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6巻

6-2

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「れ、レニーアちゃんに尊敬する人がいるの!?」

 クリスティーナさんへの礼儀を失した態度以上に、レニーアが敬意を抱く者が存在する事にイリナは心底驚いた様子だ。
 私達よりもレニーアとの付き合いが長いだろうこの少女にとって、レニーアが他者に関心を向ける事は余程の事と思えたのだろう。

「無論! そのうちのお一人は、こちらにおわすドランさんだ!!」

 ああ、うん。そういう反応をするよな、私の事を知ったレニーアなら。イリナは私の顔に穴を空けるかというくらいに視線を寄せてくる。

「ふむ」
「えっと、レニーアちゃんがお世話になっています?」

 別に君はレニーアの保護者ではないのだからそんなに気を遣わなくてもよかろうに、と私は内心で思わず呟いた。
 おそらく彼女は、人間関係の構築など欠片かけらも考えず、軋轢あつれきを山のように築いてきたレニーアの緩衝材かんしょうざいとなり、常日頃から色々な面で世話をしてきたのだろう。
 私はこれまでのイリナの苦労を思うと、涙がこみ上げてきそうだった。

「いや、うちのむす……レニーアの方こそ君に苦労を掛けてきただろう。何しろこんな性格だからね」
「え!? おと――ドランさん、私はそのような手間のかかる子供では……」

 慌てて立ちあがるレニーアを軽くあしらっていると、イリナは急に泣きじゃくり始めてしまった。

「う、ふうぇえええ、そ、そんな風に言ってくれたのは、どら、どら、ドランさんが初めてですよ~。レニーアちゃん、まるで私の言う事を聞いてくれなくって、いろんな人達に喧嘩けんかを売るし、め事起こすし、全然反省してくれなくって~」

 だろうな……と、当のレニーアとイリナを除くこの場に居た全員が思った事だろう。
 影のように控えているシエラでさえ、この短い付き合いでレニーアの性格を理解して同じ気持ちになっていたに違いない。
 レニーアはこれまでの失態をあばかれたとでも思っているのか、私とイリナの顔を交互に見てあたふたとしている。

「ほらほら、イリナちゃん、泣いちゃだめだよぉ。レニーアちゃんも、もうイリナちゃんを困らせるような事はしないよねえ~」

 すかさず席から立ち上がったファティマが、ハンカチを取り出してイリナの目元をぬぐいながら、レニーアに水を向ける。

「な、なぜ私が……!」

 レニーアは憮然ぶぜんとした様子だが、そこはファティマが一枚上手うわてだった。

「たぶんだけど、同じ事を繰り返したら~、ドランにあきれられちゃうよぉ」
「しない!」

 即答か。
 レニーアには随分懐かれたものだ。懐かれたとは少し違う気もするが、まあいい。
 ファティマに涙を拭われた事でイリナはようやく落ち着き、反省をちかうレニーアを半信半疑の瞳で見つめるのだった。
 ふむ、レニーアのこれまでの行いが行いだろうから、まず完全に信じ切るのは無理だろうなあ。
 レニーアを除くこの場の皆が嘆息たんそくしたところで、不意に女子りょうへと続く道の方から、よく響く女性の声が私の耳を打った。

「クリィイイスティーーナさんっ!!」

 今度の女性は私ではなくクリスティーナさんに用があるらしい。
 友達がいないのではないかと心配になるほど人付き合いがないクリスティーナさん目当てとは、珍しい。
 それにしても、なんと声の大きい事か。思わず耳を押さえそうになってしまったではないか。顔をしかめつつ後ろを振り返ったところ、私の目に黄金の輝きが飛び込んできた。
 そこには、意思の強さが良く見てとれる炎を思わせる赤い瞳が特徴的で、一目見ただけでも勝気で高圧的な印象を受ける美少女の姿があった。
 巻きぐせの強い金髪が陽光を跳ね返して私の目を焼かんばかりの勢いで輝いており、私達の背後から近づいてくるこの女生徒を豪華絢爛ごうかけんらんに飾りたてている。
 見る者を圧倒する、なんとも一方的な押しの強さを感じさせる雰囲気ふんいきき散らしていて、傍に居るだけでも息が詰まりそうだ。
 制服の徽章きしょうやリボンの色から、高等部三年生であると判断出来た。クリスティーナさんの級友だろうか?
 私がクリスティーナさんの横顔をうかがうと、なんとも言えないしかめっつらを浮かべており、彼女に苦手意識を抱いているらしいと一目で分かった。
 それにしても、クリスティーナさんがこのような感情をあらわにするとは珍しい。これは相当に根深いようだが、かといって嫌っているというわけでもない様子でもあるし、ふむ?

「フェニア、そんなに大きな声を出さなくても聞こえているよ。そのような行動は君の言う高貴なる者の振る舞いに相応ふさわしくないだろう」

 クリスティーナさんがそう返すと、フェニアと呼ばれた少女は芝居しばいがかった大袈裟おおげさな身振りと台詞せりふ回しでまくし立てた。

「あら、クリスティーナさん。わたくしの言った事を覚えていてくださったのですね。それにしても、あの誰の誘いも受けない事で有名なクリスティーナさんが! わたくしが何度誘ってもなしのつぶてだったクリスティーナさんが! 休憩時間も一人で窓辺に腰掛けて物憂ものうげにしているばかりのクリスティーナさんが! お茶会をしている姿に、このわたくしも流石に驚きを隠せず、淑女しゅくじょに相応しからぬ事ながら、ついつい興奮してしまいましたの」

 やたらとクリスティーナさんの名前と一人ぼっちぶりを強調しているが、要するにこのフェニアという女生徒はクリスティーナさんに構って欲しいらしい。
 クリスティーナさんに対する好意をありのままには表せぬ、ひねくれ者と言っては言い過ぎだが――素直すなおではない少女のようだな。


 クリスティーナさんはフェニアからのお茶会の誘いを断ったようだが、彼女のこの態度にも原因がありそうだ。
 私が突然の闖入者ちんにゅうしゃとクリスティーナさんの関係に興味を引かれた一方で、セリナやイリナ、ファティマは突然の事態にポカンと口を開けている。
 しかし皆が動きを止めた隙を突いて、ここぞとばかりにお菓子を口に詰め込むレニーアとネルの姿を私は見逃さない。行儀悪く頬を膨らませる二人に、視線で「めっ」としかっておいた。
 二人はしゅんと肩を落とすが、落ち込むくらいならせばいいのに、と思わずにいられない。
 そんな私達の様子に気付いたフェニアがこちらを見た。
 さて、愛しのクリスティーナさんと仲良くしている私達を相手に、この豪奢ごうしゃな女生徒から出てくる言葉はいかなるものであるや?

「お楽しみのところを突然お邪魔してしまってごめんなさい。わたくしはフェニア・フェニキシアン・フェニックス。ガロア魔法学院高等部の三年生ですわ。クリスティーナさんとはクラスメイトですの。先程言った通り、いつも一人のクリスティーナさんが誰かと一緒に居る姿に驚いてしまって、つい声を出してしまいましたわ。お騒がせしてしまって、本当にごめんなさいね」

 名前にやたらと〝フェニ〟が入っているのが気になるが……記憶を辿たどってみれば、苗字みょうじの通りに最高位の幻獣の一種であるフェニックスに由来する貴族のはずだ。
 王国北部でも一、二を争う大貴族の一族で、王国全土を見渡しても五指に入る名門である。
 建国以来の古参貴族とまではいかないが、一族の中にフェニックスを使い魔にした大傑物だいけつぶつがいて、そのフェニックスと共にいくつもの武勲ぶくんを立てた事により、家名をフェニックスと改めて、一大貴族への道を歩んだと記憶している。

「ところでクリスティーナさん、貴女あなたの〝お友達〟をご紹介してくださいません事?」

 フェニアがいかにも皮肉っぽくお友達、と強調した事からも、クリスティーナさんの普段の他人との没交渉ぼつこうしょうぶりが窺える。もうちょっと人と触れ合った方が人生は楽しいと思うがなあ。
 クリスティーナさんは苦笑しながらも、一人ずつ紹介を始めた。

「分かったよ。まずはファティマ・クリステ・ディシディア、ネルネシア・フューレン・アピエニア。二人とも二年生だ。それとファティマの使い魔のシエラ」

 クリスティーナさんに紹介された二人は、席から立ち上がってスカートをつまんで優雅に頭を下げた。シエラも主であるファティマにならって異国の礼を取る。

「初めまして~、フェニア先輩。ディシディア家三女ファティマ・クリステ・ディシディアです」
「ルオゼン・ゾラン・アピエニアが長女、ネルネシア・フューレン・アピエニア。去年の競魔祭きょうまさいではどうも」

 ファティマの方はフェニアと初対面のようだが、ネルの方は去年の魔法学院対抗試合、通称〝競魔祭〟で共に戦ったからか、フェニアと顔見知りであるようだ。
 家柄としてはフェニックス家の方も負けていないが、歴史の古さと重さならディシディア家とアピエニア家の方が上だな。ま、貴族年鑑で読んだだけのにわか仕込みの知識で判断すれば、だが。
 フェニアもよどみない仕草でファティマ達に返礼をする。指の先から髪の毛の先まで徹底して洗練された淑女の礼は、本当に先程大声を出した女性と同一人物なのかと疑わしくなるほどだ。

「続いて、こちらからレニーアとイリナ・エベナ・クラナン、二年生。レニーアもネル同様、去年の競魔祭に推薦されたから、名前は知っているだろう」
「ええ。もっとも、レニーアさんもクリスティーナさんも、推薦を受けたのにもかかわらず競魔祭には出場されませんでしたけれどね」
「ふん」

 レニーアはフェニアを一瞥いちべつしただけで興味を失ってしまったらしい。イリナの方は緊張しつつも律儀りちぎ挨拶あいさつをする。

「いい、イリナ・エベナ・クラナンです。ここ高名なフェニア先輩とお会い出来てこう、光栄です」
「ごきげんよう。レニーアさん、イリナさん。お楽しみのところを失礼いたしますわ」
「では、最後にベルン村のドランとその使い魔のセリナ。フェニアも噂くらいは耳にした事があるだろう。春休みに逗留とうりゅうした際に世話になって以来の縁で、親しくさせてもらっている。平民の生まれだからとあなどってはならないよ。歴戦の戦士と練達れんたつの魔法使いに竜を足したような使い手だ。私も見習うところが多い」

 クリスティーナさんが手放しに私を褒めた所為せいで嫉妬を覚えたのか、フェニアが私に向ける視線に一瞬剣呑けんのんな光がよぎった。
 クリスティーナさん、貴女はもう少し他者の感情の動きに気を配る事を覚えなさい。余計な対抗意識を持たれてしまったではないか。……というか、さりげなく竜とか言わない。
 セリナは使い魔という立場である以上、魔法使いとは一段格が下がる扱いを受けるのが普通であるから、紹介をされても対等に名乗る事はせず、会釈えしゃくするだけだった。
 私はファティマやネル達に倣って席を立ち、フェニアに頭を下げた。

「お目にかかれて光栄です。ベルン村のドランと申します。フェニックス様」
貴方あなたの噂はかねがね、わたくしも耳にしておりましてよ。あなたのように有能な人材がいれば、王国の未来も明るくなる事でしょう。よく勉学に励んでくださいな」
「お言葉、この胸に刻んでおきます」

 ふむ、ネルやファティマといった変わり者とは違って、一般的に平民が思い描く〝貴族らしい貴族〟にはじめて会ったような気がする。振る舞いが仰々ぎょうぎょうしい所為か、さほど傲慢ごうまんといった印象はないが、下手へたに親しげな態度はとれんわな。
 私は迂闊うかつに口をすべらせないように、そのまま黙って席に腰を下ろす。
 それきりフェニアの興味は私達から失われて、再びクリスティーナさんへと矛先を戻した。元からクリスティーナさんに声を掛けてきたのだから当然か。

「さて、クリスティーナさん。いつも一人ぼっちの貴女にもお友達がいるようで、正直に申しましてこのフェニアも安心しましたわ。こうしてお茶会の招きに応じられているようですし、今度からはわたくしのお茶会にもぜひ出席していただきたいものですわね」
「まあ、そうだな。以前から君の誘いを断ってばかりいたし、そろそろ一度くらいはお招きに預かるべきだろう。分かったよ、今度ばかりは君のお茶会に出席しよう。出来れば肩に余計な力を入れないで済む今みたいな場が好ましいのだが……そこは考慮してもらえるのかな?」

 降参したと肩を竦めたクリスティーナさんがそう言うと、途端にフェニアは顔を輝かせて大きく身を反らしながら高笑いを上げた。

「ふぅぉおおーーほっほっほっほっほ!! クゥウリィイスティイーーナさんがどうしてもと仰るのなら、ご要望通りにわたくしの、このわたくしの、フェ! ニ! ア! フェニキシアン! フェニックスの!! お茶会にお招きしてさしあげますわー。ああ、次のお茶会が楽しみですわね! では皆様、ご免あそばっせーー」

 来た時と同様に、なんともにぎやかな笑い声を上げながら去ってゆくフェニアを、私達は茫然ぼうぜんと見送った。
 まるで嵐だな、あれは。元気があり余っているのは決して悪くはないが、あれは過ぎた例だ。あまり参考にするべき人ではないかな?

「なかなか愉快な方だな、クリスティーナさん」

 私が同意を求めると、クリスティーナさんは顔を引きつらせながら応じた。

「ふふ、以前からあんな調子で私に声を掛けて来てくれる稀有けうな子さ。正直に言うと時々押しが強すぎて息苦しさを覚えてしまうが、嫌いにもなれない相手だよ」
「ふむ、確かにクリスティーナさんへの執着の凄まじさがよく窺えた」
「ちなみに彼女がガロア四強の四人目だよ。炎の不死鳥フェニックスを家名と家紋かもんに持つ〝金炎きんえんきみ〟フェニア。生徒の中では学院最高の火炎魔法の使い手さ」
「ふむ、人間は見かけと口ぶりによらないか」
「君も言うじゃないか。まあ、スラニアで会ったヴァジェのような真性の深紅竜しんくりゅうを知っていたら、人間の火炎魔法など大したものとは思えないかもしれないけれど。しかし、そろそろ競魔祭の予選会が始まるからね。彼女と顔を合わせる機会も増えるだろう」
「もうそんな時期か」

 この国にある五つの魔法学院の対抗試合である競魔祭は、夏休みが終わった後に王都で行われる。
 ガロア魔法学院では五人の出場選手のうち四人は、討伐系の依頼と模擬戦や戦闘系授業での成績上位者から自動選出されるはずだ。五人目の枠は予選会を勝ち抜いた一人に与えられるものだが、推薦を受けた四人の中に出場を辞退する者がいた場合は、予選会での成績順で代表入りする事になる。
 競魔祭の優勝校や上位入賞者には特別に希少な魔導書の閲覧えつらんや貸出許可、魔法具の提供や、魔法学院の予算の増額などが約束される為、各魔法学院はこの競魔祭に熱を入れる。

「今回は、クリスティーナさんやレニーアはどうするのだね?」
「今年は少し気が変わったから出場してみるよ。格好いいところを見せたい後輩が出来たしね」

 クリスティーナさんの言う〝格好いいところを見せたい後輩〟というのは、間違っていなければ私の事だろう。ふむん、良き先輩後輩の関係を築けているあかしかな?
 クリスティーナさんに対抗してか、頬を紅潮こうちょうさせたレニーアもガタンと音を立てて椅子から立ち上がり、声を大にして叫ぶ。

「私も出ます! ドランさんの御前ごぜん有象無象うぞうむぞうの生徒共を蹂躙じゅうりんしてご覧に入れます!」

 レニーアが父と慕う私の前で活躍して見せる絶好の機会だと考えているのが、手に取るように分かる。このような単純明快かつ極端なところは、私とカラヴィス双方の血を引いているのだと思わせるなあ。

「ふむ、優勝特典は毎回豪華だというし、競魔祭優勝校出身となれば卒業時にはくも付くだろう。私も出場しようかね?」

 恥ずかしながら、私も物欲と将来設計の為に、夏休み前に行われる予選会出場への意欲を燃やしつつあった。何せ人間が生きるのには、お金という物が必要なご時世なのである。


 第二章―――― 予選会




 きたる秋の魔法学院対抗試合〝競魔祭〟に出場する選手のうち、授業や依頼、模擬戦などの総合成績上位者から選出される四名こそが、ガロア魔法学院で言う〝四強〟である。
 四強の面子めんつは昨年から変わりなく、クリスティーナさん、ネル、レニーア、フェニア……一応フェニアさんと呼んでおくか、ふむ、フェニアさんだ。
 昨年の競魔祭では、人間の俗事ぞくじに興味を示さなかったレニーアと、人前に出る事を嫌ったクリスティーナさんが出場を辞退したので、別の三名が予選会で選ばれた。
 今年はというと、私の存在によってこの両者がやる気に満ちている為、四強全員が競魔祭に出場する事になる。したがって、予選会で選ばれるのは一人だけ。去年に比べると、随分狭き門になったわけだ。
 この五人目の枠に滑り込む為に、たった今私は、事務局で予選会への出場手続きを済ませてきたところだった。

「むむむう」

 と、隣で不服の想いを凝縮ぎょうしゅくさせたうなり声を出しているのは、私の可愛かわいい、使い魔のセリナである。
 魔法学院の中庭にある日当たりの良いベンチに腰を落ち着け、予選会の日時や決まりが記された冊子さっしに目を通していたところで、不意を突くセリナの不満爆発が起こった。

「そんなに唸っても何も変わらんよ。可愛いから、今のセリナを見ているのと聞いている分には良いがね」
「だって、使い魔の出場は競魔祭本戦も含めて認められないなんておかしいですよ。使い魔も魔法使いの技量を示す要素なのに!」

 そう、使い魔は競魔祭には出場出来ないのだ。
 とはいえ、戦闘には直接参加出来ないが、使い魔との契約による恩恵はそのままで構わない。私はラミアであるセリナとの契約によって魅了や麻痺まひの魔力に対する耐性が得られ、その一族の特性から水と土の魔力に対する親和性が高まっている。この他にもラミアが有する蛇の諸感覚器官の恩恵にあずかる事が出来る。ただ私とセリナの場合、セリナが私から受ける恩恵の方がはるかに大きいのは言うまでもないが。

戦働いくさばたらきを望む魔法使いの使い魔であっても、必ずしも戦闘向きとは限らないからな。セリナだって、犬猫やふくろうの使い魔を相手にしては心情的に戦い辛いだろう? はたから見てもラミアと小動物では一方的な虐殺ぎゃくさつにしか見えんよ」
「ぷ~~」

 私が宥めてもセリナは納得してくれない。
 セリナとしては私と共に予選会の舞台に立ち、立ちはだかる他の生徒達やその使い魔達をちぎっては投げ、ちぎっては投げの活躍をして、私に褒めてもらいたかったのだろう。

「あのフェニアさんだってフレイムコカトリスを使い魔にしていますし、クリスティーナさんだってフェニックスの幼鳥を使い魔にしていますよ! どっちもラミア以上に希少で強力な魔獣と霊獣れいじゅうですもん。私だって楽勝というわけにはいきませんもん! もんもん!」

 コカトリスはにわとりの体にうろこの生えた足などを持った巨大な魔鳥で、そのくちばしや吐息に、生物を石に変えてしまう凶悪な魔力を秘めた魔獣だ。
 その亜種であるフレイムコカトリスは、石化能力の代わりに火炎を操る力を身に付けたコカトリスである。原種のコカトリス同様に飛行能力はないが、下手な馬よりも速い俊足しゅんそくと持久力を有し、また成鳥になれば人間の三人や四人ぐらいなら余裕で背中に乗せられるだけの巨体にもなる。
 魔法学院生最高の火炎魔法の使い手であり、フェニックスを使い魔にした祖先を持つフェニアさんには実に相性の良い使い魔であろう。
 さて実は、と言うべきなのか、この使い魔の事もフェニアさんがやたらとクリスティーナさんにこだわる理由の一つとなっている。
 何せ祖先がフェニックスを使い魔にしたという逸話いつわを持つフェニアさんを差し置いて、クリスティーナさんは幼鳥とはいえ、フェニックスを使い魔にしているのである。
 生まれついての目立ちたがり屋であるフェニアさんにとって、周囲が注目して騒ぎ立てるクリスティーナさんの存在は目の上のたんこぶだったというのもあるだろう。
 そこに加えてクリスティーナさんがフェニックスを使い魔とした事で、フェニアさんの対抗意識は決定的になったに違いない。まあ、それでも二人を見ていて不安になる事はない。
 どう見たところでフェニアさんはクリスティーナさんを貶めようとするより、自らも並び立とうと必死の様子だし、内心では友達になりたくてなりたくて堪らないのだろう。傍から見ている分にはなかなか微笑ましい二人なのである。

「まあ、フェニアさんのフレイムコカトリスは立派な成鳥らしいが、クリスティーナさんのフェニックスはまだまだ子供だ。精々じっくりと時間を掛けて焼き鳥を焼くくらいの火力しかないよ」

 ふむ、そういえばフェニックスはうまくすれば半永久的に肉を焼き続ける事が出来るのだろうか? クリスティーナさんなら、試したいと申し出れば快く応じてくれるような気もするが、この考えは私の胸の内に秘めておこう。いや、食い意地の張った彼女の事だから、既に自分で試した後かもしれん。

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