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宿場町~裏社会編

7.怒る坊やと気を損ねそうな女と憤る男(1)

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 訓練所を後にした俺たちは、フィルを誘って昼食をとることにした。

 それで三人で部屋まで呼びに行ったのだが――。

「いいけどさ、どこで食べるの?」

 フィルはなんだか不貞腐れていた。俺たち渡り人三人衆は顔を見合わせた後で小さな円陣を組む。

「なんか、怒ってません?」

け者扱いしたからじゃないか?」

「それはないでしょ。ちゃんと言ったし」

 小声でささやくように話した後でフィルの方を向く。ムスッとした顔で腕組みしていたのでまた円陣に戻る。

「腕組みしてましたよ」

「うん、バージョンアップしてたね」

「やめてやれ」

 ひそひそ話はサクちゃんの溜め息で締めくくられた。俺はフィルに向き直る。

「フィル、どうしたんだ? 何かあったのか?」

 サクちゃんが訊くと、フィルは先ほどサクちゃんが吐いたものとは比べ物にならないほど大きな溜め息を吐き出した。

「君たちは営業前の食堂で朝食をとったから知ってるだろうけどさ、今朝は僕、朝食をとらなかったんだよね」

「なんでわざわざ? そんな説明臭い? 言い方するの?」

「それが何か? みたいな言い方腹立つからやめろよ! 変に言葉を切って語尾を優しく上げるんじゃないよ!」

「ユーゴさんあおりまくってますね」

「フィルも確実に拾うからな。仲良いよなこいつら」

 フィルが、ふんっ、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。

「まぁいいよ、君たちは営業前に朝食をとったから知らないだろうけど、僕は営業中の食堂に行ったんだよ。早めのブランチ気分でね。そこで僕はねぇ、それはそれはもう酷い目にったんだよ」

「酷い目って?」

「カキ氷屋だよ! お客さんが来て注文されるし、やってないって言ったら『何でどうして』の嵐だよ! もう本っ当に大変だったんだから!」

「あー、確かに昨日、明日で閉店だとか休業するだとかそういうお知らせは一切してなかったっすね」

「『氷作るから削ってください』とか無茶苦茶言う人までいたんだからね!」

「ハハハ、シロップどうするんだろね?」

「そういえばそうだね。ってそういう問題じゃないよ!」

 俺とヤス君が笑顔で頷き、二人でサクちゃんにも笑顔を向けて頷き、渡り人三人で頷き合いながら拍手する。

「いやー、一回乗ったね。ツッコミまでの間も良かった」

「日々成長してるんすね。使うタイミングも中々っす」

「俺はやったことないが、今のは日本のお笑い限定のものじゃないのか?」

「うるさいよ、もう! 何を分析してるんだよ! 確かに日本のコメディ動画は好きで見てたけども! とにかく食堂では食べられないってことを言いたいんだよ!」

「それならそうと、むくれてないで言えばいいのに。どこで食べるのって」

「言ったろ! それ僕最初に言ったろ!」

「フィル、落ち着け。どうせ明日の準備もあるんだから、適当に出店で買った物でも食いながら武具店に行こう」

 サクちゃんの提案に全員が賛成し寮を出た。お客さんで賑わう大衆食堂の前をこっそり通り抜け、途中の屋台で惣菜クレープらしきものを購入。値段は一つ銅貨五枚。それを食べながらエノーラさんの武具店へ向かう。

「うん、美味くはないな」

「そっすね。これでうちのカキ氷と同じ値段っていうのが腑に落ちないっす。野菜が気の毒なくらいしなびてるじゃないっすか」

「鮮度もそうだけど、僕は生地もあんまり好きじゃないな。タイヤの薄切りみたいだ」

「ああ、いつも食べてるやつね」

「食べてないわ! 君は僕をどうしたいんだ!」

 話をしている間にエノーラさんの武具店に到着した。扉を開けて中に入ると、響きの良い呼び鈴の音と「いらっしゃい!」という豪快な声に出迎えられた。
 
 
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