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もう一人の渡り人編

20.気分が優れない話の後は美味しい食事で誤魔化す(4)

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 俺の切り替えの速さに唖然とする面々を見て苦笑しつつ、俺はレノアに頼んで机の上にあるティーカップとソーサーを片付けてもらう。

 その間に【異空収納】から布巾を取り出し机を拭いて、真っ白なテーブルクロスを取り出して敷き、部屋に椅子を四つとテーブルも用意する。

「女子四人はこっちね」

「え! アタイたちも食えんの⁉」

「イザベラ! 領主様の前だぞ!」

 エリーゼが小声で注意する。イザベラは「あっ、ヤベ」と慌てて口を覆った後で、苦笑いして頭を掻く。隣でニーナが上を向き、額に手を当て「あちゃあ」と棒読みで言い、片付けを済ませたレノアが上品にクスクスと笑う。

 微笑ましい光景だねぇ。

 と、心で呟きつつ食器とカトラリーを人数分用意し、箸と箸置きも一応準備する。

「なんちゅう手際だ。あっという間に店じゃないか」

「アハハ、口に合わない場合は言ってください。別の物を出しますので」

 俺はムーカウのカツ重を人数分出した。

 本当は豚カツを作りたかったのだが、今のところ最も豚に近いワイルドスタンプはやはり獣の臭みが強く、望んだものにならなかった。

 それで、牛肉に限りなく近い味のムーカウの肉を利用した疑似ビーフカツを試してみたところ、これが美味かった。

 刻んだ玉ねぎを砂糖、酒、味醂と合わせた出汁醤油で煮込み、適度な大きさに切り分けたカツを並べ入れて、刻んだ三つ葉を散らし卵でとじる。

 ソースがあれば千切りキャベツのソースカツ重にもできるのだが、やはりカツ重は肉が何であっても卵とじで食べたい派。お重の中に敷き詰めた白米の上に、とろっとろの卵とじに半分ほど包まれたカツを載せてある。

「見たことがない料理だが、見た瞬間から美味そうだな」

「どうぞ、召し上がってください」

 そう言った途端に全員が合掌して「いただきます」と言ったので驚いた。イノリノミヤ神教の信徒でもやる人をあまり見ないのだが、こういった場合は礼儀として行うのかもしれないと解釈する。

 イワンコフさんはフォークでカツを刺し、口に運んだ直後に目をカッと見開いて震えた。そして腹の底から「うまーい!」と叫んだ。

「う、うめぇー! 止まんねー!」

「ライス、苦手だけど、これは、美味しい……!」

「ユーゴさん、大変美味しいですわー」

「りょ、料理までできるんだな。隙がないな、ユーゴは」

 女子はレノアとイザベラが箸を使っていてまた驚いた。イザベラに至っては掻き込み方が日本人を思わせる。食いっぷりが良くて気持ち良かった。

「ああやって食べるのが最も美味しいんですよ」

 俺がサブロ用に小皿に取り分けながら、イザベラを手で示して伝えると、イワンコフさんはイザベラの様子を見てから箸を手に辿々たどたどしくもカツ重を掻き込んだ。どうやら食べ方の効果のほどに気づいたらしく、頬張る度に頷いた。

 皆が食べ終わった頃、デザートにプリンを出した。それも大喜びされたので、幸せ愉快犯の俺もまた、本懐ほんかいげた気持ちで食事会の幕を下ろすことができた。
 
 
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