君は、お、俺の事なにも知らないし、俺だって君の事知らないのに結婚て……? え? それでもいい?

猫宮乾

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―― 本編 ――

【017】ギルドランキング

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 ベッドに寝っ転がり、砂月は指輪を見ていた。

「結婚バフかぁ。嬉しすぎる」

 顔が自然とにへらと緩む。嬉しくて嬉しくてたまらないが、昨日は遼雅から依頼を受けたのだったと思い出す。だがそれはまたすぐに頭の片隅に消え、また指輪を見て頬を緩ませていた。

『情報屋! 砂月! 今いいかぁ!?』

 するとその時、【エクエス】の悠迅からフレンドチャットがとんできた。音声だ。気分を切り替えて、砂月は顔を引き締める。

「どうかしました?」
『【Genesis】が中難易度ボスを討伐したって話聞いたか?』
「無論です。それが?」

 情報屋でなくとも【Genesis】の件は、今街で大騒ぎだから多くの者が知っているだろう。今、【Genesis】といえば、一目置かれているギルドだ。やっと本気を出して動き始めたかという感想を抱いている者が多い様子だ。

『うちのギルド以外じゃ、多分初だから気になって。中難易度ボスを倒したギルド』
「ほう。【エクエス】はどのくらい倒してるんですか?」
『まだ三体だ。でもすぐに追いつかれるだろうな』
「覇権争いする感じですか?」

 さらりと砂月が問いかけると、悠迅が息を飲む気配がした。

『うちのギルドはそぉいうのは考えてない! 向こうは知らないけどもぉ!』
「なるほど」
『できたら【Genesis】と情報交換したいんだけどもよぉ。なにかとあそことうちはトップギルド同士として比較されてきたから絡みなくてさ。それでお前に何かしらないかチャット送ったんだよ、情報屋!』

 悠迅の声に、寧ろ【エクエス】の事よりは昨日も酒を飲んだ遼雅の【Genesis】のことのほうが知っている事柄は多いと思いつつ、ベッドから起き上がって砂月は膝を組んで座り直した。

「何が知りたいんですか?」
『攻略時の職構成とか、装備状況とか』
「いくら出せます?」

 昨日大体聞いたので、これはすぐにでも売れる情報だなと砂月は思った。

『そ、相場が分からん……』
「あー、そういう事なら、情報の物々交換でもいいですよ。これまで【エクエス】が倒したボスの時の職構成とか装備状況とか」
『えっ……それは……ちょっとギルマスに確認取らないと……』
「内密で攻略を進めてるんですか?」
『いやさぁ、迂闊に公表して、スキルの練度低い奴らが装備だけマネして現地にいって無残な死を遂げたら可哀想だろ? 装備だけじゃ、倒せるレベルのボスじゃないんだよぉ』

 悠迅の言うことには一理あるなと思いつつ、ふと砂月は昨日の遼雅とのやりとりを回想した。

「そういう事なら、【Genesis】のギルマスと会談する機会、仲介しましょうか?」
『えっ!?』
「トップギルド同士、そこで話したらいいし。あー、でも。向こうがギルマスが来るなら、【エクエス】もその方がいいかもですけど」
『それは……そうだよな。こっちばっかりサブマスの俺しか行かなかったら、下に見てるみたいになるよな……』
「うんうん」
『ちょっとギルマスと相談してまたチャットするわ!』

 こうして悠迅がフレンドチャットを打ち切った。それを確認してから立ち上がり、砂月はキッチンへと向かって珈琲を淹れる。

 そしてカップをゆっくりと傾けた時だった。

 ――ピロリロリーン。
 そんな音がした。

『はぁい! 女神ファリアでぇす!』

 すると頭の中に直接声が響いてくるような声がした。ハッとして砂月は身構える。これはVRMMORPGの頃から、緊急アップデートが行われるとあったアナウンスの形態だ。

『折角なのでギルドランキングを実装しました。ランキング順位は、特別クエストのボス攻略数や装備保持状況などで変動します。生産者の数でも動きますので、アウドドアなギルドからインドアなギルドまである意味平等ですからねっ! ギルドランキングは、各タウンのお知らせ掲示板で閲覧可能です! ではっ!』

 明るい声が響き終わった時、砂月は目を丸くした。
 これはいち早く見に行きたいと思い、カップをテーブルに載せてすぐ、砂月は家から出て都市へと降りた。ひと気が少なそうな硬砂都市ザンザへと向かう。

 そこは砂漠が主体のフィールドの中にあるのだが、日中は暑く夜は寒いため、在住しているプレイヤーが少ないと砂月は知っていた。それでもそこのお知らせ掲示板の前にも人だかりが出来ていた。これは他の都市ならばもっとすごいだろうと思いながら、掲示物を視覚操作で表示する。

【ギルドランキング】
1位:月に沈む
2位:エクエス
3位:Genesis
4位:一番星
5位:Harvest
6位:筑紫
7位:ハーマ
8位:リヒャルテ
9位:Endless
10位:ワルキューレ
11位:Lark

 そう表示されていた。ギルド名の横には【ギルメン数】【生産者数】【生産ポイント】【戦闘ポイント】【ボス討伐数】【装備状況】【備考】という、さらに詳細に見られるボタンがある。上位を見てみると、

 2位:エクエス:ギルメン数510人:生産者数25人:ボス討伐数13:装備状況:SS

 とあって、

 3位:Genesis:ギルメン数532人:生産者数2人:ボス討伐数6:装備状況:S

 この両者を比較すると、エクエスが抜き出ているのが分かる。なお、

 4位:一番星:ギルメン数327人:生産者数40人:ボス討伐数7:装備状況:S
 5位:Harvest:ギルメン数549人:生産者数549人:ボス討伐数0:装備状況:SS

 と、ある。ボス討伐数は0でもよいようだ。ポイントの集計基準はよく分からないが、フィールドのモンスターとの戦闘数や、生産した回数などでも算出される様子だ。備考には、ギルド紹介文という、VRMMORPGの頃から設定可能な紹介文が掲載されている。ギルマスの名前などもそこに書けるが、エクエスは【非公開】としてある。

 ギルマス名が非公開なのは、一位の【月に沈む】も同様だった。

 1位:月に沈む:ギルメン数1人:生産者数1人:ボス討伐数0:装備状況:SSS+

 それを見て、砂月は引きつった笑みを浮かべた。たらりと冷や汗が垂れていく。
 ギルド【月に沈む】――それは、現在砂月が所属している、砂月がマスターの、ソロギルドの名前だったからである。備考には、ギルメンの募集などをする気は端から無かったので何も記載していないし、マスター名も【非公開】設定のままだ。

 砂月は強ばった顔で笑いつつ、家に戻った。するとポストに沢山の手紙が届いた。

『【月に沈む】って聞いた事あるか?』
『【月に沈む】の情報が欲しい』

 そんな内容の手紙が多数のフレから届いていた。

「言えない。絶対に言えない。俺のギルドだなんて言ったら、装備提供とか求められそうで怖すぎる。静森くんに頼まれでもしたら別だけど、こればっかりは……まぁ遼雅くんくらいにはコソって言ってもいいかぁ、程度で墓場まで持っていこう……」

 装備状況はさすがにログアウト不可になる前に買いあさった成果と、元々所持していた結果だろう。生産はおにぎり弁当作りがよかったのかもしれない。だとしても、この状況で一位は決して嬉しくない。余計な騒動に巻き込まれそうで嫌だった。

「全部にとりあえず『知らない』って返して、あとはひとまず忘れよう」

 うんうんと頷き、砂月は冷めてしまった珈琲を流しに捨てた。


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