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海辺の開拓村編
20.物凄く真剣なときほど周りの声がよく聞こえる(2)
しおりを挟むウイナちゃんの拍子抜けしたような声が聞こえたところで、リンゴの表面を飴でコーティングするように【過冷却水球】を薄い【障壁】で包んでいく。
「っておわぁー、まん丸くなったのじゃあ!」
「無属性障壁、ですかね?」
「えげつな。あんな精密な魔力操作、わしできんぞ」
「確かに驚嘆に値するが、無駄な手間だな」
「まぁ、せやなぁ、時間も魔力も食いすぎで、実戦では使い物にならんな」
「打撃威力を狙うなら【氷塊】で良いですものね」
「そうだ。少々残念だが、これは見世物の類だな」
「で、でも凄いのじゃ! この短期間で、これだけ複雑怪奇な術を使っておるのじゃぞ!」
「そうなのです! 見世物でも一級品なのです! よく見るのです! 水晶玉みたいでとっても綺麗なのですよ!」
ウイナちゃんとサイネちゃんの興奮した声が聞こえたところで、【過冷却水球】を念動力で飛ばす。
射られた矢とまではいかないが、それなりの速度で的に向かい、間もなく直撃。【障壁】が硝子のように高い音を発して割れ【過冷却水球】が弾け飛ぶ。
バシャッと水音が起きた後で氷結時の割れ軋む音が続き、最後に氷片がバラ撒かれた音が断続的に鳴る。それ以外に音はない。酷く静かになっていた。
静寂の中、俺は深く息を吐く。汗が噴き出して流れる。
良かった。上手くいった。
安堵感が胸を満たす。かなりきつかった。パワハラモラハラ当たり前の先輩と、ペアで夜勤残業したときと同じくらい神経を尖らせ、擦り減らした。
控え目に言って地獄だ。
「凍った? 【水球】いや【氷塊】に途中で変えたのか?」
「的に当たった瞬間、水が拡散して凍りついたように見えましたけど……」
「い、意味不明なのじゃ。飛沫まで凍ったのじゃ」
「す、凄いのです」
「なんや、またとんでもないもん見せよるなぁ」
リンドウさんが呆れたように言いながら的の側に歩み寄り確認する。
「ふむ、凍っとるな。いや、裏は凍ってないな。水が触れた箇所だけ、薄い氷に覆われとる。ほんで、おお、硬いな」
的の表面に張った薄氷を指で触り、軽く二度叩いた後でリンドウさんがそう言った。それから周囲に目を遣り、俯いてしゃがみ込むと、近くに落ちている氷の破片を拾ってまじまじと見つめた。
「氷、やな」
「リンドウ、どうだ? 分かるか?」
スズランさんがリンドウさんに歩み寄りながら訊いた。リンドウさんは手にした氷片を放り捨てつつ立ち上がり、溜め息を溢しながらかぶりを振る。
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