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アルネスの街編

33.武具店の事情と自由な信仰を話し光の祠で終える(5)

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「うわエグ。何それ、めちゃくちゃ怖いんだけど」

「安心しなよ、あの呪符はエノーラさんの店にしかないから」

 フィルによれば、盗難防止用の呪符はエノーラさんの伴侶である人族のレイさんが開発したのだとか。相当な学者肌で、店の奥に引きこもっているとのこと。

 元は王国術師だったらしいが、リンドウさん同様、新王即位後にアルネスの街に移住し、ひょんなことから出会ったエノーラさんから猛アタックされて結婚。すぐに二人でレイ・エノーラ武具店を始めたそうだ。

「それって、なんだかエノーラさんがレイさんの呪符目的だったって風に聞こえるんだけど邪推かね?」

「実際、最初はそうだったらしいよ」

 レイさんはアルネスの街に移住後、生活費や研究資金の為に工房に呪符を売り込みに行っていたらしい。だがそれまでは職人街での工房店頭販売が主流であった為、誰にも相手にされず、途方に暮れていたという。

 そんな折、当時見習いとして職人街の工房にいたエノーラさんと出会った。

 エノーラさんは現在の武具店のような大型店を構想していた為、レイさんの呪符に強く惹かれた。親方に追い返されるレイさんを見て、その場で見習いを辞めることを告げ、レイさんを捕まえ求婚。

 当然、レイさんは困惑したが、エノーラさんが熱意と勢いで説き伏せたという。

「ふーん。で、なんとなく察しはつくけど何で結婚?」

「店を構える為の頭金と借金の保証人」

「ありがとうございました」

 俺はその場で軽く一礼した。これは深堀してはいけない。早めに切ろう。

「いやちょっと待って、まだ終わってないから。恋愛感情のない仕事上のパートナーでいいって話だったのが、二人で一生懸命になってるうちに相思相愛の仲になっちゃったって、いい話なの、これは」

「むしろそうじゃなかったら怖いわ」

 互いのメリットを目的に実態のない結婚をするというのはメロドラマの題材にされたりするが、日本では偽装結婚という立派な犯罪だ。定義が曖昧な部分もあるが、借金の保証人になってもらう為に結婚というのは完全にアウトだろう。

 まぁ、ここは日本じゃないから大丈夫か。あー、でも予想外だったな。渡り人が変革者だと思ってたんだけど……。

 新たな渡り人との出会いがあるかと思ったが、ただこの世界出身の単なる街の変革者と会っただけだった。と、そこで思い直す。

 いや、むしろ凄くないか?

 何も成していない転移者と、この世界の在り方を変えたかもしれないエノーラさんとでは比較にもならない。単なる、という言葉が付くのは俺のような前者の方だ。やはり俺は、この世界を舐めていると覚る。

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