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自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。~番外編~
アニメ完結記念番外編<バーティア、染まる。>
それはアルファスタ国の王太子である、私、セシル・グロー・アルファスタが、自称悪役令嬢な婚約者だったバーティアと結婚して、彼女を正式に妻に迎え入れて暫くした頃の事だった。
私達の結婚式の為に地方の貴族も王都に集まってきているこの時期、連日……とまではいかないが、王都では王家主催のものも含めて、多くのパーティーやお茶会が開かれ、貴族達は社交に勤しんでいた。
私達も結婚したばかりで、地盤固め……とまでは言わないが、国の結束を高める為に、王家主催のものや有力貴族の主催するパーティーやお茶会には、可能な範囲で出席していた。
「殿下、すみません! ちょっと……ちょっとだけお時間を……。えっとあの……最近はどうですか?」
私達の周りに挨拶を待つ貴族達が集まる中、ある貴族が自分の番になりタイミングを見計らって声を掛けてくる。
ただ、その様子は他と違って少し変だった。
具体的に言うと会話が目的というよりも、何というか……私の事をジッと凝視する事に集中している感じで、話の内容もよくわからない感じなのだ。
「お久しぶりですね。ソメイル伯爵。……最近はどう、というのは?」
「えっと……あ~、うん。もうちょっとこう明るめな感じ……いや……。え? あぁ、えっと、体調とかそういう感じ? ですかね?」
「私に訊かれても、ソメイル伯爵のお訊きになりたい事はわかりませんよ」
「ははは……そうですよね。すみません。……えっと……あぁ、もう大丈夫です」
全く会話に集中していないのが明らかなその様子に、苦笑しつつ対応していると、一方的に何かを納得した様子で彼は私のもとを去って行った。
「ソメイル伯爵、どうなさったんでしょう? 何だか落ち着かない様子でしたわ。心配ですわね」
「何だったのだろう」と内心首を傾げていると、私の隣に立ち、一緒に話を聞いていたバーティアが心配そうに眉尻を下げて首を傾げる。
「う~ん、よくわからないけれど、あの感じだと心配はいらないんじゃないかな?」
私が見た感じだと、彼は悩んでいるというよりも、自分のやりたい事があり、それを優先するが故に、本来大切にすべき私達への挨拶がおろそかになってしまったという感じだった。
「そうですわよね。今は奥様と笑顔でお話なさっていますし、きっとセシル様の仰る通り大丈夫だと思いますの!!」
私の言葉を受け、心配顔を笑顔に変えて納得したように頷くバーティア。
それに私も微笑みを向ける。
「さぁ、待っていてくれる人がいるよ」
「そうでしたの! ……ご無沙汰していますわ、シルターテ子爵、子爵夫人。先日は素敵なプレゼントを有難うございましたの」
ハッとしたように、私達の会話が終わるのを待ってくれていたシルターテ子爵夫妻に笑顔で声をかけ始めるバーティア。
「シルターテ子爵、私からもお礼を」
「いやはや。そんなに皇太子妃様に喜んで頂けるとは。職人と相談しながら拘って仕立てた甲斐があるというものですな」
「私も主人に意見を求められて、バーティア王太子妃様に似合うのはどんなものかと一緒に考えましたの。喜んで頂けて良かったですわ」
ニコニコと朗らかに答えるシルターテ子爵夫妻。ソメイル伯爵と違って、露骨に気が逸れているというわけではないが、その視線はソメイル伯爵同様、やけに強い。
さり気なさを装いつつ、何かを確認するように私達の顔をジッと見つめている。
会話をしているのだから、見られていてもおかしくないが、その視線の強さのせいか、妙な居心地の悪さを感じる。
その後も、度々そういう視線を向けてくるものがいた。
だからと言って、何かを言ってくるわけではないし、何処か変な所でもあるのかと思い、ゼノに視線で確認しても小さく首を振って否定される為、結局理由がわからない。居心地の悪い視線を受け続け、その日のパーティーは終わりを迎えた。
視線の種類から、大した事ではないのは予想できたし、調べるまでもないと思い、そのまま放置をしたが、その後も度々様々な所でそういう微妙な視線を感じる事が何度かあった。
ちょっとした疑問を感じつつも、特に興味を惹かれもしなかった為、スルーしていた。その謎が解けたのは、それから一週間程したある日の事だった。
***
「ティア、準備が整ったようだから、そろそろ行こうか」
「はいですの!」
今日は正式に王太子妃となった記念に、バーティアの為にドレスやアクセサリーを仕立てようと、大広間に、王家と付き合いのある商人や職人達を集め、所謂買い物をする事になっている。
今後も、必要に応じて商人や職人を呼んで、衣装や装飾品の類いは購入する事は何度もあるだろうが、今日は王太子妃になった記念としての贈り物を選ぶのが目的だからやや特別だ。
事前にめぼしい者に声を掛けて、品物を用意させ、それらを一堂に集めての買い物という形になる。
そんな形だから、商人も職人もかなり気合いが入っているらしい。
「でも、お父様もいっぱいドレスを買って持たせて下さったのに……本当に良いんですの?」
娘大好きなバーティアの父であるノーチェス侯爵は、バーティアの言うように、輿入れの際にたくさんのドレスや宝飾品を持たせてくれていた。
だから、ドレスの種類や枚数的には問題ない。宰相である侯爵が愛娘の為に用意した品々だけあって、品質も王太子妃に相応しいレベルの物ばかりだ。
ただ、そうは言っても王太子妃になった以上は、王家としても、私自身としても、持ってきたドレスや宝飾品だけで済ませる訳にはいかない。
沽券にも関わるからね。
その為、今日のこの時間がセッティングされたのだ。
「もちろんだよ。これからティアは私の妻……王太子妃として生活していく事になるんだからね。謂わば国の顔とも言える存在の一人となるんだよ。ご実家から持ってきたドレスや宝飾品だけで済ませるわけにはいかないし、王太子になった君に何も贈らないのは王家や王太子である私の沽券にも関わるからね。それに、散財は良くないけれど、王族が買い物をするのはお金を循環させる上でも大切な事だし、ある程度は必要な事なんだよ」
更に言うなら、貴族達は王族の動向をよく観察しているから、流行を作るのに一役買ったり、色々な効果があるんだけれど、そこまでは説明する必要はないか。
というか、今まで王太子妃教育を受け続けてきたバーティアなら、その辺の事はある程度理解しているだろうしね。
「な、なるほど。そうでしたわね。それでしたら、私も、遠慮なく程々にお買い物をさせて頂きますわ!!」
遠慮はないのに程々って、なかなかさじ加減が難しそうだけれど……まぁ、考え方としては間違っていない気もするからいいか。
それに、そう言いつつも、やはり内心では本当にそれで良いのか心配らしく、チラチラと私の反応をうかがっているバーティアが可愛いからね。
私はただ彼女を安心させる為に微笑み返し、小さく頷くだけにしておく。
「ここだね」
バーティアをエスコートして、商人や職人を集めている広間の前で足を止める。
ゼノに視線を向ければ、彼はすぐに察して、扉を開けてくれる。
扉の向こうは、ザワザワとしていたが、ゼノが声を掛けてから扉を開けるとピタリッとざわめきが止まり、視線が私達に向けられる。
更に、広間に集まった者達が一斉に私達に向かって頭を下げる。
その様子を見て、想定よりも人数が多かった事に驚いたのか、バーティアは自分達に集まる視線に一瞬ビクッとして、私の腕に掛かっていた手にも僅かに力が入る。
「……大丈夫だよ」
安心させるように耳元で小さく声を掛けた後、ソッと力の入っている彼女の手に自分の手を重ね、ポンポンと上から軽く叩く。
それだけで少しホッとした様子で体に無意識に入っていた力を抜いたバーティア。
「今日は私達の為に集まってもらって悪かったね。君達が持ってきてくれた品をゆっくり見させてもらうから、楽にしてくれていて良いよ」
そんな事を言われても本当に『楽』には出来ないだろう事はわかっているけれど、そういう事でお辞儀をした姿勢を戻し、彼等は仕事に移る事が出来る。
私の言葉を合図にしたように、お辞儀をしていた彼等はスッと頭を戻し、私達が見やすいように自分達が持ってきた品物の傍らに姿勢良く控えるようになった。
「さて、何処から見ていこうか」
「えっと……えっと……」
バーティアに声を掛けると、彼女はあまりの品物の多さにキョロキョロとしつつ、戸惑っている様子だった。
「王太子妃様。王太子妃様の為にとっておきの布地をご用意いたしました。良ければお手にとってご覧下さいませ」
バーティアのその様子を見た、一番近くにいた女性がニコニコと声を掛けてくる。
「妃殿下、こちらも是非ご覧下さい! 妃殿下となられたバーティア様にピッタリの大人っぽいデザインを取りそろえておりますのよ」
最初にバーティアに話し掛けて来た女性を押しのけるかのような勢いで、やや化粧の濃い、年配の女性が割り込んでくる。
「それでしたら、私どもの商品も是非。今までの可愛らしいお姿も素敵ですが、妃殿下に相応しい大人の女性を意識した美しい品々を取り揃えておりますので」
更に、そこに如何にも商人といった雰囲気の押しの強そうな男が割り込んでくる。
「それでしたら、こちらも是非」
「いえ、私どもの商品をご覧下さい」
「そんな物よりもこちらの方が妃殿下には合って……」
最初は様子見の雰囲気があったが、二人程強引に商品を勧めてくる者が出たタイミングで一気に会場の者がバーティアを取り囲み始める。
さすがに相手は王族だし、護衛の者もいる為、一定の距離は保ってはいるが、雰囲気的にはこちらまで押し寄せてきそうな感じだ。
「え? え? あの、私……」
バーティアはその勢いにたじたじになり、困惑している。
それでも、笑顔で一人一人の話に耳を傾けようとしているのは偉いけれど……それが、彼等を余計に増長させているようにも見える。
さて、どうしたものか。
そろそろ、私が止めに入った方が良いだろうか?
そんな思いでバーティアのもとに集まっている者達に視線を向けると、その内の半分くらいがビクッとして、すぐにサッとその場を離れる。
うん。察しの良い者は嫌いではないよ。
ただ、初めからバーティアが自ら来るまでその場で待機をしていた者達よりは評価が下がるけれど。
「み、皆様落ち着いて下さいませ。順番に! 順番に見させて頂きますから!!」
バーティアは残った空気を読まずに押せば行けると判断して、騒いでいる者達に一生懸命話すが……それでも聞く者と聞かない者がいる。
……空気を読まないどころか、王族の言葉を無視するような輩は、もう今後は切っていった方が良いだろうね。しっかりと顔を覚えておくからね。
さて、そろそろ助けに……
そう思った時だった。商人達の声にかき消されそうになりながらも部屋に小さなノックの音が響き、その後にバーティアの友人達が来ている事を伝える声が響く。
……何人かの目が新しい顧客の登場にキラリッと光ったね。
まぁ、彼女の友人達は社交界を引っ張っていく側の女性達だし、ジョアンナ嬢に至っては公爵令嬢な上に王子妃になる事が決まっている女性だ。
今回のメインはバーティアだとしても、気に入られれば後から取引の依頼が来るかもしれないしね。
顔を売っておいた方が良いのは間違いない相手だ。
「お邪魔しますわ。バーティア様がお買い物をされているとお聞きして、私共もご一緒させて頂けないものかとお願いに参りましたの」
友人達の先頭にいるジョアンナ嬢がやけに通る声でそう告げる。
口元を扇で隠し、周囲をチラッと見て状況を把握したようだ。
それは他の友人達も同様で、すぐさま私とバーティアのもとに来て、バーティアを守るように彼女と彼女に詰め寄っていた者達の間に割って入る。
当然、身分があり、有能で、社交界でも力を持ち、本人達は王太子妃の側近、夫となる者達は王太子の側近である彼女達の行動を止める事など、商売人である彼等は出来るわけもなく、そわそわしつつも大人しく場所を譲る。
一人だけ「ここが商機なのでは?」と空気を読み違えた者が「あの~」と声を掛けていたが、ジョアンナ嬢の威圧感たっぷりの微笑みを食らい「ひっ!」という小さい悲鳴と共に退散していった。
「ジョアンナ様! それにアンネ様、シンシア様、シーリカ様!!」
優しいが故に厳しい事も言えず、それでもこの場を収めないといけないと困っていたバーティアが、友人達の顔を見てパァァァッと顔を明るくする。
それにしても、バーティアの友人達は登場のタイミングが良すぎやしないか?
あぁ、クロが呼びに行ったんだね。
最後尾にいたシーリカ嬢の後ろからヒョコッと顔を出して、私の視線に気付いて無表情のままVサインをするクロを見て全て納得した。
私達と一緒にこの部屋に入室したクロだったけれど、ふと思い返してみれば、途中からその姿が見えなくなっていた。
おそらく、困っているバーティアとそれをすぐに助けない私を見て、ジョアンナ嬢辺りにここに来るように言いに行ったのだろう。
……まぁ、クロの場合、喋らないから『言いに』ではなく、正確には身振り手振りで来るように訴えただけだろうけれど。
それでもバーティアと付き合いの長い彼女達は、クロが動く時はバーティア関係の事がほとんどであり、自分の所に来て身振り手振りをすれば、とりあえず付いて行った方が良いだろうと察する事くらいは出来る。
そして、訪れたこの部屋の様子を見て、優秀な彼女達はすぐに状況を察して、助けに入ったに違いない。
「あの、えっと……」
友人達の姿に嬉しそうな顔を浮かべていたバーティアだけれど、私に気を遣ってか、彼女達を買い物に誘うかどうか迷っている様子でチラチラと私を見る。
折角だから、デートのような事が出来れば良かったけれど……空気の読めない者達もいて、二人でのんびり見て歩ける雰囲気じゃないし、むしろここは少し彼女達に譲ってわいわいガヤガヤと見た方がバーティアも楽しめるかもしれないね。
デートはまた今度、二人でのんびり楽しめる時にしておこう。
バーティアの視線に了承するように微笑みを返して頷く。
それを見てホッとした表情を浮かべるバーティア。
「さぁ、バーティア様、私達もお手伝いしますので、素敵なお洋服や宝飾品を選びましょう?」
バーティアが私の妃になるにあたり、彼女付きの女官になったシーリカ嬢が笑顔でバーティアを促す。
「乗馬用のお洋服とかも必要なようでしたら、そちらも誂えましょう。私、お力になれると思いますわ」
同じくバーティア付きの女官になったシンシア嬢が微笑みながらバーティアに付添う。
彼女達は、まだ女官になって日も浅いというのに、自分達の役割をしっかりと理解しているようだ。
バーティアが好みそうで、先程のように押し売りのような事をしない、キッチリとした者の所にさり気なく促している。それを見て寄っていこうとしたものも視線や身振りでそれとなく牽制してくれている。
「さすがバーティア様の為に集められた方々ですわ。アルファスタ国以外の国の品物もあって、とても勉強になりますし面白いです」
そんな様子を微笑ましそうに見守りながら、一歩引いて後を付いていくアンネ嬢。
彼女は外交を中心に頑張って働いているチャールズの力になる為に、他国の事について勉強をしている。
今日は場面を想定した衣装を作る為の買い物ではなく、結婚に伴いいくつか見繕おうという形での買い物の為、品物の方向性の幅が広い。
アルファスタ国風の品物もあれば、他国の物もそれなりにある。
国外に意識が向いているアンネ嬢としては、参考になる物も多く、見ているだけでも楽しいだろう。
……アンネ嬢は上位貴族ではあるけれど、それでも王家が集めるレベルの商人や職人を家にそう簡単に集める事は出来ないだろうしね。
「……で、ジョアンナ嬢は行かないのかい?」
女性陣がお喋りをしながら買い物を始めたのをとりあえず一旦見送って、様子を見ようと思っていたら、ジョアンナ嬢だけその場を離れずに残っていた為、声を掛ける。
「参りますわよ。私だって、バーティア様とのお買い物を楽しみたいですもの。ただ一言言わせて頂こうと思いまして」
「何だい?」
「何故すぐにバーティア様をお助けにならなかったんですの?」
顔を扇で隠しつつ、チラッとこちらに向けてくる視線に批難の意思が宿っている。
「そろそろ助けに入ろうとは思っていたんだけどね。ただ、ティアが頑張っていたから少し様子を見ようかなと思って」
「……少し慌てているバーティア様を見て楽しんでいらっしゃいませんでした?」
「気のせいだよ」
少しワタワタとしている所が可愛いなと思ってはいたけれど、メインは相手の商人や職人の評価や今後の対応を考えていたからね。
だから、そんな目で見ないでくれないかな?
「さぁ、そろそろ私達も行こうか」
そう言って、既に先にドレスに使う布を見て歩いているバーティア達のもとへと促す。
「……仕方ありませんね」
私がさっさと会話を切り替えたのを見て、呆れ顔だが軽く肩を竦めるだけでジョアンナ嬢も動き始める。
「バーティア妃殿下、是非私共の商品をご覧下さい。バーティア妃殿下にお似合いの黄色の布地を取り揃えております」
「私共は青の布地を取り揃えております!」
バーティア達が一通り見て回る中で足を止めた場所。
そこには……やけに見慣れた色合いの黄色や青の布地がずらりと並べられている。
「……黄色いね」
「黄色いですわね」
「青いね」
「青いですわね」
何となくそこに行きにくさを感じて一歩手前で足を止めて呟くと、私の呟きに呼応するようにジョアンナ嬢も呟き足を止める。
反応に困り苦笑いを浮かべて動けずにいる私達と違い、バーティアは目をキラキラと輝かせている。
シーリカ嬢とシンシア嬢、それにアンネ嬢も、苦笑いを浮かべながらも何処か微笑ましいものを眺めるような生暖かい視線で嬉しそうなバーティアを見つめている。
「あれは……ソメイル伯爵とシルターテ子爵の所だね」
そういえば、ソメイル伯爵の領地は染め物で有名な所だし、シルターテ子爵の領地は優秀なお針子やデザイナーを集めてファッションの都として大成した所だ。
今回集めた者達の中でも、特に力のある商人や職人達が集まっており、あてがわれているスペースも広い。
広いんだけど……それにしても、その一角だけ異様に黄色と青が多過ぎる。
どう考えても、ソメイル伯爵とシルターテ子爵の所だけではない。
……なるほど。
バーティアがよく黄色や青の物を身に付けると聞きつけて、その色合いの物を多く仕入れて持ってきていた者達が複数いたわけか。
それを見て、会場を整える担当の者が、どうせなら見やすいようにそういった方針の店を一カ所に集めたのだろう。
バーティアの黄色と青をよく身に付けるという情報を耳にした事がある者達で、その方針に行き着かなかった者達は、バーティアの嬉しそうな表情を見て悔しそうな顔をしている。
反対に、そういった前情報を上手く集める事が出来なかった者達は、何故黄色や青ばかりなのかと首を傾げると同時に、「あれでは売れないだろう」とやや呆れを含んだ表情で見つめている。
この辺の情報を収集して上手く活かす力というのも大切だ。
「バーティア妃殿下、当家自慢の黄色と青の布地をご用意しました。是非、お手にとってご覧下さい」
「私共も、様々な柄の黄色や青の布地や宝飾品をご用意致しましたぞ。お気に召すものがありましたら是非ともお手に取ってご覧下さい。特にこの辺などはお勧めですぞ」
ソメイル伯爵とシルターテ子爵の言葉を皮切りに、ニコニコと笑顔を浮かべた者達が、自分の店の商品……特に一押しの青や黄色の商品を見えやすいように前に出し始める。
先程の様子を遠巻きに見ていた者達ばかりだからか、強引に勧めてきたり声を掛けてきたりする事はないけれど、その視線はバーティアがどれを選ぶのかという期待と興味の入り交じったものだった。
「まぁ、素敵ですわ!! えっと、えっと……」
バーティアがキラキラと輝く目でその一角の商品をジッと見て歩く。あまりにも夢中だからなのか、彼女の友人達は苦笑いで付いていくばかりで、ほとんど話し掛けず見守っている感じだ。
「あ、これは!!」
ジーッと並べられた商品を見ていたバーティアの足がある店の前で止まり、置かれていた商品の一つを手に取る。
自分の持ってきた商品が選ばれる事を祈りながらバーティアの動向を見つめていた者達が、一人を除いて一気に悔しそうな表情を浮かべる。
「これ……」
バーティアが黄色い布を手に私の方を見る。
それから何度も手にした布と私を見比べて、満足そうな顔をする。
「これでドレスを仕立てたいですわ……って、貴方もいらしていたんですの?」
手にした布を大事そうに抱えたバーティアが布に向けていた意識をその店の担当者へと向ける。
どうやら知り合い……というか、あの感じだとバーティアがよく仕立てを頼んでる店のようだね。
「くっ。やはり、今までバーティア妃殿下監修で殿下の色を極め続けた店には勝てないか」
「無念」
選ばれなかったソメイル伯爵とシルターテ子爵が悔しそうな表情をする。
……君達、少し前に私の事をやたらと凝視していたのは、バーティアに勧める為の黄色と青を選ぶ為だったんだね?
私が悪いんじゃないんだから、選ばれなかったそれぞれの一押しの布地を手に、私を恨めしそうな目で見ないでくれないかな?
「あ、でも、こちらの青も、こちらの黄色も素敵ですわ。後、このブレスレットも」
今まで見て歩きはしても、特に「これが良い」とは言わなかったバーティアが、最初の一つを選んだ後、すぐに複数の商品を選ぶ。
……どれも黄色と青。それもより私の髪と瞳の色に近い物ばかりを選んでいるのが、何ともこそばゆい。
ちなみに、最初に選ばれたわけではないが、わざわざ私を見て色味の調整をしていたソメイル伯爵とシルターテ子爵の一押しも、その後の選定には無事受かったようだ。
「……あの、バーティア妃殿下。こちらも光沢があって良い品だと思うのですが如何でしょう?」
選考漏れした商人の内の一人が、勇気を出して自分の一押しを勧める。
「まぁ、綺麗な布ですの。織り模様も素敵ですわ! でも……ちょっと色味が私の好みより薄いんですの」
当然の事だけれど、勧められた物を全て買うわけにもいかない為、バーティアは申し訳なさそうにそれを断る。
うん。確かに私の髪色にしては、薄いというか白っぽい感じがするね。
「そうですか……。自信作だったのですが」
その商人はどうやら、染色の技術者でもあったらしく、自分の自信作だった商品を悲しそうな目で見つめる。
そんな彼を見て、バーティアはどう声を掛ければ良いかと迷っているようだった。
「大丈夫ですわ。今は好みではなくても、徐々に好みは変わっていくものですもの。何年か後には、そのように白っぽさが増す可能性もありますよ」
バーティアに助け船を出すように、商人に声を掛けたシーリカ嬢。
……君、その「好みが変わる」っていうのは、私の髪の色が白へと変わっていくという意味かい?
間違いではないけれど、失礼だとは思わないのかな?
チラッとこちらを見たシーリカ嬢が、私の微笑みを見てスッと視線を逸らす。
正直、そういうのはジョアンナ嬢の役割だと思っていたよ。
「……なるほど。好みは変わる。確かにそうですね! 抜ける可能性もありますけど、白くなる可能性の方が高そうですものね。彼のお方も今の所そうですし」
商人の目に希望が芽生え、自信作の布をギュッと抱きしめる。
きっと、あの布が日の目を見るまで大事に保管する決意をしたのだろう……けれど。
それは良いんだよ。それは。
ただ、何故チラチラと私の髪を見るのかな?
しかも、『彼のお方』って私の父上、国王陛下だよね?
無礼って言葉を君は……君達は知っているのかな?
「セシル様! 見て下さいませ! セシル様のお髪や瞳の色によく似た綺麗な黄色や青がたくさんありましたの! 私、これでドレスを作ったら幸せな気分になれる気がしますわ」
選んだ布や宝飾品の一部を持って、バーティアが嬉しそうに報告する。
「私の色で良いのかい?」
「私はこの色が好きなんですの。……この色を自信を持って好きと言えるのが幸せなんですの!!」
「……そうかい」
満面の笑顔で告げられた言葉に、思わず胸に温かくもくすぐったい何かが芽生える。
「セシル様、ドレスのデザインとか色々見させてもらったり相談したりしてきますわ!!」
私に何とも言いがたい感情を投げ入れた当人は、そのままの勢いで戻っていき、再び会場内を散策し始める。
「……顔にしまりがありませんわよ」
「私はポーカーフェイスに自信がある方なんだけどね」
「殿下と付き合いの薄い者ならわからないかもしれませんけれど、付き合いの長い私達にとっては見るも無惨な程ですわ」
私の隣にいた為、私同様取り残されたジョアンナ嬢が、ボソリッと小声で言ってくる。
「それにしても……バーティア様は、本当に黄色と青がお好きですわね」
「そうみたいだね」
「自分で言っていて恥ずかしくないんですの?」
「事実だし、自惚れでもない自信があるからね」
「左様ですか。……あ、そう言えば」
ふと思い出したように僅かに顔を上げ虚空を見上げたジョアンナ嬢が、次の瞬間、扇越しでもわかる位の意地の悪い笑みを浮かべる。
「バーティア様はご結婚なさる前からよく、黄色と青を身に付けておりましたわね」
「そうだね。小さい頃からずっとそうだよ」
何が言いたいんだろう?
「以前にバーティア様からお聞きした事があるのですが、ウエディングドレスが白い理由の一つに『貴方の色に染まります』という意味があるそうなんですけれど……」
「それがどうしたんだい?」
持って回ったような口ぶりに、きっとろくな事ではないんだろうと思いつつも先を促す。
「元々殿下の色に染まっていたバーティア様が何色にも染まっていない白を着用されると、まるで一度殿下の色から漂白されたようですわね」
「ジョアンナ嬢?」
意地悪くクスクス笑うジョアンナ嬢を一瞥する。
「そんな、冗談ですわよ。現に今も同じ色を選んでいる時点で、染め直しても結局殿下色という事ですもの。この程度の冗談を受け流せないなんて、殿下は器が小さいのではなくて?」
「そうだね。私はティアに関する事については器が小さくなるみたいだ。だから……ちょっとした仕返しをしても良いよね?」
「あら、怖いですわ~。バーティア様に助けを請わなくては……」
「ジョアンナ嬢?」
「それでは失礼を」
言葉とは裏腹に、全く怖がる素振りを見せないジョアンナ嬢は、そのままバーティア達のもとへと向かっていった。
「全く」
その悪びれもしない様子に、呆れつつ小さく嘆息する。
「まぁ、彼女の言う通り、ティアがこうして今も私の色を好きな色と言ってくれている事実が大切だよね」
一人そう呟いて、友人達に囲まれて楽しそうに笑っているバーティアに視線を向ける。
彼女は私の色を身に付けると幸せだと言った。
私は彼女が私の色を身に付けているのを見ると、多分幸せだと感じているのだと思う。
「私も彼女の色の物をいくつか見繕って購入しようかな?」
そう呟く自分の口元に自然と笑みが浮かんでいるのを感じる。
あぁ、私は今幸せだ。
余談だが、この後、バーティアの色の物をいくつか購入しようとしたのだが……。
商人達はバーティアの為には、私の色を好むだろうと大量の青と黄色を用意し、それを勧めた。
それならば、同じく新婚である私にも彼女色の物を勧めれば良いのに……何故か私が勧められたのは黒系統の物ばかりだった。
何故黒なのかと尋ねると「それは殿下だからです」としか答えられない。
納得のいかないものを感じている私に対して、背後に控えていたゼノは口を押さえて笑いを堪えながら「魔王と腹黒にはやはり黒……」と呟いていた。
ゼノに対しては、八つ当たり……やって欲しい仕事リストを脳内に作りつつ、さてどうしたものかと考えていたら、私が品物を選んでいるのに気付いたバーティアが様子を見に来てくれて、「深紅の物が欲しかったんだけど……」と答えると、少し照れくさそうに「黒に深紅は良く映えますの」と言って、何処からか深紅のカフスを探してきてくれて、提示されていた黒の布にソッと合わせてくれた。
そんな彼女に、「あぁ、良いね」と笑みを返し、私は再び温かな気持ちになった。
……まぁ、黒ばかりをしつこく勧めて来た者達に対しては、小さな報復はしようと思うけれど。
私達の結婚式の為に地方の貴族も王都に集まってきているこの時期、連日……とまではいかないが、王都では王家主催のものも含めて、多くのパーティーやお茶会が開かれ、貴族達は社交に勤しんでいた。
私達も結婚したばかりで、地盤固め……とまでは言わないが、国の結束を高める為に、王家主催のものや有力貴族の主催するパーティーやお茶会には、可能な範囲で出席していた。
「殿下、すみません! ちょっと……ちょっとだけお時間を……。えっとあの……最近はどうですか?」
私達の周りに挨拶を待つ貴族達が集まる中、ある貴族が自分の番になりタイミングを見計らって声を掛けてくる。
ただ、その様子は他と違って少し変だった。
具体的に言うと会話が目的というよりも、何というか……私の事をジッと凝視する事に集中している感じで、話の内容もよくわからない感じなのだ。
「お久しぶりですね。ソメイル伯爵。……最近はどう、というのは?」
「えっと……あ~、うん。もうちょっとこう明るめな感じ……いや……。え? あぁ、えっと、体調とかそういう感じ? ですかね?」
「私に訊かれても、ソメイル伯爵のお訊きになりたい事はわかりませんよ」
「ははは……そうですよね。すみません。……えっと……あぁ、もう大丈夫です」
全く会話に集中していないのが明らかなその様子に、苦笑しつつ対応していると、一方的に何かを納得した様子で彼は私のもとを去って行った。
「ソメイル伯爵、どうなさったんでしょう? 何だか落ち着かない様子でしたわ。心配ですわね」
「何だったのだろう」と内心首を傾げていると、私の隣に立ち、一緒に話を聞いていたバーティアが心配そうに眉尻を下げて首を傾げる。
「う~ん、よくわからないけれど、あの感じだと心配はいらないんじゃないかな?」
私が見た感じだと、彼は悩んでいるというよりも、自分のやりたい事があり、それを優先するが故に、本来大切にすべき私達への挨拶がおろそかになってしまったという感じだった。
「そうですわよね。今は奥様と笑顔でお話なさっていますし、きっとセシル様の仰る通り大丈夫だと思いますの!!」
私の言葉を受け、心配顔を笑顔に変えて納得したように頷くバーティア。
それに私も微笑みを向ける。
「さぁ、待っていてくれる人がいるよ」
「そうでしたの! ……ご無沙汰していますわ、シルターテ子爵、子爵夫人。先日は素敵なプレゼントを有難うございましたの」
ハッとしたように、私達の会話が終わるのを待ってくれていたシルターテ子爵夫妻に笑顔で声をかけ始めるバーティア。
「シルターテ子爵、私からもお礼を」
「いやはや。そんなに皇太子妃様に喜んで頂けるとは。職人と相談しながら拘って仕立てた甲斐があるというものですな」
「私も主人に意見を求められて、バーティア王太子妃様に似合うのはどんなものかと一緒に考えましたの。喜んで頂けて良かったですわ」
ニコニコと朗らかに答えるシルターテ子爵夫妻。ソメイル伯爵と違って、露骨に気が逸れているというわけではないが、その視線はソメイル伯爵同様、やけに強い。
さり気なさを装いつつ、何かを確認するように私達の顔をジッと見つめている。
会話をしているのだから、見られていてもおかしくないが、その視線の強さのせいか、妙な居心地の悪さを感じる。
その後も、度々そういう視線を向けてくるものがいた。
だからと言って、何かを言ってくるわけではないし、何処か変な所でもあるのかと思い、ゼノに視線で確認しても小さく首を振って否定される為、結局理由がわからない。居心地の悪い視線を受け続け、その日のパーティーは終わりを迎えた。
視線の種類から、大した事ではないのは予想できたし、調べるまでもないと思い、そのまま放置をしたが、その後も度々様々な所でそういう微妙な視線を感じる事が何度かあった。
ちょっとした疑問を感じつつも、特に興味を惹かれもしなかった為、スルーしていた。その謎が解けたのは、それから一週間程したある日の事だった。
***
「ティア、準備が整ったようだから、そろそろ行こうか」
「はいですの!」
今日は正式に王太子妃となった記念に、バーティアの為にドレスやアクセサリーを仕立てようと、大広間に、王家と付き合いのある商人や職人達を集め、所謂買い物をする事になっている。
今後も、必要に応じて商人や職人を呼んで、衣装や装飾品の類いは購入する事は何度もあるだろうが、今日は王太子妃になった記念としての贈り物を選ぶのが目的だからやや特別だ。
事前にめぼしい者に声を掛けて、品物を用意させ、それらを一堂に集めての買い物という形になる。
そんな形だから、商人も職人もかなり気合いが入っているらしい。
「でも、お父様もいっぱいドレスを買って持たせて下さったのに……本当に良いんですの?」
娘大好きなバーティアの父であるノーチェス侯爵は、バーティアの言うように、輿入れの際にたくさんのドレスや宝飾品を持たせてくれていた。
だから、ドレスの種類や枚数的には問題ない。宰相である侯爵が愛娘の為に用意した品々だけあって、品質も王太子妃に相応しいレベルの物ばかりだ。
ただ、そうは言っても王太子妃になった以上は、王家としても、私自身としても、持ってきたドレスや宝飾品だけで済ませる訳にはいかない。
沽券にも関わるからね。
その為、今日のこの時間がセッティングされたのだ。
「もちろんだよ。これからティアは私の妻……王太子妃として生活していく事になるんだからね。謂わば国の顔とも言える存在の一人となるんだよ。ご実家から持ってきたドレスや宝飾品だけで済ませるわけにはいかないし、王太子になった君に何も贈らないのは王家や王太子である私の沽券にも関わるからね。それに、散財は良くないけれど、王族が買い物をするのはお金を循環させる上でも大切な事だし、ある程度は必要な事なんだよ」
更に言うなら、貴族達は王族の動向をよく観察しているから、流行を作るのに一役買ったり、色々な効果があるんだけれど、そこまでは説明する必要はないか。
というか、今まで王太子妃教育を受け続けてきたバーティアなら、その辺の事はある程度理解しているだろうしね。
「な、なるほど。そうでしたわね。それでしたら、私も、遠慮なく程々にお買い物をさせて頂きますわ!!」
遠慮はないのに程々って、なかなかさじ加減が難しそうだけれど……まぁ、考え方としては間違っていない気もするからいいか。
それに、そう言いつつも、やはり内心では本当にそれで良いのか心配らしく、チラチラと私の反応をうかがっているバーティアが可愛いからね。
私はただ彼女を安心させる為に微笑み返し、小さく頷くだけにしておく。
「ここだね」
バーティアをエスコートして、商人や職人を集めている広間の前で足を止める。
ゼノに視線を向ければ、彼はすぐに察して、扉を開けてくれる。
扉の向こうは、ザワザワとしていたが、ゼノが声を掛けてから扉を開けるとピタリッとざわめきが止まり、視線が私達に向けられる。
更に、広間に集まった者達が一斉に私達に向かって頭を下げる。
その様子を見て、想定よりも人数が多かった事に驚いたのか、バーティアは自分達に集まる視線に一瞬ビクッとして、私の腕に掛かっていた手にも僅かに力が入る。
「……大丈夫だよ」
安心させるように耳元で小さく声を掛けた後、ソッと力の入っている彼女の手に自分の手を重ね、ポンポンと上から軽く叩く。
それだけで少しホッとした様子で体に無意識に入っていた力を抜いたバーティア。
「今日は私達の為に集まってもらって悪かったね。君達が持ってきてくれた品をゆっくり見させてもらうから、楽にしてくれていて良いよ」
そんな事を言われても本当に『楽』には出来ないだろう事はわかっているけれど、そういう事でお辞儀をした姿勢を戻し、彼等は仕事に移る事が出来る。
私の言葉を合図にしたように、お辞儀をしていた彼等はスッと頭を戻し、私達が見やすいように自分達が持ってきた品物の傍らに姿勢良く控えるようになった。
「さて、何処から見ていこうか」
「えっと……えっと……」
バーティアに声を掛けると、彼女はあまりの品物の多さにキョロキョロとしつつ、戸惑っている様子だった。
「王太子妃様。王太子妃様の為にとっておきの布地をご用意いたしました。良ければお手にとってご覧下さいませ」
バーティアのその様子を見た、一番近くにいた女性がニコニコと声を掛けてくる。
「妃殿下、こちらも是非ご覧下さい! 妃殿下となられたバーティア様にピッタリの大人っぽいデザインを取りそろえておりますのよ」
最初にバーティアに話し掛けて来た女性を押しのけるかのような勢いで、やや化粧の濃い、年配の女性が割り込んでくる。
「それでしたら、私どもの商品も是非。今までの可愛らしいお姿も素敵ですが、妃殿下に相応しい大人の女性を意識した美しい品々を取り揃えておりますので」
更に、そこに如何にも商人といった雰囲気の押しの強そうな男が割り込んでくる。
「それでしたら、こちらも是非」
「いえ、私どもの商品をご覧下さい」
「そんな物よりもこちらの方が妃殿下には合って……」
最初は様子見の雰囲気があったが、二人程強引に商品を勧めてくる者が出たタイミングで一気に会場の者がバーティアを取り囲み始める。
さすがに相手は王族だし、護衛の者もいる為、一定の距離は保ってはいるが、雰囲気的にはこちらまで押し寄せてきそうな感じだ。
「え? え? あの、私……」
バーティアはその勢いにたじたじになり、困惑している。
それでも、笑顔で一人一人の話に耳を傾けようとしているのは偉いけれど……それが、彼等を余計に増長させているようにも見える。
さて、どうしたものか。
そろそろ、私が止めに入った方が良いだろうか?
そんな思いでバーティアのもとに集まっている者達に視線を向けると、その内の半分くらいがビクッとして、すぐにサッとその場を離れる。
うん。察しの良い者は嫌いではないよ。
ただ、初めからバーティアが自ら来るまでその場で待機をしていた者達よりは評価が下がるけれど。
「み、皆様落ち着いて下さいませ。順番に! 順番に見させて頂きますから!!」
バーティアは残った空気を読まずに押せば行けると判断して、騒いでいる者達に一生懸命話すが……それでも聞く者と聞かない者がいる。
……空気を読まないどころか、王族の言葉を無視するような輩は、もう今後は切っていった方が良いだろうね。しっかりと顔を覚えておくからね。
さて、そろそろ助けに……
そう思った時だった。商人達の声にかき消されそうになりながらも部屋に小さなノックの音が響き、その後にバーティアの友人達が来ている事を伝える声が響く。
……何人かの目が新しい顧客の登場にキラリッと光ったね。
まぁ、彼女の友人達は社交界を引っ張っていく側の女性達だし、ジョアンナ嬢に至っては公爵令嬢な上に王子妃になる事が決まっている女性だ。
今回のメインはバーティアだとしても、気に入られれば後から取引の依頼が来るかもしれないしね。
顔を売っておいた方が良いのは間違いない相手だ。
「お邪魔しますわ。バーティア様がお買い物をされているとお聞きして、私共もご一緒させて頂けないものかとお願いに参りましたの」
友人達の先頭にいるジョアンナ嬢がやけに通る声でそう告げる。
口元を扇で隠し、周囲をチラッと見て状況を把握したようだ。
それは他の友人達も同様で、すぐさま私とバーティアのもとに来て、バーティアを守るように彼女と彼女に詰め寄っていた者達の間に割って入る。
当然、身分があり、有能で、社交界でも力を持ち、本人達は王太子妃の側近、夫となる者達は王太子の側近である彼女達の行動を止める事など、商売人である彼等は出来るわけもなく、そわそわしつつも大人しく場所を譲る。
一人だけ「ここが商機なのでは?」と空気を読み違えた者が「あの~」と声を掛けていたが、ジョアンナ嬢の威圧感たっぷりの微笑みを食らい「ひっ!」という小さい悲鳴と共に退散していった。
「ジョアンナ様! それにアンネ様、シンシア様、シーリカ様!!」
優しいが故に厳しい事も言えず、それでもこの場を収めないといけないと困っていたバーティアが、友人達の顔を見てパァァァッと顔を明るくする。
それにしても、バーティアの友人達は登場のタイミングが良すぎやしないか?
あぁ、クロが呼びに行ったんだね。
最後尾にいたシーリカ嬢の後ろからヒョコッと顔を出して、私の視線に気付いて無表情のままVサインをするクロを見て全て納得した。
私達と一緒にこの部屋に入室したクロだったけれど、ふと思い返してみれば、途中からその姿が見えなくなっていた。
おそらく、困っているバーティアとそれをすぐに助けない私を見て、ジョアンナ嬢辺りにここに来るように言いに行ったのだろう。
……まぁ、クロの場合、喋らないから『言いに』ではなく、正確には身振り手振りで来るように訴えただけだろうけれど。
それでもバーティアと付き合いの長い彼女達は、クロが動く時はバーティア関係の事がほとんどであり、自分の所に来て身振り手振りをすれば、とりあえず付いて行った方が良いだろうと察する事くらいは出来る。
そして、訪れたこの部屋の様子を見て、優秀な彼女達はすぐに状況を察して、助けに入ったに違いない。
「あの、えっと……」
友人達の姿に嬉しそうな顔を浮かべていたバーティアだけれど、私に気を遣ってか、彼女達を買い物に誘うかどうか迷っている様子でチラチラと私を見る。
折角だから、デートのような事が出来れば良かったけれど……空気の読めない者達もいて、二人でのんびり見て歩ける雰囲気じゃないし、むしろここは少し彼女達に譲ってわいわいガヤガヤと見た方がバーティアも楽しめるかもしれないね。
デートはまた今度、二人でのんびり楽しめる時にしておこう。
バーティアの視線に了承するように微笑みを返して頷く。
それを見てホッとした表情を浮かべるバーティア。
「さぁ、バーティア様、私達もお手伝いしますので、素敵なお洋服や宝飾品を選びましょう?」
バーティアが私の妃になるにあたり、彼女付きの女官になったシーリカ嬢が笑顔でバーティアを促す。
「乗馬用のお洋服とかも必要なようでしたら、そちらも誂えましょう。私、お力になれると思いますわ」
同じくバーティア付きの女官になったシンシア嬢が微笑みながらバーティアに付添う。
彼女達は、まだ女官になって日も浅いというのに、自分達の役割をしっかりと理解しているようだ。
バーティアが好みそうで、先程のように押し売りのような事をしない、キッチリとした者の所にさり気なく促している。それを見て寄っていこうとしたものも視線や身振りでそれとなく牽制してくれている。
「さすがバーティア様の為に集められた方々ですわ。アルファスタ国以外の国の品物もあって、とても勉強になりますし面白いです」
そんな様子を微笑ましそうに見守りながら、一歩引いて後を付いていくアンネ嬢。
彼女は外交を中心に頑張って働いているチャールズの力になる為に、他国の事について勉強をしている。
今日は場面を想定した衣装を作る為の買い物ではなく、結婚に伴いいくつか見繕おうという形での買い物の為、品物の方向性の幅が広い。
アルファスタ国風の品物もあれば、他国の物もそれなりにある。
国外に意識が向いているアンネ嬢としては、参考になる物も多く、見ているだけでも楽しいだろう。
……アンネ嬢は上位貴族ではあるけれど、それでも王家が集めるレベルの商人や職人を家にそう簡単に集める事は出来ないだろうしね。
「……で、ジョアンナ嬢は行かないのかい?」
女性陣がお喋りをしながら買い物を始めたのをとりあえず一旦見送って、様子を見ようと思っていたら、ジョアンナ嬢だけその場を離れずに残っていた為、声を掛ける。
「参りますわよ。私だって、バーティア様とのお買い物を楽しみたいですもの。ただ一言言わせて頂こうと思いまして」
「何だい?」
「何故すぐにバーティア様をお助けにならなかったんですの?」
顔を扇で隠しつつ、チラッとこちらに向けてくる視線に批難の意思が宿っている。
「そろそろ助けに入ろうとは思っていたんだけどね。ただ、ティアが頑張っていたから少し様子を見ようかなと思って」
「……少し慌てているバーティア様を見て楽しんでいらっしゃいませんでした?」
「気のせいだよ」
少しワタワタとしている所が可愛いなと思ってはいたけれど、メインは相手の商人や職人の評価や今後の対応を考えていたからね。
だから、そんな目で見ないでくれないかな?
「さぁ、そろそろ私達も行こうか」
そう言って、既に先にドレスに使う布を見て歩いているバーティア達のもとへと促す。
「……仕方ありませんね」
私がさっさと会話を切り替えたのを見て、呆れ顔だが軽く肩を竦めるだけでジョアンナ嬢も動き始める。
「バーティア妃殿下、是非私共の商品をご覧下さい。バーティア妃殿下にお似合いの黄色の布地を取り揃えております」
「私共は青の布地を取り揃えております!」
バーティア達が一通り見て回る中で足を止めた場所。
そこには……やけに見慣れた色合いの黄色や青の布地がずらりと並べられている。
「……黄色いね」
「黄色いですわね」
「青いね」
「青いですわね」
何となくそこに行きにくさを感じて一歩手前で足を止めて呟くと、私の呟きに呼応するようにジョアンナ嬢も呟き足を止める。
反応に困り苦笑いを浮かべて動けずにいる私達と違い、バーティアは目をキラキラと輝かせている。
シーリカ嬢とシンシア嬢、それにアンネ嬢も、苦笑いを浮かべながらも何処か微笑ましいものを眺めるような生暖かい視線で嬉しそうなバーティアを見つめている。
「あれは……ソメイル伯爵とシルターテ子爵の所だね」
そういえば、ソメイル伯爵の領地は染め物で有名な所だし、シルターテ子爵の領地は優秀なお針子やデザイナーを集めてファッションの都として大成した所だ。
今回集めた者達の中でも、特に力のある商人や職人達が集まっており、あてがわれているスペースも広い。
広いんだけど……それにしても、その一角だけ異様に黄色と青が多過ぎる。
どう考えても、ソメイル伯爵とシルターテ子爵の所だけではない。
……なるほど。
バーティアがよく黄色や青の物を身に付けると聞きつけて、その色合いの物を多く仕入れて持ってきていた者達が複数いたわけか。
それを見て、会場を整える担当の者が、どうせなら見やすいようにそういった方針の店を一カ所に集めたのだろう。
バーティアの黄色と青をよく身に付けるという情報を耳にした事がある者達で、その方針に行き着かなかった者達は、バーティアの嬉しそうな表情を見て悔しそうな顔をしている。
反対に、そういった前情報を上手く集める事が出来なかった者達は、何故黄色や青ばかりなのかと首を傾げると同時に、「あれでは売れないだろう」とやや呆れを含んだ表情で見つめている。
この辺の情報を収集して上手く活かす力というのも大切だ。
「バーティア妃殿下、当家自慢の黄色と青の布地をご用意しました。是非、お手にとってご覧下さい」
「私共も、様々な柄の黄色や青の布地や宝飾品をご用意致しましたぞ。お気に召すものがありましたら是非ともお手に取ってご覧下さい。特にこの辺などはお勧めですぞ」
ソメイル伯爵とシルターテ子爵の言葉を皮切りに、ニコニコと笑顔を浮かべた者達が、自分の店の商品……特に一押しの青や黄色の商品を見えやすいように前に出し始める。
先程の様子を遠巻きに見ていた者達ばかりだからか、強引に勧めてきたり声を掛けてきたりする事はないけれど、その視線はバーティアがどれを選ぶのかという期待と興味の入り交じったものだった。
「まぁ、素敵ですわ!! えっと、えっと……」
バーティアがキラキラと輝く目でその一角の商品をジッと見て歩く。あまりにも夢中だからなのか、彼女の友人達は苦笑いで付いていくばかりで、ほとんど話し掛けず見守っている感じだ。
「あ、これは!!」
ジーッと並べられた商品を見ていたバーティアの足がある店の前で止まり、置かれていた商品の一つを手に取る。
自分の持ってきた商品が選ばれる事を祈りながらバーティアの動向を見つめていた者達が、一人を除いて一気に悔しそうな表情を浮かべる。
「これ……」
バーティアが黄色い布を手に私の方を見る。
それから何度も手にした布と私を見比べて、満足そうな顔をする。
「これでドレスを仕立てたいですわ……って、貴方もいらしていたんですの?」
手にした布を大事そうに抱えたバーティアが布に向けていた意識をその店の担当者へと向ける。
どうやら知り合い……というか、あの感じだとバーティアがよく仕立てを頼んでる店のようだね。
「くっ。やはり、今までバーティア妃殿下監修で殿下の色を極め続けた店には勝てないか」
「無念」
選ばれなかったソメイル伯爵とシルターテ子爵が悔しそうな表情をする。
……君達、少し前に私の事をやたらと凝視していたのは、バーティアに勧める為の黄色と青を選ぶ為だったんだね?
私が悪いんじゃないんだから、選ばれなかったそれぞれの一押しの布地を手に、私を恨めしそうな目で見ないでくれないかな?
「あ、でも、こちらの青も、こちらの黄色も素敵ですわ。後、このブレスレットも」
今まで見て歩きはしても、特に「これが良い」とは言わなかったバーティアが、最初の一つを選んだ後、すぐに複数の商品を選ぶ。
……どれも黄色と青。それもより私の髪と瞳の色に近い物ばかりを選んでいるのが、何ともこそばゆい。
ちなみに、最初に選ばれたわけではないが、わざわざ私を見て色味の調整をしていたソメイル伯爵とシルターテ子爵の一押しも、その後の選定には無事受かったようだ。
「……あの、バーティア妃殿下。こちらも光沢があって良い品だと思うのですが如何でしょう?」
選考漏れした商人の内の一人が、勇気を出して自分の一押しを勧める。
「まぁ、綺麗な布ですの。織り模様も素敵ですわ! でも……ちょっと色味が私の好みより薄いんですの」
当然の事だけれど、勧められた物を全て買うわけにもいかない為、バーティアは申し訳なさそうにそれを断る。
うん。確かに私の髪色にしては、薄いというか白っぽい感じがするね。
「そうですか……。自信作だったのですが」
その商人はどうやら、染色の技術者でもあったらしく、自分の自信作だった商品を悲しそうな目で見つめる。
そんな彼を見て、バーティアはどう声を掛ければ良いかと迷っているようだった。
「大丈夫ですわ。今は好みではなくても、徐々に好みは変わっていくものですもの。何年か後には、そのように白っぽさが増す可能性もありますよ」
バーティアに助け船を出すように、商人に声を掛けたシーリカ嬢。
……君、その「好みが変わる」っていうのは、私の髪の色が白へと変わっていくという意味かい?
間違いではないけれど、失礼だとは思わないのかな?
チラッとこちらを見たシーリカ嬢が、私の微笑みを見てスッと視線を逸らす。
正直、そういうのはジョアンナ嬢の役割だと思っていたよ。
「……なるほど。好みは変わる。確かにそうですね! 抜ける可能性もありますけど、白くなる可能性の方が高そうですものね。彼のお方も今の所そうですし」
商人の目に希望が芽生え、自信作の布をギュッと抱きしめる。
きっと、あの布が日の目を見るまで大事に保管する決意をしたのだろう……けれど。
それは良いんだよ。それは。
ただ、何故チラチラと私の髪を見るのかな?
しかも、『彼のお方』って私の父上、国王陛下だよね?
無礼って言葉を君は……君達は知っているのかな?
「セシル様! 見て下さいませ! セシル様のお髪や瞳の色によく似た綺麗な黄色や青がたくさんありましたの! 私、これでドレスを作ったら幸せな気分になれる気がしますわ」
選んだ布や宝飾品の一部を持って、バーティアが嬉しそうに報告する。
「私の色で良いのかい?」
「私はこの色が好きなんですの。……この色を自信を持って好きと言えるのが幸せなんですの!!」
「……そうかい」
満面の笑顔で告げられた言葉に、思わず胸に温かくもくすぐったい何かが芽生える。
「セシル様、ドレスのデザインとか色々見させてもらったり相談したりしてきますわ!!」
私に何とも言いがたい感情を投げ入れた当人は、そのままの勢いで戻っていき、再び会場内を散策し始める。
「……顔にしまりがありませんわよ」
「私はポーカーフェイスに自信がある方なんだけどね」
「殿下と付き合いの薄い者ならわからないかもしれませんけれど、付き合いの長い私達にとっては見るも無惨な程ですわ」
私の隣にいた為、私同様取り残されたジョアンナ嬢が、ボソリッと小声で言ってくる。
「それにしても……バーティア様は、本当に黄色と青がお好きですわね」
「そうみたいだね」
「自分で言っていて恥ずかしくないんですの?」
「事実だし、自惚れでもない自信があるからね」
「左様ですか。……あ、そう言えば」
ふと思い出したように僅かに顔を上げ虚空を見上げたジョアンナ嬢が、次の瞬間、扇越しでもわかる位の意地の悪い笑みを浮かべる。
「バーティア様はご結婚なさる前からよく、黄色と青を身に付けておりましたわね」
「そうだね。小さい頃からずっとそうだよ」
何が言いたいんだろう?
「以前にバーティア様からお聞きした事があるのですが、ウエディングドレスが白い理由の一つに『貴方の色に染まります』という意味があるそうなんですけれど……」
「それがどうしたんだい?」
持って回ったような口ぶりに、きっとろくな事ではないんだろうと思いつつも先を促す。
「元々殿下の色に染まっていたバーティア様が何色にも染まっていない白を着用されると、まるで一度殿下の色から漂白されたようですわね」
「ジョアンナ嬢?」
意地悪くクスクス笑うジョアンナ嬢を一瞥する。
「そんな、冗談ですわよ。現に今も同じ色を選んでいる時点で、染め直しても結局殿下色という事ですもの。この程度の冗談を受け流せないなんて、殿下は器が小さいのではなくて?」
「そうだね。私はティアに関する事については器が小さくなるみたいだ。だから……ちょっとした仕返しをしても良いよね?」
「あら、怖いですわ~。バーティア様に助けを請わなくては……」
「ジョアンナ嬢?」
「それでは失礼を」
言葉とは裏腹に、全く怖がる素振りを見せないジョアンナ嬢は、そのままバーティア達のもとへと向かっていった。
「全く」
その悪びれもしない様子に、呆れつつ小さく嘆息する。
「まぁ、彼女の言う通り、ティアがこうして今も私の色を好きな色と言ってくれている事実が大切だよね」
一人そう呟いて、友人達に囲まれて楽しそうに笑っているバーティアに視線を向ける。
彼女は私の色を身に付けると幸せだと言った。
私は彼女が私の色を身に付けているのを見ると、多分幸せだと感じているのだと思う。
「私も彼女の色の物をいくつか見繕って購入しようかな?」
そう呟く自分の口元に自然と笑みが浮かんでいるのを感じる。
あぁ、私は今幸せだ。
余談だが、この後、バーティアの色の物をいくつか購入しようとしたのだが……。
商人達はバーティアの為には、私の色を好むだろうと大量の青と黄色を用意し、それを勧めた。
それならば、同じく新婚である私にも彼女色の物を勧めれば良いのに……何故か私が勧められたのは黒系統の物ばかりだった。
何故黒なのかと尋ねると「それは殿下だからです」としか答えられない。
納得のいかないものを感じている私に対して、背後に控えていたゼノは口を押さえて笑いを堪えながら「魔王と腹黒にはやはり黒……」と呟いていた。
ゼノに対しては、八つ当たり……やって欲しい仕事リストを脳内に作りつつ、さてどうしたものかと考えていたら、私が品物を選んでいるのに気付いたバーティアが様子を見に来てくれて、「深紅の物が欲しかったんだけど……」と答えると、少し照れくさそうに「黒に深紅は良く映えますの」と言って、何処からか深紅のカフスを探してきてくれて、提示されていた黒の布にソッと合わせてくれた。
そんな彼女に、「あぁ、良いね」と笑みを返し、私は再び温かな気持ちになった。
……まぁ、黒ばかりをしつこく勧めて来た者達に対しては、小さな報復はしようと思うけれど。
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