寂しいを分け与えた

こじらせた処女

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 眠い。何をしていても眠い。ご飯を食べていても、風呂に入っても。今は夜で、布団は前に敷いてあって、寝れば良い。でも、寝たくない。
 今日もいっぱい怒られた。怒られた内容もあまり覚えていない。ダメって分かっている。多分師匠は俺がおねしょしても怒らない。でも、嫌だって思ってしまう。今までは師匠に怒られたら怖い、って思うだけだったのに、最近は鬱陶しいって思うようになった。口答えしそうになって、でも何て言ったら良いか分かんなくてイライラする。

『夜眠れないのなら、眠れる努力をしなさい』
昼に言われたことを思い出して、また息が詰まる。寝なきゃって分かってる。布団に入ったらやっぱり眠くて目が閉じる。それが悲しくて悲しくて、涙はぼろぼろと閉じた目から溢れて。
 俺は何をしているのだろう。何の涙で、何が嫌なんだろう。言葉にできないから、かけていた布団をぐちゃぐちゃにした。



「よか、た、でてない、」
心臓がバクバクしてる。布団の中で手を滑らせる。あ、乾いてる。よかった。頭は相変わらずぼーっとしていて、喉はカラカラなのに、腹の中はムズムズと気持ち悪い。厠に走って小便を出すけど、ほんの少ししか出ない。むしろ、流れる水が美味しそうで、思わず喉がなる。眠いのに眠れない。泣きじゃくったまま眠った目には目やにがこびりついて、汚すぎて顔を洗った。
 ちゃんと眠らないと。考える度に心臓がバクバクして、緊張する。別に布団を汚すくらい、何度もそう思おうとした。でも結局目は覚めるし、寝る前よりも疲れている。腹の中がかき混ぜられたみたいで気持ち悪い。
 もう一回布団に入る。眠いはずなのに心臓がおかしい。っていうか、苦しい。息を吸っても吸っても吸いきれなくて、頭がぼやぼやして、あれ?俺死ぬんじゃない?ってなって。足が痺れて、意識も遠くなって。口元を手で押さえても、どうにもならなくて、気がついた時には目の前が真っ暗になっていた。



 
 
 妙に頭が冴えている。襖からは光が漏れていて、ああ朝なんだって分かった。癖づいた布団の中の確認。もちろんぐっしょりと濡れている。大丈夫。師匠は怒らない。むしろ、きちんと寝られたから良いことって言ってくれる。何度も何度も言い聞かせる。でも、やっぱり恥ずかしくて、どうしようもなく涙がこぼれる。起きなきゃって思うのに起きられない。頭はスッキリしているのに、胃が重くて口の中も気持ち悪い。昨日の苦しいまま体調が悪くなればよかった。そしたら仕方がなかった。変に頭が冴えているから、今の現状がわかって苦しい。
 味噌汁の匂いがする。とっくに起きなきゃならない時間は過ぎている。何とか体を起こすけど、息は引き攣ったまま。
「灯?起きてるか?」
 いつもは早く起きろと遠くから叫ぶはず。なのに今日は部屋の前まできて、小さく声をかけられる。慌てて目元を拭う。
「ぁの、おれ、」
「…着替えるか?」
何も言っていないのに。まるで察したと言わんばかりに頭を撫でられる。
「まだ残っていそうか?」
 顔が一気に熱くなる感触がした。手を引かれ、厠に連れて行かれて。ぐしょぐしょに濡れた背中を撫でられて、気にするなと慰められた。
 便器を見た瞬間、一気に欲が湧いて慌てて浴衣の紐を外そうとするが、上手にできない。幼い子供みたいに足を組み替えて我慢する姿も、耐えきれずに前を握りしめる姿も全て後ろから見られている。
「落ち着きなさい」
後ろから大人の手が伸びるのも、紐が解かれ、おしっこの準備を全部してもらうのも。全てが恥ずかしくて死にたくなる。
「ぁ、でっ、でちゃう、」
びちゃびちゃと我慢していたものが溢れる。前までこんな失敗なかったのに。考えたこともなかったのに。何回も厠に行って、喉の渇きも我慢したのに。馬鹿にされている心地すらして、今の現状に耐えられない。
「すっきりしたか?」
声も出したくない。ごめんなさいも言いたくない。
「じぶんで、するから、」
そのまま服を脱がせて体を拭こうとする師匠を止めて、布をひったくる。
「向こうにいるからな」
目も合わせたくない。見ないでほしい。そのくせ師匠が出ていって1人になったら、やっぱり居てほしかったって思ってしまう。
「もう…いやだ…」
縋りたい。いっぱいいっぱいに泣き喚いて、全てを委ねてしまいたい。




 
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