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*グレスタン公国*
6 侵攻
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「今日は久し振りの晴れ間だ」
雪が太陽の光を反射してキラキラと輝いていて、とても綺麗な雪景色が広がっている。
相変わらず水は冷たいし、洗濯も時間が掛かってしまい昼食抜きな日が続いてはいるが、外に居れば誰とも会う事がないから、精神的には楽なのかもしれない。
「よし、今日も洗濯を頑張ろう」
パリンッ─────
「──何!?」
いつもの通りに洗濯をしていると、何かが壊れたような大きな音が響き渡った。
それは、結界が破壊された音だった──
そこからは、あっと言う間の事だった。
寒期だから大丈夫だ─
やって来た者達は少人数だから問題無い─
本当に何かあれば、いざと言う時には竜王様、竜人族が助けてくれるだろう─
平穏な生活に慣れ過ぎた上、楽観的な思考な貴族達。それらの考えは、全て覆される事となった。
荒波の中、海を泳いでやって来た少数の者達は、上陸すると結界を破壊する者と首都を目指す者達に分かれた。見た目は人と変わらないから誰も気付かない。人が意識を向けていたのが、大きく響きわたった音だったからと言うのもある。
そうして、気付いた頃には、その者達はグレスタン大公の邸に辿り着いていた。
その者達の目的は唯一つ。
「俺達に優先的に魔石を輸出しろ」
その者達は、魔力を持たない獣人族だった。
獣人族にも国や国王によって、保守派、革新派、過激派とに分かれている。
勿論、今回グレスタン公国に攻め込んで来たのは、過激派の国王が君臨するテイルザール王国の獣人だった。獣人国の中で唯一の過激派で、実力主義な国だ。そんな彼等の唯一の弱点が“魔法”だった。どんなに身体能力がずば抜けていようとも、魔法には敵わない。それ故に、純度の高い魔石を保有するグレスタン公国を手中に収める事は、テイルザール王国にとっては悲願でもあった。
そして、竜王の加護が無くなり結界も弱まった今、テイルザール国王はチャンスとばかりにすぐさま行動に出たのだった。
どうして結界が弱まってしまったのかは分からないけど、竜王の加護が無くなってしまったのは、本当の事だったようだ。
完璧な警備体制だったにも関わらず、少人数の獣人にアッサリと攻め込まれたグレスタン公国。楽観的に見ていた大公も、流石に無駄な抵抗はしなかった──できなかった。
後日、獣人族でも保守派のウィンスタン王国の国王が仲裁役として介入してくれたそうで、魔石の取り引きも、酷いものにはならなかったそうだ。ただ、その代わり─と、テイルザール国王は、ある条件を突き付けた。
******
「レイとなってからそれ程経っていないのに、何とも見窄らしい姿になったわね」
クスクスと嗤っているのはグレッタだ。
テイルザールからの侵攻があってから3ヶ月。私が使用人となってから1年経った頃、ダンビュライト公爵から呼び出されて、久し振りに公爵の執務室へとやって来た。
お父様が健在だった頃、何度か入った事はあったが、その時とは室内は様変わりしていて、異様にキラキラ光る物があちこちに飾られていた。
そんな執務室には、ダンビュライト公爵夫妻と娘のグレッタが椅子に座っていて、入室して来た私を見てのグレッタの発言がソレだった。
見窄らしいのは当たり前だ。私は貴族のご令嬢ではなく、ただの使用人なのだ。毎朝日が昇る前に起きて洗濯をして、終われば邸の掃除。夜にはヘトヘトになり、入浴後は気を失うように眠りに就く。レイラーニだった頃のように、自分の為に使う時間なんてないのだから。
「何とも腹立たしい事だが、我が国の魔石を他国に損が出ない程度にテイルザール王国に優先的に取り引きをする事になった。ウィンスタン国王のお陰で、こちら側も最低限の損害で済ませる事ができた。ただ……友好の証として我が公国から側妃を迎え入れたいと言われたのだ」
“側妃”と言う名の“人質”だ
「ただ、今の大公筋には適齢の女性は居ない。続く有力貴族の女性達には既に婚約者が居る」
ーあぁ、なるほど。そう言う事かー
「お前にまた、ダンビュライトを名乗る事を許してやろう」
ギュッと制服のスカートを握りしめる。
「良かったな。お前は使用人から貴族令嬢に戻り、更に王族へと嫁げるのだ。これ以上の幸せはないだろう?幸せになれて、我が国も平和になるのだから、喜ばしい事だな」
獣人国の中でも過激派のテイルザールの獣人が、人間嫌いだと言う事は有名だ。特に、魔力を持っている人間を嫌っている。ダンビュライトは特有の魔力持ちの家門で人質としては文句の無い人材だ。気に入らなければ殺そうとするかもしれないし、殺されたところでダンビュライト家もグレスタン公国も損にはならない。
「迎えは1週間後だ。それ迄の間はこの本邸で公爵令嬢として過ごしてもらう。一応はダンビュライトの令嬢だから、恥ずかしくないよう最低限の事はできるようになっておくように。後は、メレーヌの言う通りにするように。それだけだ。もう下がれ」
「ふふっ…良かったわね?色持ちの能無しさん」
「……失礼します」
こうして、私はダンビュライトの令嬢として、テイルザール国王の元に輿入れする事となった。
雪が太陽の光を反射してキラキラと輝いていて、とても綺麗な雪景色が広がっている。
相変わらず水は冷たいし、洗濯も時間が掛かってしまい昼食抜きな日が続いてはいるが、外に居れば誰とも会う事がないから、精神的には楽なのかもしれない。
「よし、今日も洗濯を頑張ろう」
パリンッ─────
「──何!?」
いつもの通りに洗濯をしていると、何かが壊れたような大きな音が響き渡った。
それは、結界が破壊された音だった──
そこからは、あっと言う間の事だった。
寒期だから大丈夫だ─
やって来た者達は少人数だから問題無い─
本当に何かあれば、いざと言う時には竜王様、竜人族が助けてくれるだろう─
平穏な生活に慣れ過ぎた上、楽観的な思考な貴族達。それらの考えは、全て覆される事となった。
荒波の中、海を泳いでやって来た少数の者達は、上陸すると結界を破壊する者と首都を目指す者達に分かれた。見た目は人と変わらないから誰も気付かない。人が意識を向けていたのが、大きく響きわたった音だったからと言うのもある。
そうして、気付いた頃には、その者達はグレスタン大公の邸に辿り着いていた。
その者達の目的は唯一つ。
「俺達に優先的に魔石を輸出しろ」
その者達は、魔力を持たない獣人族だった。
獣人族にも国や国王によって、保守派、革新派、過激派とに分かれている。
勿論、今回グレスタン公国に攻め込んで来たのは、過激派の国王が君臨するテイルザール王国の獣人だった。獣人国の中で唯一の過激派で、実力主義な国だ。そんな彼等の唯一の弱点が“魔法”だった。どんなに身体能力がずば抜けていようとも、魔法には敵わない。それ故に、純度の高い魔石を保有するグレスタン公国を手中に収める事は、テイルザール王国にとっては悲願でもあった。
そして、竜王の加護が無くなり結界も弱まった今、テイルザール国王はチャンスとばかりにすぐさま行動に出たのだった。
どうして結界が弱まってしまったのかは分からないけど、竜王の加護が無くなってしまったのは、本当の事だったようだ。
完璧な警備体制だったにも関わらず、少人数の獣人にアッサリと攻め込まれたグレスタン公国。楽観的に見ていた大公も、流石に無駄な抵抗はしなかった──できなかった。
後日、獣人族でも保守派のウィンスタン王国の国王が仲裁役として介入してくれたそうで、魔石の取り引きも、酷いものにはならなかったそうだ。ただ、その代わり─と、テイルザール国王は、ある条件を突き付けた。
******
「レイとなってからそれ程経っていないのに、何とも見窄らしい姿になったわね」
クスクスと嗤っているのはグレッタだ。
テイルザールからの侵攻があってから3ヶ月。私が使用人となってから1年経った頃、ダンビュライト公爵から呼び出されて、久し振りに公爵の執務室へとやって来た。
お父様が健在だった頃、何度か入った事はあったが、その時とは室内は様変わりしていて、異様にキラキラ光る物があちこちに飾られていた。
そんな執務室には、ダンビュライト公爵夫妻と娘のグレッタが椅子に座っていて、入室して来た私を見てのグレッタの発言がソレだった。
見窄らしいのは当たり前だ。私は貴族のご令嬢ではなく、ただの使用人なのだ。毎朝日が昇る前に起きて洗濯をして、終われば邸の掃除。夜にはヘトヘトになり、入浴後は気を失うように眠りに就く。レイラーニだった頃のように、自分の為に使う時間なんてないのだから。
「何とも腹立たしい事だが、我が国の魔石を他国に損が出ない程度にテイルザール王国に優先的に取り引きをする事になった。ウィンスタン国王のお陰で、こちら側も最低限の損害で済ませる事ができた。ただ……友好の証として我が公国から側妃を迎え入れたいと言われたのだ」
“側妃”と言う名の“人質”だ
「ただ、今の大公筋には適齢の女性は居ない。続く有力貴族の女性達には既に婚約者が居る」
ーあぁ、なるほど。そう言う事かー
「お前にまた、ダンビュライトを名乗る事を許してやろう」
ギュッと制服のスカートを握りしめる。
「良かったな。お前は使用人から貴族令嬢に戻り、更に王族へと嫁げるのだ。これ以上の幸せはないだろう?幸せになれて、我が国も平和になるのだから、喜ばしい事だな」
獣人国の中でも過激派のテイルザールの獣人が、人間嫌いだと言う事は有名だ。特に、魔力を持っている人間を嫌っている。ダンビュライトは特有の魔力持ちの家門で人質としては文句の無い人材だ。気に入らなければ殺そうとするかもしれないし、殺されたところでダンビュライト家もグレスタン公国も損にはならない。
「迎えは1週間後だ。それ迄の間はこの本邸で公爵令嬢として過ごしてもらう。一応はダンビュライトの令嬢だから、恥ずかしくないよう最低限の事はできるようになっておくように。後は、メレーヌの言う通りにするように。それだけだ。もう下がれ」
「ふふっ…良かったわね?色持ちの能無しさん」
「……失礼します」
こうして、私はダンビュライトの令嬢として、テイルザール国王の元に輿入れする事となった。
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