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―― 序章 ――
【三】前世の記憶
しおりを挟む目が覚めた瞬間、俺はびっしりと汗をかいていた。俺の赤い髪がこめかみに張り付いてくる。胸が早鐘を打っている。
――そうだ、そうだった!
俺は、『現代ニホン』からの転生者だった。俺はその事を、すっかり忘れていた。
現在の俺は、アルト・ペリデールという名前で、二十三歳。
王宮で文官をしている。
……ペリデール。
それは、『永遠のグリモワール』にも出てきたペリデール辺境伯と同じ名前だし、俺の兄であるペリデール辺境伯のバイルの容姿は、映画で見た色彩によく似ている。甦った前世の知識と、俺の境遇はそっくりだ。なお、映画に俺らしき人物は登場していないが、俺が暮らすこの国は、フェニキシア王国であり、映画やRPGと同一である。
ぶわっと吹き出した汗が止まらない。
俺は額に手を当てた。そこには魔法薬が塗りこめられた包帯が巻かれている。
おぼろげな記憶で、俺は昨日王宮の回廊で派手に転んで頭を打ったのだと思い出した。
その結果、俺には前世の知識が蘇ったらしい。
とてもただの夢だとは思えない。続いて右手の掌を見た俺は、何度か瞬きをした。
こちらの記憶と現代の記憶の両方が、俺の中には存在している。
現在は、王国歴1608年。
即ち、映画の時間軸の、ラストから見て三年後である。とっくに、映画の内容は終わっていた。この先の物語を俺は知らないが、『永遠のグリモワール』において、ジェイク・ブライトルは死ななかったし、存命していれば、現在二十七歳のはずだ。そして同じ歳の宰相補佐官であるロイ・ヴァルダイン……ジェイクから見ればある種の敵対的人物だった当人であるが、この人物は、少なくともこの世界に存在している。なにせ、俺の上司だ……兄も実在しているし……俺は、本当に『永遠のグリモワール』の世界、あるいはそれにそっくりな世界へとやってきたらしい。
「しかも俺は、推しを見守る壁になれる……?」
そう考えた途端、一転して今度は歓喜が俺の身を包んだ。そうだ、そうである、俺は、神様が能力を与えてくれたのだから――推しを見守る壁になれるはずだ! 神様は確か、『風景同化』と呼んでいたのではなかったか。
「本当に使えるのか?」
上半身を起こしながら思わず呟くと、俺の脳裏に魔法陣が自然と浮かんできた。
これは、やれそうだ。
「まずはバイル兄上あたりで試してから、推しを見に行こう……!」
そう考えたら、俺の表情は融解した。これからが楽しみでならなかった。
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