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海辺の開拓村編
24.他人の思いって急いでるとどうでもよくなる(1)
しおりを挟む騙されたと知ったとき、裏切られたと気づいたときの憎しみの強さは知っている。もし、それが発端となり俺たちに牙を剥かれたら……。
そういう怖れを、二人とも抱いていた、とスズランさんは言う。
結果、リンドウさんは俺たちを信用できないが為に、目的を隠したまま利用する形を継続し、スズランさんもまた俺たちを信用できないが為に、すべてを明かそうとした。
ということらしいのだが、ややこしくて何を言っているのか俺にはよく分からなかった。急に異世界語を話された気分だ。
言葉は理解できるのに頭に入ってこないって相当だ。なのでもう俺なりの解釈で済ませることにした。
そもそも騙していたとか利用していたとか、それを後暗いこととして抱えている時点で真面目で善人。それに俺たちがここを去るときに見せた涙や、名残を惜しむ姿も演技だったとは思えない。
結論、二人はとても気のいい人たちだ。
リンドウ一家には、十分過ぎるくらい世話になっている。そこに打算が含まれていたところでどうだと言うのか。むしろそれがあって安心しているくらいだ。
ギイチ・コガネイという敵を倒す為に俺たちを使う?
願ったり叶ったりだ。どう恩義を返すかという問題で頭を悩ます必要がなくなったと思えば、こちらとしても非常に助かる。無料より高いものはないのだから。
そう、だからこそ思う。
どうでもいい、と。
そして、今じゃない、と。
冒険者として活動していく以上、ドグマ組のように絡んでくる輩は出てくるだろう。名の知れた悪人とも、いずれ相まみえることがあるはずだ。
つまり、リンドウさんとスズランさんの過去や、胸に秘めた思いを俺が知っていようがいまいが、大した差はないということだ。
え、因縁の相手だったんですか? 偶然ですね。倒しちゃいました。
という呆気ない終わり方でも、俺は一向に構わないと思っている。発生する害は面白みに欠けることくらいで、倒したという結果は何一つ変わらないのだから。
それに、戦うにしてもまだまだ先のことになる。リンドウさんでさえ勝てないという相手にゴブリンに殺されかけた俺が太刀打ちできる訳がないだろう。
そんな先の話で時間が潰されていると思うと鬱陶しくて仕方がない。
スズランさんめぇ。
小さな溜め息を溢しつつ俺はステボで時刻を確認。まるで終業五分前の時計のように時刻表示を見つめて、早く終わらないかと待っている。
そんな失礼な行為に気づいた様子も見せず、スズランさんが語り続ける。
「拙者は、謝罪し、許しを得た後に、正式に依頼という形で、ギーを討つ助力を願いたい。そう思ったのだ」
「あ、そんな畏まらなくてもいいですよ。俺たちはですね、そのギーっていうやつとは根本的に違うと思うので大丈夫です」
「力を持つと人は変わる。ギーが示したことだ」
参ったなぁ。
対応が雑になっている自分がいる。現在、午前十時。昼にはここを出発したいと考えている。術の話も聞かないといけないし、魔物化の話もある。
ザザ村のことも気になるし、フィルが無事に戻るかも心配。ドグマ組のこともあるし、って思ったより多いな。もうこれ以上抱えたくないんだが。
どうしたもんかなー……。
俺は指先で頬を掻きつつ苦笑する。
「んー、大丈夫です。俺たちはどれだけ力を持ったとしても、理不尽に誰かを傷つけるような真似はしませんよ」
「口では何とでも言える。ギーも似たようなことを言っていた」
どうせえっちゅうのよ⁉
「あー、そうですねー。では、抑止力があると考えてください。俺たちは三人。ミチルさんを含めれば渡り人が四人もいます。仮に俺が人の道を外れるようなことがあったとしても、皆が必ず止めてくれますよ。これで信じてもらえませんか?」
そう締め括って、スズランさんと見つめ合う。やがてスズランさんは根負けしたように俯いた。
「すまぬ……」
思い出したくないものが脳裏に蘇った。そんな印象。唇を噛み締め、拳を握り締め、悔しそうにしている姿がそれを物語る。
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