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金継ぎの青 下:ブルー編

××の合間

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 絵に描いたような青空の下、バルドは伴侶を抱えて町のあちこちを練り歩いた。専門のリリスに高い渡し賃を払っただけはある。町には人っこひとり見当たらない。大鬼は己の嫁御を連れて海岸をぶらぶら歩き、野原と言えなくもない見晴らしの良い空き地でらしくもなく花を摘んでみたりした。清一はぐっすり寝入っていて、時折起きては辺りを見回してまた心地良さそうにバルドの外套に体を埋もれさせる。
 「……んす……ふす……」
 「よく寝てんなぁ。……よーしゃしゃ」
 「んひひ……んー」
 春風のそよぐ木陰で撫でくり回され、清一は朦朧と鬼の手を手繰る。
 「おっとと」
 うっかり潰してしまわないように己も身を横たえると、バルドの視界に抜けるような青が広がった。木立の影に入っているおかげで陽射しも気にならない。……隣では青年が満足そうに鬼の肩口に頭を埋めていて、バルドは内心旅程を早めなければならなかった己の不手際を悔やんだ。産後、意識がはっきりする時期に来られたなら、こいつはいろんな場所を自分で歩いて回れただろう。帰りたくとも帰れなかった場所を———人目を気にすることなく出歩くことができた。
 「……まあまた来ればいい話か」
 幸い滞在先はまだくたばりそうにない。バルドは空を飛ぶ鳥の影をぎろぎろ蠢く目で追った。
 鼻をくすぐる潮の匂い。平和惚けした鴎の鳴き声が眠気を誘った。くああ、と大きく欠伸を一つ。

 ———あの老婆らしく……全く清浄極まった穏やかな世界だ。

 「ねえ」
 ……声をかけられる者は限られている。バルドは頭上からこちらを見下ろしているブロンドの彼女に返事をした。
 「なんだ。……時間か」
 「ええ。彼女、もうすぐ起きるわ。一旦教会へ戻ってちょうだいな」
 言った端から———青空が翳り、黒雲が町の端を覆い始める。寝ている時と違い、起きている間は夢の裾野が折り畳まれる。滞在先である「彼女」が長く時を過ごしたある場所を除いて、辺りは夢の隙間……虚無に近い場所へ還される。うっかり呑み込まれると碌なことはない。
 「朝までどれくらいかかる?」
 「そうねえ、少なくとも半日はかかるわね。こちらの時間は向こうの倍あるから」
 「げええ……」
 「こっちも眠ってしまえばいいのよ。夢を借してもらえるまで、私たちも休みましょう」
 大鬼は立ち上がり、連れを抱えて教会へ戻り始めた。
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