寂しいを分け与えた

こじらせた処女

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「灯、あかり、」
あ、ぼーっとしていた。慌ててお茶碗を持ち直そうと手を伸ばす。
(あれ、)
ふと、何で親指が濡れているんだろうと疑問に思った。
「あ、……え?」
親指、口に入れてた?師匠は何も言わない。気づかないフリをしている。服で隠すように拭いて、お茶碗を握りしめる。
何でこんなことしちゃうんだろう。自分が分からない。夜の厠も間に合わないままで、どんどん自分の体が赤ん坊になっている心地すらする。
「具合でも悪いのか?」
気づけば師匠は食べ終わっていて、自分の茶碗の中身は全く減っていない。それが理由なのかは分からないけど、焦って、イライラして、思わず箸を投げた。
「っ、あれ、」
自分は何をしているんだろう。お茶碗は畳の上に落ちて、ゴトリと音を立てて転がった。
「灯、」
「っ、いらない、たべない、」
こんなこと言いたくないのに。気持ちとは裏腹に、味噌汁も、魚もひっくり返して汁が床を濡らした。
「灯!!」
こんな事をして怒られるなんてのは分かりきっているのに。
「飯を粗末にするなんて、お前は随分偉くなったものだな」
背中が冷えた。何でこんな事しちゃったんだって分かんなくなった。肩を掴まれて、目線を無理やり合わせられた。
 怒ってる。師匠、怒ってる。謝りたいのに、ごめんなさいが出てこない。怖いのに、まだ気持ちのイライラがおさまらない。
「ごはん、おいしくないっ、食べたくないっ、」
 思ってもいないことが口を滑る。本心じゃない気持ちが師匠に伝わってしまう。
 ペシンと頬を叩かれた。自分が悪いのに、ぼろぼろと涙がこぼれていく。気づいたらまた、親指を咥えていた。
 何もかもが分かんなくて、叩かれた事がただただ悲しくて。
「ししょう、叩いたぁ…」
泣きじゃくっている自分はどれほどまでに幼いのだろう。どれほどまでにみっともないのだろう。もし鏡が目の前にあっても直視したくない。
 師匠は今多分困っている。俺の事を抱きしめているから。
「悪かった。叩いたの、痛かったな」
師匠に謝らせている自分が気持ち悪い。
「でも食べ物にあたるのは良くない。分かるな?」
背を叩かれてあやされている自分も、5つの子でも分かる事で説教されている自分も、しゃくりあげて返事もできずに首を振り続けている自分も。
 師匠に抱っこされて、ホッとしている自分も、全部全部気持ち悪い。
 
 
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