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第一章
愛される事は期待するな
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「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」
冷たい声で男は言った。
ここはクラレンス王国の東に位置する、テイラー領にある大きな屋敷の寝室。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同じ伯爵家の長女マーガレットが、三年の婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
本来ならば幸せの絶頂の中で初夜が行われるはずの時間。
それにも関わらず、ジェラルドはマーガレットに先程の言葉を冷たく言い放ったのだった。
自然が豊かな領地を持ち、様々な特産物を誇るジェラルドの生家のテイラー家。
人材育成に力を入れ、多くの職人と商人を抱えるマーガレットの生家であるケナード家。
両家による共同事業展開の為に取り決められた政略結婚だった。
多くの貴族と領民たちに期待されて、祝福された盛大な結婚式の後だった。
(まぁ、物語みたいなことって本当に起こるのね。でも、愛する人がいるなら私と結婚などしなければ良かったのに…何故今になって言うのかしら…?)
マーガレットは心の中でそう思った。
「家の為だから君とは仕方なく結婚するが、私には関わらないで欲しい。君にも干渉しないと誓おう。外聞が悪いから、夜会などのエスコートはさせてもらうが、それだけだ」
ジェラルドは続け様に言った。
「君も真実の愛を見つけるといい。愛人を作っても良いが、我がテイラー家だけには迷惑をかけないで欲しい。使用人には言っておくから愛人を屋敷に呼んでも良いが、外で会うようなことはしないように」
(愛人を作っても良いなんて、お優しいこと。あら…?でも、ジェラルド様はどこで真実の愛のお相手様と会ってるのかしら…?)
マーガレットはジェラルドの言葉を聞きながら疑問に思っていた。
「私は離れでキャシーと過ごす。私の真実の愛の相手だ。君と顔を合わすことはないと思うが、離れには近づかないで欲しい」
ジェラルドはマーガレットが何も言わないのをいいことに、自分の要求を次々に伝えていった。
(真実の…長いからお相手様で良いわね。お相手様とは離れで逢引していたのね。誰も気付かなかったはずだわ…お父様も離れのことまでは知らなかったでしょうね…)
ここまで言っても何の反応もないマーガレットに苛立ちを覚えたのか、ジェラルドが強く言った。
「おい!聴いているのか?愛する私に真実を告げられて受け入れられない君の気持ちも理解できるが、なんとか言ったらどうなんだ?」
(愛する私って…私がジェラルド様を愛していると思っているのね…家の為の結婚はお互い様なのに…)
マーガレットはジェラルドの顔…の少し後ろの方を見ながら、なんと言って返事をしようか考えていた。
「……何を見ている?」
自分を見ているようで見ていないマーガレットに、不審に思ったジェラルドが聞いた。
「いえ、承知いたしました。私もジェラルド様を愛しておりませんし、愛も求めませんわ。愛人の件は…まだわかりませんが、どうぞお相手様と仲睦まじくお過ごし下さいませ」
「なっ!」
ジェラルドは驚愕した。
マーガレットに泣いて縋られたら面倒だと思っていたのだが、まさか涼しい顔してキャシーのことを肯定されると思っていなかったのだ。
自分勝手にも、面倒だと思いながらも縋られることを期待していたのだ。
「わかったのなら良い。初夜は行わない。私は今夜は離れで寝るし、これからも離れで生活をする。何かあれば使用人に言伝てを頼めばいい」
そう言ってジェラルドは、初夜が行われる筈だった寝室にマーガレットを残して離れに帰っていった。
(別居婚ということかしら…?今更離縁したって両家にも領民に迷惑がかかってしまうし…でも、何も干渉されないのなら自由で良いわよね。それにしても、本当に流行りの小説みたいなことが起きるのね…本の中だけなのかと思っていたわ。物語のように使用人達に虐められてしまうのかしら?)
マーガレットはどこかワクワクした気持ちになって、一人広いベッドで眠りについた。
マーガレットたちの住むクラレンス王国は、愛の女神アフロディーテを信仰する国だった。
浮気や愛人は懸念される事ではあるが、真実の愛だけは別だった。
真実の愛ならば仕方ない。
大々的にせず隠れて愛しあう事は暗黙の了解であり、誰も咎めたりはせず、寧ろ応援する者が多いくらいであった。
あくまでも『隠れて行われるもの』であるが…
かくいうマーガレットも
(真実の愛のお相手様と過ごせるなんて素敵ね!)
と、他人事のように思っていたのだった。
冷たい声で男は言った。
ここはクラレンス王国の東に位置する、テイラー領にある大きな屋敷の寝室。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同じ伯爵家の長女マーガレットが、三年の婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
本来ならば幸せの絶頂の中で初夜が行われるはずの時間。
それにも関わらず、ジェラルドはマーガレットに先程の言葉を冷たく言い放ったのだった。
自然が豊かな領地を持ち、様々な特産物を誇るジェラルドの生家のテイラー家。
人材育成に力を入れ、多くの職人と商人を抱えるマーガレットの生家であるケナード家。
両家による共同事業展開の為に取り決められた政略結婚だった。
多くの貴族と領民たちに期待されて、祝福された盛大な結婚式の後だった。
(まぁ、物語みたいなことって本当に起こるのね。でも、愛する人がいるなら私と結婚などしなければ良かったのに…何故今になって言うのかしら…?)
マーガレットは心の中でそう思った。
「家の為だから君とは仕方なく結婚するが、私には関わらないで欲しい。君にも干渉しないと誓おう。外聞が悪いから、夜会などのエスコートはさせてもらうが、それだけだ」
ジェラルドは続け様に言った。
「君も真実の愛を見つけるといい。愛人を作っても良いが、我がテイラー家だけには迷惑をかけないで欲しい。使用人には言っておくから愛人を屋敷に呼んでも良いが、外で会うようなことはしないように」
(愛人を作っても良いなんて、お優しいこと。あら…?でも、ジェラルド様はどこで真実の愛のお相手様と会ってるのかしら…?)
マーガレットはジェラルドの言葉を聞きながら疑問に思っていた。
「私は離れでキャシーと過ごす。私の真実の愛の相手だ。君と顔を合わすことはないと思うが、離れには近づかないで欲しい」
ジェラルドはマーガレットが何も言わないのをいいことに、自分の要求を次々に伝えていった。
(真実の…長いからお相手様で良いわね。お相手様とは離れで逢引していたのね。誰も気付かなかったはずだわ…お父様も離れのことまでは知らなかったでしょうね…)
ここまで言っても何の反応もないマーガレットに苛立ちを覚えたのか、ジェラルドが強く言った。
「おい!聴いているのか?愛する私に真実を告げられて受け入れられない君の気持ちも理解できるが、なんとか言ったらどうなんだ?」
(愛する私って…私がジェラルド様を愛していると思っているのね…家の為の結婚はお互い様なのに…)
マーガレットはジェラルドの顔…の少し後ろの方を見ながら、なんと言って返事をしようか考えていた。
「……何を見ている?」
自分を見ているようで見ていないマーガレットに、不審に思ったジェラルドが聞いた。
「いえ、承知いたしました。私もジェラルド様を愛しておりませんし、愛も求めませんわ。愛人の件は…まだわかりませんが、どうぞお相手様と仲睦まじくお過ごし下さいませ」
「なっ!」
ジェラルドは驚愕した。
マーガレットに泣いて縋られたら面倒だと思っていたのだが、まさか涼しい顔してキャシーのことを肯定されると思っていなかったのだ。
自分勝手にも、面倒だと思いながらも縋られることを期待していたのだ。
「わかったのなら良い。初夜は行わない。私は今夜は離れで寝るし、これからも離れで生活をする。何かあれば使用人に言伝てを頼めばいい」
そう言ってジェラルドは、初夜が行われる筈だった寝室にマーガレットを残して離れに帰っていった。
(別居婚ということかしら…?今更離縁したって両家にも領民に迷惑がかかってしまうし…でも、何も干渉されないのなら自由で良いわよね。それにしても、本当に流行りの小説みたいなことが起きるのね…本の中だけなのかと思っていたわ。物語のように使用人達に虐められてしまうのかしら?)
マーガレットはどこかワクワクした気持ちになって、一人広いベッドで眠りについた。
マーガレットたちの住むクラレンス王国は、愛の女神アフロディーテを信仰する国だった。
浮気や愛人は懸念される事ではあるが、真実の愛だけは別だった。
真実の愛ならば仕方ない。
大々的にせず隠れて愛しあう事は暗黙の了解であり、誰も咎めたりはせず、寧ろ応援する者が多いくらいであった。
あくまでも『隠れて行われるもの』であるが…
かくいうマーガレットも
(真実の愛のお相手様と過ごせるなんて素敵ね!)
と、他人事のように思っていたのだった。
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