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異世界居候編

34.サイコパス扱いされた男に反論の余地なし(2)

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 体感、四キロほどか。

 当然、辻馬車はいなかった。最寄りの街でさえここから十六キロほどはあるのだから、来ていたらそれはそれで問題というか、馬のことを心配しただろう。

「あと二十分くらいか」

 サクちゃんが空中を見つめて呟いた。ステボで時刻の確認をしたのだと覚る。

 ここに来るまでの間に、辻馬車の到着時間は聞いていた。スミレさんによると約一時間とのことなので、サクちゃんは差し引きした時間を口にした訳だ。

「思ったより遅いっすよね。馬って時速六十キロとか出るんじゃないんすか」

「重たい馬車を引くし、御者もいるんだからそんなに出る訳ないでしょ。疲れや機嫌もあるから、せいぜい時速十五キロってとこだと思うよ」

「なら、馬車だけリンドウさんが転移術で運んで、御者さんが馬でここまで来ればよかったんじゃないっすか?」

 俺は一瞬硬直する。確かに、と思った。サクちゃんとスミレさんは何かを考えているような素振りを見せる。今の話に穴がないかを探っているのかもしれない。

 少しの間を置いて、ヤス君は話を続ける。

「素人考えっすけど、ここから十五キロ程度なら、馬で駆ければ二十分くらいじゃないんすかね? リンドウさんは馬車だけ持ってここに転移して、馬を待てばよかったんすよ。それなら馬だって俺たちが来るまで十分以上休憩もとれますし、疲労も少ない。俺たちも待たなくていいし、スミレさんだって早く帰れます」

「わ、私のことはお気になさらず」

「た、多分、馬車ごと転移するのは無理なんだろ」

「そ、そうだよ。魔力消費が激しいとかあるんじゃないの?」

「なるほど。そうか。簡単に解体と組み立てができる馬車とかあったら移動速度の革命が起きますね。勿論、転移術者は必要になりますけど、いや、これは馬車に限った話じゃないっすよ。建材とか、面白いっすね。あ、運ぶ物によって魔力消費量が変わるとか、これは一度ちゃんと話を聞いてみたいっすね。ああでも――」

 ヤス君が顎に手を遣ってブツブツと言い始めた。これは鍛練を行うようになってからのヤス君の癖で、考え事をしているときは大体こうなる。オセロ盤を作ったときもこうだった。

 ふと、ヤス君が顔を上げる。

「スミレさん、アルネスの街は左ですよね?」

「あ、はい、そうです」

「辻馬車はどこから出ました? それと、御者さんとスミレさんとは顔見知りだったりします?」

「え、ええ。御者とは知り合いです。辻馬車は、アルネスの街からですけど」

「あ、じゃあ、問題ないっすね。途中で辻馬車と会っても乗せてもらえるんで。歩いたら時間短縮できますし行きましょう。ここだと見通しもよくないし、魔物に奇襲される可能性が高い気がするんで、あんまり長居したくないんすよねー」

 そう言い終えるなり、ヤス君は有無を言わさず歩きだした。

 俺は残った二人と顔を見合わせる。

「俺、全然気づかなかったんだけど」

「私もです。言われてみれば当たり前のことなのですけど」

「うん、反論の余地なしだ。行こう」

 俺たち三人は、慌ててヤス君の後を追った。

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