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金継ぎの青 上:ブルー編

金継ぎの青

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 「――いてっ」
 それが掌から抜け落ちたのは術日前日のことだった。
 増設神経管、触覚の補助を目的として植え付けられた黒いビス。皮膚との癒合が徐々に剥がされ、ここ数日ぐらぐらと不安定だったのを青井の指先が留めをさした。
 「……バルド、とれた……」
 「取れた、じゃねえこの馬鹿!半端に残るからいじるなって何度も言っただろ!!」
 青年の身元引受人たる大鬼が怒っている。消毒液で洗われた己の掌は中央を丸く刳りぬかれたかのようにくぼみ、神経に深く絡んでいた髭根ばかりが皮下に残された。あれほど煩わしかった感覚が遠い。触覚が指先に戻るにつれ、増設神経管は刺激を拾わなくなっていった。身体は異物として、この部位を排除しはじめている。
 「ブルー君よぉ、瘡蓋も途中で剥がすだろ。治りが遅くなる。痕も残るぜ、やめろよな」
 「痕も何も。……痒いんだよ」
 上半身フランケン状態の青年が不満げに首を傾げる。
 「ホラ手ぇかせ。ったく……せめてズールに喰わせてやれ。ヘタクソ、血が出てるじゃねえか」
 翌日、皮下に這っていた癒着部分を摘出し終えると、両手の穴には蓋が為された。サポーターには魔界で採掘された特殊合金が使われている。溶かした鉄を流し込んだかのように、虚ろはぴったりと埋められてしまった。

 ――両手を広げて、まじまじと見つめる。
 鈍い鉄色。光に翳すと表面が波打ったように瞬き、ぎらぎらと黄金に光る。
 「痛くねえか」
 「……ない」
 「ふん。なら上々、継いでやった甲斐がある」
 バルドはひどく満足げに、青井清一の手を取った。金色で継ぎ接ぎにされた掌へ大鬼の手が重ねられる。手の甲を頬ずりする鬼の表情は甘ったるい。睫毛の無いどんぐり眼がこちらを覗く。金冠の瞳に魅せられて、青年がおずおずと礼を言う。
 「……その、ありがとう。治してくれて」
 「――どういたしましてぇ。これからも尽くしてやるから覚悟しとけよ、清一」
 太い鬼の指が絡む。金継ぎの青が、番いを見上げて眩しそうに目を細めた。
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