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異世界居候編

20.五十六の名言と希望ある推測で迎える幸せな朝(3)

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 事件が起こるまでは、視聴回数が三桁の動画配信者だったらしい。それがライブ配信中に突然周囲を見回し始め、意味不明な発言を繰り返して消えたことで、一躍いちやく時の人となったとのこと。

「そのとき『何これ、泡が出てる』とか言いながら、手で振り払うような動きをしたり『皆は見えてないの?』とか言って怯えてて、それで一瞬でスッと」

「消えたの?」

「ええ、椅子から立ち上がってすぐ」

「何それ俺じゃん! それ俺と同じじゃん!」

「そうなんっすよ。カガミさんの話があったからこの部分がガッチリ繋がっちゃったんすよ。だからややこしくなっちゃったんです」

 イノリノミヤ神教ができたのは五百年ほど前のこと。野宮伊乃里が行方不明になったのは半年ほど前のことらしい。

「かなり大まかな計算なんすけど、最初は、向こうの一ヶ月が、こっちの百年くらいになるんじゃないかって考えたんすよ。けど、実際はそうじゃないってことが、マツバラさんの話で分かったんです」

「俺は、西暦二〇二二年から来たんです」

「は⁉ 一年先⁉ 俺は二〇二一年から来たんだけど⁉」

「やっぱそうっすか。俺もっす。カガミさんが料理してる間、マツバラさんと二人で話してたんすけど、なーんか噛み合わなくて、それでこっちから質問したら、日付は同じだけど、ここに来た年が違うって分かったんすよ」

 転移する年にズレがあるのなら、イノリノミヤが五百年前に転移することもあり得る。つまり、渡り人にとって親切な環境が整えられているのは、今後も渡って来るであろう同郷の転移者の為に、イノリノミヤが苦心してくれたからではないか。

 カタセ君はそう言うが……。

「んー、五百年前に十七歳の女の子が一人でこの世界に転移して、しかも半年くらい前ってことは冬でしょ? それで俺と同じってことは海から出てて、そこで下手したら歳も食われてるから、子どもがあんな魔物から逃れて生き残るって……」

「言いたいことは分かります」

 マツバラさんが察してくれた。かなり無理がある。少なくとも、リンドウの助けが入らなければ、俺たちは生きてはいない。

 推測に推測を重ねることになるが、十七歳より下の年齢になったと思しき少女がたった一人で生き延びられるとは到底思えない。

「ね? ややこしいでしょ?」

「確かに、ややこしいね。同姓同名の別人だって言うなら、こうはなってないよね。屈強な筋トレ女子って訳でもなかったんでしょ?」

「動物好きの、華奢きゃしゃな女の子って感じっすね」

「運動苦手とか言ってたような」

「うわー、でも色々と合致してるんだよねぇ。十代以下の少女が死ぬ思いで頑張って、神として崇められるところまで上り詰めたって、これ相当キツい話だよ」
 
 
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