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それぞれの成長 元戦乙女隊編
閑話 レインの過去(3)
しおりを挟む「何なの、この気持ち悪い連中⁉ あんたの祠、こんな連中のとこにあんの⁉」
「知るかよ! こいつらが勝手に俺の祠があるとこに家建てたんだろうがよ!」
「じゃあ、これを機に変えちゃえば?」
「そのつもりだよ。おい、待たせたな。残念な話だけどよ、エルフが俺と繋がると、もう拒否権は与えられねぇんだ。で、大抵は死ぬ」
レインはその言葉に怯えた。エルフの里でもそのように聞いていたので、愕然とはしなかったが、悄然とできるほど落ち着いてもいられなかった。
(私、死にたくありません!)
「だろうな。皆そう言う」
「私のとこに来る連中もそうね。でもね、お嬢ちゃん、それは私たちがそうなるようにしてるからなのよ。内緒だけどね」
「殺す力を欲して、他は何もいらねぇって奴が結構いるんでな。そういう危ねぇのは害悪にしかならねぇから、こっちで殺してるってだけだ」
「種族適性崩壊って、何だかよく分からない言葉が付けられてるけど、本当は違うのよ。エルフは火と闇との親和性が高すぎて、肉体に変化まで及ぼしちゃうってだけ。深く結びついちゃうから、二度と外せなくなるのよ」
「火を得た時点で、闇も得る。闇を得た時点で、火も得る。ここが肝心なとこだが、俺たち以外の属性は追い出されて消えてなくなる。生涯二つだけだ。まずは――」
生きるか、死ぬか、選べ。火の精霊は、レインにそう言った。
死ぬなら、苦しみを与えずに命を奪う。だがもし生きるなら、火と闇の多大な力は得るが、常に偏見の目が付き纏う、孤独で悲しい人生を過ごすこととなる。
「ダークエルフ。お前はそう呼ばれる存在になる。禁忌を犯したとされて、エルフの里には入れず、寿命は四倍に跳ね上がる。最低でも千二百年は生きることになるな」
「辛いのはね、歳の重ね方がエルフと変わらないことなのよ。人生の四分の三は、人族で言うと八十歳ほどの老婆として過ごさなきゃならないわ。それでも生きる?」
レインは生きることを選んだ。火と闇の精霊はそれを祝福し、「頑張れよ。側にいるからな」「いつも見守ってるわ」という言葉を最後に、レインとの繋がりを断った。
(ありがとうございます。精霊様)
レインが目を開くと、火の祠が崩れ去った。
「なっ⁉ 小娘! 貴様! 何を⁉」
ドノヴァンが驚愕に目を見開いたとき、レインは心臓が大きく脈打つのを感じていた。全身がひび割れていくような痛みに叫び声を上げ、その場に蹲る。
レインの体が黒い炎に包まれる。
その様を見て、大広間は騒然となり、ドノヴァンと使用人が後退る。
「禁忌を犯した報いだ」
エルフの夫が慄き呟いた。妻は夫に寄り添い震えている。
ドノヴァンの表情が怯えに歪む。
客たちの中に立ち上がる者が出始めた頃、大広間の扉が勢いよく開かれた。
「何をしている!」
軍服に身を包んだウェッジが叫んだ。【影転移】の習得が済み、試しに遠征先から自宅へと戻ってみたところ、この騒ぎ。その目に映る光景に目を剥き、歯噛みした。
「ドノヴァン! 貴様! 何をした!」
「ウェ、ウェッジ兄さん、これは、その」
客たちが我先にと席を立ち逃げるように出て行く。ウェッジはその人の群れを尻目に、つかつかと舞台に歩み寄り、震えるドノヴァンを殴り飛ばした。
「火の祠はどうした⁉ この子は何故こんなことになっている⁉」
「種族適性崩壊を、無理矢理」
「何だと⁉」
エルフの夫から知らされ、おおよその状況を把握したウェッジは、床に倒れ込んだドノヴァンの胸倉を掴んで持ち上げる。
「殺しても殺し足りんような男だな、貴様は! 我がローライズ家の恥だ!」
「い、いえ、これは、学術的見地から」
「ふざけたことを抜かすな! このエルフの男女は何だ!」
「こ、これもですね。尊厳と命を秤に掛け、亜人は人か獣かを」
「貴様の戯言など聞く耳持たん!」
ウェッジは剛腕を振るい、一回転してドノヴァンを放り投げた。遠心力の勢いがつけられた投げで吹き飛んだドノヴァンは、使用人を巻き込んで壁に激突し、そのまま意識を失った。
「あ、あの、助けてくださるんですか?」
「心配しなくて良い。すまんな。愚弟が酷いことを。すぐに治療を行うからな」
「いえ、それよりも、あの子を」
「ああ、そうだな。だが……いや、やれるだけやってみよう」
エルフの夫婦に目で示され、ウェッジは頷く。そして、着ていた軍服のコートを脱いでレインに覆い被せ、そのまま抱きしめた。
(これで消えてくれれば良いが……)
黒い炎は、ウェッジの両腕を焼いた。それは回復術を用いても消えることのない痕を残した。
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