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それぞれの成長 元戦乙女隊編

14.ムームー列車出発進行

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 浄化の息吹とやらで誰もいなくなった坑道内は、トロッコとそのレールくらいしか邪魔がない。とはいえ、それもムームー列車は苦も無く避けるし乗り越える。

 これはとっても便利なものを作っちゃったなー。

 と、うんうん頷いているうちに出入口が見えてきた。

「ななな、なんじゃあ!?」

「危ねぇ、避けろぉ!」

「押すな馬鹿たれ!」

 仁王立ちして待ち構えていた鉱夫ドワーフ三人が慌てふためき、横に跳び退いてひっくり返る。俺はそれを尻目に「もう大丈夫ですよー!」と大声を上げて通り過ぎる。

 こちらに気づいたのだろう、地べたに座り込んでいる待機中の鉱夫ドワーフたちが、ざわめきながら立ち上がり始めた。俺は景色を後ろに送りながら、そっちの方にも声を掛ける。

「仕事が再開できますよー! 思う存分掘ってくださーい!」

「ありがとよー!」

「恩に着るぞーい!」

「またなー! 英雄殿ー!」

 そんな声が背後から聞こえて驚いた。が、すぐに察して苦笑した。他の鉱夫ドワーフたちも歓声を上げる。俺は振り返らずに片手を振って応えた。

 あの三人が、多分、トロッコ衝突事故の際にルードを叱った鉱夫ドワーフなのだろう。そこでルードに事情を聞かされて一芝居打ったと言ったところか。道理で強引だった訳だ。知り合いなら最初からそう言えばいいのに。
 
 まったく。と笑ったところで、ふと『害意のない嘘』という言葉を思い出す。

 ヤス君、怖いわ。

 冒険者ギルド立てこもり事件の日に、ヤス君がルードについて話していた内容が蘇る。存在が人間離れしてるとか、神がかってて読めないとか言ってたけども、ほぼ言い当ててるようなものだ。一体、どんな洞察力してんだって思う。
 
 そういえば、ルードは言葉も通じたな。サブロも話せるようになるのかな?

 話したいような、話したくないような、そんな気分を抱えて街外れを進む。子供は話せるようになった途端に小憎らしくなるって、かつての同僚の大半が言ってたからな。意思疎通はできてるし、今のままでも良いかな、と思う。

 さて、季節は秋。ドゴン一味と一戦交えたとき、そして戦乙女隊に道を阻まれたときにも見たが、黄金色の稲穂がこうべを垂れている。風もないのに揺れているのは、農民ドワーフが風術で起こした風を当てているからだろう。

 長閑のどかな風景と土の匂い。日本にいたとき、電車の車窓から、こんな感じで流れていく景色を見たことを思い出す。

 懐かしいな。

 郷愁に浸る。どうして浸ってしまったのかと言えば、ムームー列車がやけに静かになっていたから。あ、そうだ! と、存在を忘れていたことに気づいて心臓が跳ねる。チラリと後ろの様子を見たら、悪ガキ共が気絶していた。

 新手の拷問だよな、これ……。

 乗車中は体育座りしか許されない。氷漬けなので微動だにできない上に冷たい。この世界ではあり得ない速度で引っ張られる。障害物があってもサイコパスな運転手の判断で乗り越えられそうなら気にせず突っ込む。発展途上のアクティヴィティもびっくりな乗り物。乗り物というか乗客一体型の拷問器具。

 これを忘れてノスタルジーって大丈夫なのか俺?

 ようやく罪悪感めいたものが湧き上がってきたところで、舗装された道が近づいてきた。【吸引】を止め、ムームー言わなくなった列車の後ろに回る。それから最後尾の悪ガキの肩だけ氷結を解除して両手で掴み、慣性で流れていく列車の方向を変えつつ、じっくりとブレーキを掛けていく。悪路なので、速度はすぐに落ちていった。

 丁度良く、舗装された道の手前で停止。悪路でなければ軽く押すだけで動くので、ゆっくりと詰所まで運んだ。昼時は人の往来が少ないので、さほど目立つこともなかった。と、思う。多分。

 悪ガキ共を衛兵に引き渡して事情を説明した俺は、例の如く誰もいない路地に入って【浮遊】を発動し、天井付近まで一気に上昇。全速力で冒険者ギルドへと飛んだ。

 時刻はもう十二時半になろうとしている。女子たちが空腹に耐えかねて先に食事をとっていたらどうしよう。そう思うと気が気ではなかった。

 鬼教官は、どこでもバイキングマンな上に幸せ愉快犯なのだ。

 勝手に腹を満たされてたまるか。

 皆がいるのに、俺だけぽつんと孤食っていうのは嫌だからな!

 それは元の世界で十分に堪能した。寂しいとか悲しいとか感じなくなるほどに。

 だからもういい。こっちでは、一緒にいてくれる誰かとご飯を食べたい。

 だってその方が美味しいんだもの。

 喜ぶ顔が見たいんだもの。

 多分、俺はそういったものに飢えてる。

 あれ……? ちょっと待てよ……?

 もしかして俺、かまってちゃんじゃないか……?

 恐ろしいことに気づき愕然とした直後、術の操作を誤った俺は、目の前まで来ていた冒険者ギルドの壁に激突した。
 
 
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