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カナン大平原編

8.カナン大平原を越えよう(8)

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「入ってみてください。俺と一緒なら問題ないと思うんで」

「全員いける?」

 ヤス君が「多分、大丈夫っす」と頷いたので、パーティーメンバー全員でヤス君の後に続いて異空間に入った。

 中は真っ白な真四角の部屋だった。目算百平米はある。適温、無音、無臭で、換気扇もないのに淀んだ感じがしない。天井までの距離は四五メートルほど。

「これって、魔力とかどうなの?」

「消費されるのは、入るときと出るときだけっすね。今思いついたんすけど【箱庭】って命名しますわ。安直すぎますかね?」

「いいんじゃないか? というかこれ、もう野営道具いらないな」

「敵に襲われる心配もないね。ユーゴの術が可愛く思える反則術だよ。【異空収納】って生き物を収納することはできないからね。手を入れるとかはできるけど、閉じた瞬間押し出されちゃうのに。本当、何なのこの術? 意味不明だよ……」

 間違いないね。ん? 待てよ?

「ヤス君、ちょっと怖くなっちゃったんだけれども、ここから出たとき出入口のところに人がいたらどうなるの?」

「あ、それはここから探知できるんで問題ないっすよ」

 ヤスくんによれば、【箱庭】自体がヤス君の魔力と連動しているらしく、外の様子と中の様子が漠然と分かるとのこと。

「なにその便利な術。羨ましい」

「んー、もっとはっきり見えたらより便利なんすけど、今は無理っすね。あ、でも敢えて誰かがいるところに出してみるのもやっておきたいっすね。どうなるのか検証しておきたいです」

「それなら異空盾もやっておくか。ものが入りきってない状態で閉じたらどうなるのか気になってたからな」

 おかしい。何かが変だ。今までこんなことはあっただろうか。

 二人がサイコパスを発揮し過ぎな気がする。結構怖いこと言ってるって自覚はあるのだろうか。

「フィルよ、俺の言いたいことは分かるか?」

「分かるともユーゴよ。二人のサイコパス感が凄い」

「流石だ。アイスをあげよう」

「ありがとう。おやつにする」

 俺たちは【箱庭】から出た。俺は二人の実験に使えそうな魔物を探すことにした。フィルも一緒になってついてくる。二人で平原とは逆方向にある森の方へと歩みを進める。

「ちょっと、どこ行くんすか? 異空盾はこの矢で実験っすよ?」

 振り返ると、ヤス君が矢を一本持っていた。

「まさかお前ら、魔物を探そうとしてたんじゃないだろうな?」

 サクちゃんから信じられないものを見るような目で訊かれ、俺はすっと視線を逸らした。フィルの汗だくな顔が視界に入る。

「フィルよ。どうやら俺たちの方がサイコパスだったようだ」

「言うな、ユーゴよ。僕たちは二人に乗せられただけさ」

「おいそこの馬鹿兄弟。実験するから早く来い」

 サクちゃんに手招きされ、俺とフィルは「はい」と返事をして歩み寄る。実験を行うのはヤス君とサクちゃんなので、俺たちは少し離れた場所で体育座りをして見学することにした。
 
 
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