寂しいを分け与えた

こじらせた処女

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まずいかもしれない。気持ち悪い。師匠におぶってもらって、荷物まで持ってもらっているのに。歩く振動が辛くて何度も喉から空気を出して誤魔化そうとするけど、どんどん胃が収縮している感覚が強くなっている。せっかくもらった飯を吐くのを見られたくない。だからといって、師匠の背中で吐くのは流石にまずい。どんどん息があがって、どうしようどうしようって焦りが募る。
「ししょ、おろ、してっ、」
無理。吐きそう。生理的な涙が鬱陶しい。師匠は何も言わずにしゃがんでくれた。余裕がなくて、すぐさま後ろを向いてえづく。でも、出るのは声だけで口の中は驚くほど乾いている。お腹を抱えて疼くまる。胃がこれ以上ないまでに縮むのが分かった。びくびくと喉が震えて、でも、吐けない。よだれだけがダラダラと垂れて、さっきよりマシになったけどまだ、お腹の中の不快感は残っていた。

 また気分が悪くなったら言いなさい、と師匠は俺をおぶって再び歩く。いっそ事眠ってしまえたら楽だろうか。でも、目は痛くて変に覚醒していて眠れない。ずっと気持ち悪い。降ろしてほしい。でも、どうせ吐けないのにって思ってしまって言えないまま。
「っ、」
頬を横にして、体を浮かせて。上がり続ける息も、口の中のすっぱさも、どうにかしてほしい。
「む、り、ししょ、はく、」
これで3回目。でも、何も出てこない。背中をさすられても、とんとんと叩かれても何も出ない。出るのは唾液だけ。何度も何度もえづく。そろそろ体が疲れた。早く楽になりたい。いっそ殺してほしい。
 師匠の家まであと少し。遠くに見えてきた。早く着け。着いたら厠に行って、腹の中のもの全部空っぽにするんだ。それで、それで…。
「着いたが…厠か?」
声にもならない息で頷くと、早足で向かってくれた。
師匠がしゃがむ。早く降りなきゃ、そんで、はやく。一気に視界が低くなったのが良くなかったのだろうか。きゅうって胃が縮む感覚がして、咄嗟に口を押さえたけれど遅かった。
「う゛ぇっ、」
 地面に足がついた瞬間だった。べちゃりとしたものが口から溢れた。溢れたものは丁度師匠の背中に付いた。
なんで。道中どれだけ吐こうとしても出てきてくれなかったくせに。せっかく家に着いたのに。口からはコポコポと手のひらを伝って落ちていく。胃の痙攣が止まらない。何度も何度もえづくの、辞められない。
 どうしようって思った。自分の服はまだしも、師匠の服まで汚した。出るものがなくなって段々、気分が落ち着いて改めて、目の前の惨状に気付く。
「ぁ、な、んで…」
 床についた太ももが温かい。それで気づいた。俺、漏らしてる。嘔吐えず
きすぎて腹の変なところに力が入ってしまったのだろうか。べちゃべちゃに汚れた手を前に持っていって、握りしめる。
 悲惨な光景から目を逸らしたくて、でも師匠の顔は見ることが出来なくて下を向いた。
「もう気分は悪くないか?」
背を撫でられている。力なく頷くと、そうかと言われた。
「着替えを持ってくる。できる範囲で脱いでいてくれ」
1日に2回も漏らして、吐いて。何してるんだろ俺。
 あれ、何しておけって言われたっけ。
頭は真っ白で、とりあえず立ってみてもどうすればいいか分かんない。ドロドロに汚れた手をただぼーっと見て、立ち尽くす。
あかり?あかり?」
緩く顔を上げると、師匠がカゴいっぱいの布を持って立っている。
「こっち来なさい」
汚い場所から5歩離れたところ。服を脱がされて、体の表面から、手の一本一本までもを丁寧に拭われた。
「もう気分は悪くないか?」
頷いたら、コップに入った水を渡される。
「うがいして、少しだけでも飲んでおきなさい」
言われた通りにしか出来ない。自分でどうすれば良いのかを考える、そういう能力がなくなってしまったみたい。
「っぁ…」
何で。下、綺麗にしてもらったばっかりなのに。急に地面が冷たいって思った。肩が震えて、我慢できなくて。温かい水が足を、地面を伝う。
「え、あ、…」
 恥ずかしいとかって感情は沸かない。もう止めようとかいう思考にもならない。師匠が俺の背を撫でて、全部出してしまいなさいと言っている。目の前に濁った膜が張っているみたいで、夢の中みたいで。俺のおでことか頬を触っている。濡れた足をまた、新しい布で拭っている。
「ごめんなさい、」
回らない頭で、回らない口で、それしか言えなかった。
「もう辛いところはないか?」
「腹は?しんどかったり、気持ち悪くないか?」
「何か食べられそうか?」
 全部の質問に頷くと、寝室に連れて行かれて布団をかけられた。鍋半分のお粥と梅干しを食べて、熱いお茶を飲んだ。
 もう寝なさいという言葉通りに目を閉じた。疲れていたのだろう、いつ寝たのか分からないくらいにすぐに意識を飛ばすことができた。ぼんやりとした頭で助かった。とにかくもう、何も考えたくなかった。




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