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第二章

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 案外気が付かないものなんだな、と言うのが俺の率直な感想。
他人の排泄事情を気にするなんて、変態以外の何者でもないわけだけど。
でも、それでも、一度気になったものはずっと気になり続けてしまう、それが人間の本能だ。

 でも、もしそうだったとして、何故行かないのだろう、ここが腑に落ちない。未だ信じ切れていない所以だ。
(そういうプレイか…?)
俺も男だ。世の中は広いから、そういう性癖があることも知っている。でも、まさか、あの時田が…?
 あり得ないとは思うけれど、もしも万が一そうだとしたら、一友人として辞めさせなければならない。体にだって悪いし、失敗したら不登校レベルの羞恥なのだから。
「時田、トイレ行こーぜー」
いつものように、声をかけてみる。
「いや、俺はいいや」
(やはりそうくるか…)
無理矢理着いてきてというのも、いささか気持ち悪い。女子じゃあるまいし。時間をおいて誘うことが得策だ。

(なぜだ…)
あれから数回声をかけたにも関わらず、一回も捕まらない。
「篠田、何か今日頻尿だな」
と言われてしまう始末。
隣の席だから膝元を注視していたらよく分かる。明らかにもぞもぞと膝を摺り合わせていることが。
(あ、立った)
授業終わりのチャイム、ようやく彼が席を立つ。でも向かう方向は、トイレとは逆サイドの階段。購買の方向でもないし、選択科目の音楽は今日はない。そっと後を追う。
(…4階?)
そのフロアは確か、廃材や行事ものの資材を置いているところではないのだろうか。少女マンガならここでおっぱじめたりするのだろうが、ここは現実世界。そんなことをする人間はいないし、むしろホコリっぽくてだれも入りたがらない。
 彼が向かったのは、一番端っこの部屋。途端にキョロキョロし始めたから、慌てて隠れる。
ガラっ、
建て付けの悪い扉の音が響く。
ゴンっ、
閉まった合図と共に距離を詰める。何をしているのだろう、彼はロッカーに手をかけていた。
(…ペットボトル?)
疑問に思ったのは一瞬、ベルトを外すシーンで何となく用途が分かってしまうが、観察を続ける。
ボロリ、何日ぶりに見ただろう、彼の性器は飲み口に密着して。
水しぶき、黄色い水しぶきを上げながら、みるみるうちにその液体で満たされている。
 そう、彼はおしっこをしていた。
顔を赤らめながら、でも作業は滑らかで慣れているのが分かる。隣のロッカーに手をかけ、キャップで蓋をして、再びロッカーに戻す。
 頭が真っ白だった。なんで、わざわざそんなことを。
(やっべ…)
束の間のフリーズのうちに部屋を出ようとしている。鉢合わせて普通の顔が出来る自信がない。全速力で見えなくなる角へと走る。
「…誰かいるのか?」
肩が自分でも分かるくらいに跳ねる。こんなの、10年前のかくれんぼぶりだ。幸い、俺だと言うことはバレていない。バスケ部の脚力があって良かった。足音は確実に聞こえているだろうが。
(見なかったことにしよう…)
全速力で教室に帰る。席についても、運動だけではない要因で心臓がバクバクと煩い。
「おかえりー、どこ行ってたん?」
「ちょっとな、先生のとこ」
やがて時田が帰ってきて何ごとも無かったかのように教科書を出す。
キーンコーン、カーンコーン、
いつもの合図が鳴り響き、古典の教師が入ってくる。
今までで一番長い休み時間だった。


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