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*グレスタン公国*

7 最後の1週間

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ダンビュライトに戻ってからの1週間は、ある意味使用人の時よりも酷いものだった。

私に公爵令嬢としての立ち居振る舞いを指導しにやって来た伯爵夫人は、気に食わない事があればすぐにムチで打つような人だった。それを見て見ぬふりをするメレーヌ達。そもそも、を講師に選んだのかもしれない。
私に侍女なんてものは付けられる事はなく、自分の事は自分でして、食事もダイニングルームに呼ばれる事はなく、私の部屋に運ばれて来る物を1人で食べる。冷たかったり熱過ぎたりもしたけど、取り敢えずは1日3食用意された。ダンビュライト公爵の家門で送り出す為、家名に傷が付かないように、今以上に見窄らしい姿にならないようにする為なんだろう。

ー見えない所に、ムチで打たれた傷痕はあるけどー

見えない所なら大丈夫と思っているのか?伯爵夫人は分かっていないんだろうか?輿入れするとは……なのだから、服で隠れた場所に傷を付けたとしても直ぐにバレると言う事を。

「………」

家族だと思っていた人達とは血が繋がってなくて、本当の親が誰なのか、生きているのかどうかさえ分からない。そんな私が結婚するどころか、恋愛すらできるかどうか分からなかったけど…まさか、こんな形で結婚するとは思わなかった。喜んで迎え入れてくれる事はないだろうけど。

ーお姉様達が生きていたら…怒ってくれたりしたかなぁ?ー








******

「レイが、テイルザールに輿入れ?」
「そうよ。テイルザール国王からの申し入れで、“友好の証として、グレスタンの令嬢を側妃として受け入れる”と。それで、レイをダンビュライトの令嬢として送り出す事になったの。公王閣下も、レイがダンビュライト家の娘であると言う書類を調えて下さったわ」
「…………」

レイ─レイラーニ=ダンビュライト

私─ジャレッド=クラウシス─のかつての婚約者ロズリーヌの妹だった。ダンビュライト家では、有り得ない色持ちの無能と呼ばれていたが、ローズは勿論の事、先代の公爵夫妻もレイラーニをとても可愛がっていた。実際レイラーニに会ってみると、確かに、ローズの言う通り普通の可愛らしい女の子だった。最初こそ私に対して怯えたような表情をしていたけど、会う度に自然な笑顔を見せてくれるようになっていた。
あの頃は、レイラーニの事を、本当の妹のように可愛らしく思っていたのに───



『この庭園は、ローズのお気に入りの庭園だった。そのローズが居ないのに、何故レイラーニ……お前が居るんだ!?』

『どうして、ローズがあんな目に遭ったのに……色持ちの…能無しのお前が…………』


ーあんな事を言うつもりは無かったのにー


『色持ちだからって何なの!?レイラーニが何か悪い事をしたの!?レイラーニは可愛いだけよ!!』

ただ、白に固執するダンビュライト家に生まれてしまっただけで、そうでなければ普通の貴族令嬢として過ごす事ができただろう。
自分を守ってくれていた3人が死んでしまって、一番辛い思いをしていたのはレイラーニだったのに。

レイラーニには、あれから会えてはいない。
先代の実子ではない事が分かり、使用人として働いていると聞いていたから、会った時に謝ろうと思っていたけど──


「テイルザールが過激派だと…知っているのか?」
「勿論知っているわ。レイが輿入れする事になったのよ。これで、もう二度ジャレッド様の視界に入る事もないわ」
「─っ!!」



『ジャレッドも、レイラーニを守ってくれる?ダンビュライトの人間としてではなく、レイラーニ本人を見て欲しいの』


ローズとの約束も忘れて酷い言葉を吐いてしまった。そして、ソレが更にレイラーニを追い詰めるものとなってしまった。

「グレッタ…申し訳ない。しなければいけない事があるのを思い出したから、今日はこれで失礼するよ」
「残念だけど仕方無いわね。結婚式で着るドレスの仮縫いが終わったそうだから、週末にでも一緒にお店に行ってくれるかしら?」
「分かった…詳しい日時が決まったら連絡をしてくれ。それじゃあ──」


レイラーニを人質としてテイルザールに送り出しておいて、自分は結婚式の準備とは…本当に、なんて酷い扱いなのか……

ー私も、そんな事を言える立場ではないがー

今更謝ったところで、赦してもらえるとも、赦してもらおうとも思わない─思ってはいけないんだろうが……。それに、私はダンビュライトに婿入りをする立場だから、ダンビュライト公爵やグレッタに強く意見を言える立場ではない。

兎に角、今は私にできる限りの事をやろう──そう思いながら、私は急いでクラウシス邸へと帰った。




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