のアイテムボックスなら全部入るだろうと言われるのではないですか?」
「死んだモノ、無機物ならアイテムボックスに入れられるが、生きた家畜を輸入するとなると、乗り手か御者が必要になる」
「なるほど、食用や素材としての家畜を買うのではなく、軍事や移動に使う馬や驢馬は買ってこいというのですね?」
「ああ、そうだ。
今回の交易先の中には、馬の名産地がある。
他の都市でも、安値で買える馬や驢馬、騾馬がいたら確保して欲しい」
「今の話ですと、交易先は一ケ所ではないのですね?」
「ここ数十年狩れなかった茶魔熊と赤魔熊だ。
国王陛下に献上しなければならない」
「国王陛下よりも前に肉を食べる訳にはいかないと言う事ですか?」
「その通りだ。
更に言えば、領主閣下よりも順位が上の方々には、購入する気があるのか、幾らで購入したいのかを確認する必要がある。
そうしておかないと、後々難癖をつけられる」
「面倒な事ですね」
「まあ、ショウとポルトスがいるから、あまり酷い難癖をつけられる事はないだろうが、隙を作ると貴族の常識、礼儀作法の失敗を突いて攻めてくるからな」
「茶魔熊と赤魔熊を狩るような、俺とポルトスを抱えているから、無理無体な難癖を付けたら、戦争を仕掛ける言い分を与える事が怖い?」
「そうだ、ショウとポルトスを先陣に攻め込まれたら、領地は守り切れても、食糧を確保するのも困難になるからな」
「俺は領主閣下の手先になる気はないですよ」
「ショウにその気はなくても、王侯貴族の常識では、領内で働いている冒険者は領主の戦力と考えるのだ」
「だったら、俺を領地に取り込もうとする貴族がいるのではありませんか?」
「間違いなく取り込もうとする貴族がいるだろう。
だが、この都市以上に魅力的な領地はない。
だから何の心配もしていない」
「えらい自信ですね。
俺の好みなど分からないでしょうか?」
「女子供に対する態度を見ていれば、それくらいの事は分かる。
ここ以上に女子供の優しい場所などない。
何処の領地も、弱者からは徹底的に奪い虐げるのが普通だ。
この領地も、当代の領主閣下になる前は酷かった」
「それで安心されても困るのですが、まあいいでしょう。
それで、前回買い取ってもらってから二度もダンジョンアタックしましたが、それの確認はされないのですか?
その量によって、王侯貴族との取引が変わるのではありませんか?」
「分かった、確認させてもらおう」
俺はマスターにドロップした肉塊を見せたが、全部買い取れないと言われた。
買い取れなくても税金は払わなければいけない。
それは理不尽過ぎるので、文句を言って交渉した。
一度に全部買い取ってもらわないと、どのドロップが税の支払い前で、どのドロップが税の支払った後なのか、管理するのが難しい。
俺ならば、何十もの亜空間の使い分けで管理できるのだが、そんな規格外の能力を、マスターはもちろん領主にも教える必要がない。
そこで、税として納めるドロップの種類と数、領主が冒険者ギルドを通じて買い取る種類と数を確認しておいて、俺がそのまま預かっておくことになった。
これで領主も冒険者ギルドも、数少ないアイテムボックス持ちを、直ぐに売る事ができないドロップのために使わなくてすむ。
他の領地でドロップを売って現金を手にしてから、俺に買取金額を支払えばいい。
領主も冒険者ギルドも、運転資金を使うことなく利益だけを手に入れられる。
俺が手に入れたドロップは、今後全てこの方式が取り入れられるのだろう。
ダンジョンに丸一日潜ってから戻ると、ギルドにマスターがいた。
昨日と同じ受付嬢が直ぐにマスター室に案内してくれた。
入室一番に言われたのが詫びの言葉だった。
俺の価値がとても高い証拠だろう。
「いえ、この国では久しぶりの白金級冒険者なのでしょう?
審査や認定に時間がかかるくらいは理解しています」
マスターの立場にある者が礼儀正しく接してくれるのだ。
俺だって礼儀を守って敬語を使う。
「そう言ってくれると助かる。
領主閣下が承認してくださったので、ショウは辺境伯領に限って個人もパーティーも正式な白金級だ」
「他の都市では違うのですか?」
「ああ、大陸共通の冒険者ギルドと言っても、連絡手段も行き来も限られているので、各ギルド間で実力に差が出てしまう。
何より都市によって現れる猛獣や魔獣が違う。
冒険者の戦い方によって相性が違ってくるから、冒険者のレベルは各ギルドで再確認されるのが普通だ」
「だったら、普通は冒険者が移動する事がないのではありませんか?
ここに案内してくれた時に聞いた、稼げるようになったら、美味しい獲物のいる都市に移動すると言っていましたが、実際は珍しいのではありませんか?」
「それは正しくもあり間違ってもいる。
前にも言ったが、銀片級に成れる冒険者は百人に一人しかいないのだ。
その銀片級冒険者も、全員が生まれ育った場所から移動するわけではない。
だから、確率的には少人数になる。
だが、その移動する冒険者の大半が、稼げる獲物のいる都市に移動する」
「その時には、俺のように初心者認定をさせられるのですか?」
「初心者認定ではなくレベル確認だが、やる事は同じだな。
魔境かダンジョンに行って、自分のレベルに相応しい獲物を狩る。
それを終えるまでは仮レベル扱いだ。
ショウの場合だと個人仮白金級となる。
小さな認識票とは言え、白金ともなれば百万セントだ。
そう簡単に渡せる金額じゃない」
確かにマスターの言う通りだ。
薄く延ばされているとはいえそれなりの量の白金だ。
百万セント、日本円で一億円くらいだ。
ギルドはもちろん領主に、それ以上の利益を与え続けないと渡せない。
「それで、俺に白金の認識票をくれるのですよね?」
「ああ、準備してある。
ただ、たった一回のダンジョンアタックで白金級だ。
さっきも言ったように、領主閣下とギルドに対する利益が足らない」
「六億以上、ドロップの切り上げで考えれば、七億は利益を上げたはずですが?」
「その通りなのだが、まだドロップが換金できていないのだよ。
この都市でドロップした肉を、他の都市に輸出して初めて利益になるのだ」
「俺に輸送をしろという事ですか?」
こんな危険に満ちた世界なのだ。
都市間での交易は困難を極めるだろう。
少しでも安全に交易しようと思えば、厳重な護衛が必要になる。
量を運ぼうと思えば、馬車や護衛の数がとても多くなる。
それを根本的に解決するには、アイテムボックスを活用するしかない。
護衛対象が一人で馬車もいらないのなら、少数の騎馬部隊で都市間を駆け抜けさせるのが一番安全だ。
「俺一人で他の都市に輸出品を運べと言う事ですか?」
「いや、ショウ一人だと輸出品を持って逃げられる危険性がある。
分かっているだろうが、これはショウだけに限らず、全ての人間に言える事だ」
「ええ、それくらいの事は分かっていますが、俺が本気で持ち逃げしようと思ったら、誰にも止められませんよ。
田舎者で、自分よりも強い相手がいるかもしれないと思っていた、ここに初めて来た時とは考えが変わっていますよ?」
「俺にも人を見る眼がある。
ショウが持ち逃げするような人間ではない事くらい分かっている」
「そう言っていただけると、悪い事などできなくなりますね」
「最初から悪い事などしないだろう。
そんな事をする奴が、女子供のためにポルトスを使ったりしない。
ポルトスを誘導して、女子供のレベル上げをさせたりしない。
その見返りにポルトスとパーティーを組み、経験値を稼がせてやる気だろう?」
「良い人間が損をしたり酷い目に遭ったりするのは、見たくないですからね。
女子供とはダンジョンで同じヘルメットで飯を食べています。
死傷するのはもちろん、食い物にされるのも見たくないですから」
「そう言うショウだから、他の都市との交易を任せられるのだ」
「分かりました、引き受けましょう。
ですが、俺はこの辺の地理に詳しくありません。
どのような猛獣や魔獣が、どの辺に現れるかを知りません。
何より、何処に何という都市が有るのかも知りません。
信頼できる案内役がいないと、誰に騙されるか分かりませんよ」
「その点は領主閣下も気になされている。
辺境伯家の騎士団から信頼のできる者を派遣される。
だが、辺境伯閣下の身の回りから多くの人数は割けない。
少数精鋭になると思ってくれ」
「辺境伯閣下の命を狙っている者がいる。
それも、閣下の身近に黒幕がいる」
「そう言う事だ。
だから今回の依頼はショウとポルトスのパーティーに依頼する」
「女子供が実力不足なのはどうします?
女子供だけでダンジョンに行かせたら、ポルトスを脅すための人質にするかもしれませんよ」
「女子供も今回の輸送任務に同行させる」
「まだ木片級なのではありませんか?
冒険者とも言えない女子供に、輸送の護衛依頼を出すのですか?」
「いや、護衛としての依頼ではない。
荷役としての依頼だ」
「必要もない荷役を依頼するのですか?」
「こちらからの荷物を運ぶと言う意味の荷役ではない。
向こうから輸入する荷物を運ぶために雇うのだ」
「俺のアイテムボックスなら全部入るだろうと言われるのではないですか?」
「死んだモノ、無機物ならアイテムボックスに入れられるが、生きた家畜を輸入するとなると、乗り手か御者が必要になる」
「なるほど、食用や素材としての家畜を買うのではなく、軍事や移動に使う馬や驢馬は買ってこいというのですね?」
「ああ、そうだ。
今回の交易先の中には、馬の名産地がある。
他の都市でも、安値で買える馬や驢馬、騾馬がいたら確保して欲しい」
「今の話ですと、交易先は一ケ所ではないのですね?」
「ここ数十年狩れなかった茶魔熊と赤魔熊だ。
国王陛下に献上しなければならない」
「国王陛下よりも前に肉を食べる訳にはいかないと言う事ですか?」
「その通りだ。
更に言えば、領主閣下よりも順位が上の方々には、購入する気があるのか、幾らで購入したいのかを確認する必要がある。
そうしておかないと、後々難癖をつけられる」
「面倒な事ですね」
「まあ、ショウとポルトスがいるから、あまり酷い難癖をつけられる事はないだろうが、隙を作ると貴族の常識、礼儀作法の失敗を突いて攻めてくるからな」
「茶魔熊と赤魔熊を狩るような、俺とポルトスを抱えているから、無理無体な難癖を付けたら、戦争を仕掛ける言い分を与える事が怖い?」
「そうだ、ショウとポルトスを先陣に攻め込まれたら、領地は守り切れても、食糧を確保するのも困難になるからな」
「俺は領主閣下の手先になる気はないですよ」
「ショウにその気はなくても、王侯貴族の常識では、領内で働いている冒険者は領主の戦力と考えるのだ」
「だったら、俺を領地に取り込もうとする貴族がいるのではありませんか?」
「間違いなく取り込もうとする貴族がいるだろう。
だが、この都市以上に魅力的な領地はない。
だから何の心配もしていない」
「えらい自信ですね。
俺の好みなど分からないでしょうか?」
「女子供に対する態度を見ていれば、それくらいの事は分かる。
ここ以上に女子供の優しい場所などない。
何処の領地も、弱者からは徹底的に奪い虐げるのが普通だ。
この領地も、当代の領主閣下になる前は酷かった」
「それで安心されても困るのですが、まあいいでしょう。
それで、前回買い取ってもらってから二度もダンジョンアタックしましたが、それの確認はされないのですか?
その量によって、王侯貴族との取引が変わるのではありませんか?」
「分かった、確認させてもらおう」
俺はマスターにドロップした肉塊を見せたが、全部買い取れないと言われた。
買い取れなくても税金は払わなければいけない。
それは理不尽過ぎるので、文句を言って交渉した。
一度に全部買い取ってもらわないと、どのドロップが税の支払い前で、どのドロップが税の支払った後なのか、管理するのが難しい。
俺ならば、何十もの亜空間の使い分けで管理できるのだが、そんな規格外の能力を、マスターはもちろん領主にも教える必要がない。
そこで、税として納めるドロップの種類と数、領主が冒険者ギルドを通じて買い取る種類と数を確認しておいて、俺がそのまま預かっておくことになった。
これで領主も冒険者ギルドも、数少ないアイテムボックス持ちを、直ぐに売る事ができないドロップのために使わなくてすむ。
他の領地でドロップを売って現金を手にしてから、俺に買取金額を支払えばいい。
領主も冒険者ギルドも、運転資金を使うことなく利益だけを手に入れられる。
俺が手に入れたドロップは、今後全てこの方式が取り入れられるのだろう。
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