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アルネスの街編

11.ミチル烈伝と入寮前のアレ騒ぎに複雑な同居人(3)

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「そ、そんな! ユーゴさん、あれ!」

「ハッ! な、何じゃありゃあ⁉」

 ヤス君の指指した先には空に羽ばたく黒光りする巨大なアレ。一メートルくらいの大きさで、こちらに腹を向けて空中浮揚ふようしている。

 街ゆく人々もそのあまりの悍ましさに嫌悪感たっぷりにざわめいている。

 そして、アレを見つめるミチルさん。

「や、やべぇっすよ! ミチルさんがもう完全に視界に捉えてます!」

「いいい急いで処理しなきゃ! 街が大変なことに!」

「無茶言うな! もう遅いだろ! 逃げた方がいい!」

 三人で気が気じゃない状態でヒソヒソと相談していると、はっきりと舌打ちの音が聞こえた。ミチルさんが鳴らしたのだと分かった直後、サクちゃんは手にしていた棒を一瞬でミチルさんに奪い取られていた。

「ぬぅおりゃあああっ!」

 ミチルさんは雄叫びとともに凄まじく美しいフォームで棒をアレに向かい投擲した。オリンピックの槍投げを見ているようだった。

 棒はアレの胴体を貫通し、体組織を抉《えぐ》り散らして遥か天空の彼方に消えた。空中で胴体に大穴を空けたアレは、地面に叩きつけられるように落下し仰向けになって脚をヒクヒク動かしている。

「何だ何だ⁉ 何の騒ぎだ⁉」

 ジオさんが血相を変えて冒険者ギルドから出てきた。そして周囲をざっと見てアレに目を留め、すぐに状況を察したようだった。だが思っていた反応と違った。深々と溜め息を吐き、忌々いまいましそうに頭を掻きながら仏頂面になる。

「何だよ、また出やがったのか。やったのはミチルか?」

「はい。羽音が五月蝿うるさいですし迷惑千万なので早々に処理しました。サクヤさんが投げやすそうな棒を持っててよかったです。ではマスター、私は皆さんの案内がありますんで、後片付けをお願いしますね」

「ああ、分かってる。よくやった」

「はい。では皆さん、こちらです。お部屋の方にも案内します」

「あ、は、はい」

 ミチルさんの反応も思っていたものと違った。俺たち渡り人組は顔を見合わせ、ミチルさんに追従して寮に入った。

 中に入ってすぐにミチルさんに訊ねたところ「もう慣れました」との一言が返ってきた。今ではギルド内でのアレの処理係も担当しているという。

 先ほどの巨大なアレは夏場になると出てくる魔物で、ジャイローチという名だとか。これはおそらく渡り人が名づけたのだろう。

 何故、英語で名付けているのかは定かではないが、省略されているのは長すぎて面倒臭くなったからだと思う。

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