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第二章

第69話:報告

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 ホラント伯爵領の政務はゆっくりと行った。
 その気になれば、積み上げられた書類も丸一日で決済できる。

 だがそんなに急がなくても、他にやらなければいけない事があるので、他の事をやりながら計画的にやる。

 他の事と言うのは、城塞都市ホラントの改造だ。
 ナミュール侯爵領からホラント伯爵領までの街道を整備したから、背後を抑えられる危険を無視すれば、城塞都市ナミュールを放置して侵攻できる。

 だから、ナミュールと同じ規模の空壕と高層マンション城壁を造った。
 何かあれば高層マンション城壁部分だけで十万人が住める。
 今回引き連れてきた家臣の内、二万を残しておけば安心して辺境伯領に行ける。

 食糧も安価な肉で干肉と塩漬け肉を作るように塩込みで支給した。
 ナミュール同様半年は籠城できるだけの量だ。

 もちろん、胃袋を掴む事も忘れてはいない。
 十日に一度は麦粥を腹一杯食べられるだけの麦も支給してある。

 全てが終わるまでに六日かかった。
 五日目の朝、四万の兵士を率いて辺境伯領に向かった。

 エノー伯爵領は通らず、魔境街道を使ったが、路面はビクともしていなかった。
 魔樹が芽を出す場所もなかったし、魔獣にほじくり返されている場所もなかった。

 安全に眠るための砦も、表面に傷一つついていなかった。
 ただ、今後の事も考えて、地下を思いっきり広げておいた。

 敵に利用されないように、俺以外は使えないようにしたが、最大収容人数二十万人の地下都市を造っておいた。

 そんな風にゆっくりと辺境伯領に向かっているのだが、城塞都市ネウストリアに入る前に、カミーユが領主となっている城塞都市トゥールに入った。

「しょうさま、しょうさま、しょうさま!」
「ショウ様、ご無事の帰還、心からお喜び申し上げます」
「ショウ様のお陰でダンジョンを占有できるようになりました!」
「女子供全員が、トゥールダンジョンの最深部まで、楽に行けるようになりました」

 女子供達が満面の笑みで報告してくれる。
 初めて会った時のような、苦しげな表情とは全然違う。
 こんな笑みをずっと浮かべて暮らせればいい。

「そうか、みんな成長したんだな」

「あ、しょうさま、だんじょんふかくなったんだよ」

「ご報告が遅れてしまいました。
 ダンジョンが一階層深くなりました。
 万が一の事があっていけないと、教えていただいていた通りでした」

 リーダーの話は、冒険者ギルドのマスターやカミーユから聞いていた通りだった。
 標準型のダンジョンが成長すると、普通に一階層深くなる。

 現れる魔獣が変わる事も、ドロップが変わる事もないそうだ。
 滅多にない事だとは聞いていたが、念のために教えておいたのだ。

 だが、領主や住民にとても大きな変化だ。
 特に冒険者の階級に係わる階層が増えると、格段に収入が増える。
 一階層深くなれば、それだけ多くの人を養う事ができる。

 冒険者や住民が増えれば、城塞都市の住民密度が高くなる。
 住環境が悪くなり、疫病が流行する恐れが出てくると、魔獣の強さを恐れつつ、都市を拡張しなければいけなくなる。

「一階層深くなった場所に表れる魔獣も無理なく斃せるのだな?」

「はい、最初はパーティーを組んでも多少手古摺りましたが、今ではほとんどの者がソロでも簡単に斃せます」

 戻るまでそれほど長くかかった訳でもないのに、ここまで急激に成長するとは、俺がいない間に頑張ったのだな。

「じゃあ新しい階段もできたと思うが、そこも安全地帯なのか?」

「安全地帯ではありませんが、斃しきれずに逃げ込まない限り、進んで入って来ませんので、私達がダンジョンを独占している限りは安全です」

 どこかの馬鹿が、自分達の実力も弁えず、勝てない魔獣を狩ろうとして死ぬのならともかく、途中で逃げ出して階段に来ない限りは安全と言うわけだな。

「だったらその階段にも土を運んでおこう。
 そうすれば新しい畑が作れる。
 モヤシ作りの種はまだ残っているのか?」

「はい、ショウ様が沢山置いて行ってくださったので、まだまだあります。
 モヤシは収穫した分を毎日辺境伯閣下に送っています。
 コカブと言われていた野草は、順調に葉が茂っています。
 ショウ様の言われていた目安にはまだ早いので、十日ほど待って収穫する予定でしたが、それでよろしいですか?」

「ああ、それで構わない。
 自分達が食べる分はちゃんと残しているか?」

「はい、ショウ様の申されていた通りにしています。
 辺境伯閣下も私達が食べる分は見逃してくださっています。
 それに、モヤシはそれほど食べていません。
 ショウ様が残して行ってくださった、タマネギとハクサイ、ジャガイモとサツマイモが美味しくて、そればかり食べています」

「そうか、それならいいんだ。
 じゃあ俺は新しい階段に使う土を取ってくる」

 俺はそう言って女子供達とは別行動をとって。
 彼女達の為にも、早急に空壕と高層マンション城壁を造らなければいけない。

 トゥールダンジョンの規模だと、多くの冒険者と住民を養えない。
 人数が少ない城塞都市に巨大すぎる城壁は、逆に負担になる。

 だが、俺が造る空壕と高層マンション城壁は別だ。
 城塞都市を巡る城壁の総延長距離自体は、ダンジョン適正人数に合わせている。
 空壕の幅と深さ、城壁に厚みと高さを非常識にしているだけだ。

 とはいえ、城壁が余りに高いと、反撃するにも相手が見えなし狙えない。
 城壁上部の歩廊に上がるのにも時間がかかり過ぎる。
 せいぜい高さ百メートルの城壁の内側に、三十階層マンションを造るくらいだ。

 城塞都市の増強が終わったら、魔境に入って魔樹の伐採だ。
 材木や薪にしたい訳ではなく、ダンジョン内畑の肥料にするのだ。
 それも、液肥にしてジョウロで撒けるようにしておきたい。

 女子供達にはこれからも安心して暮らしてもらいたい。
 何かの時のために、小麦と米は三年分渡してある。
 昔ながらの梅干も渡してあるから、最低限の栄養は確保できるだろう。

 あの空壕と高層マンション城壁を超えられる人間がいるとは思えない。
 飛行種の魔獣や魔蟲なら別だが、魔獣や魔蟲は不思議とダンジョンには入らないらしい……何故だ、何故ダンジョンに入らない?

 俺はまだこの世界の事をよく分かっていない。
 自分が強いから気にしなかったが、女子供の事を考えると、もっと詳しく知っておいた方が良い

 俺は急いでダンジョンに潜った。
 階段で農作業をしている女子供、階層で狩りをしている女子供に言った。

「ちょっと調べたいことがあるから、最下層は俺に貸してくれ」
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