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44.一番手は意外な人物

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 辻馬車に乗るお金がなかったイライザは足に豆を作り2時間かけてメリッサの家に辿り着いた。

 気忙しそうに何度もノッカーを叩きつけたイライザは悠然とした態度で現れた執事の顔を見た途端甲高い声で叫んだ。

「さっさとなさい! 何をトロトロしてるの!?」

「本日はどなたもお見えになられるお約束がない為気付きませんで⋯⋯大変失礼を致しました」

 メリッサが聞けば吹き出すような意味深な理由を述べたライルは白いシンプルなシャツにストックタイを締め、テーラードジャケットにトラウザーズ。

「全く、これだから庶民は困るのよ⋯⋯それに、毎回気になっているのだけどあなたの服装もなってないわね。ここはステファンの家なんだからそのみっともないズボンはやめてちょうだい。恥ずかしくてお友達も呼べないわ」

「ステファン様の所有となりました後もこちらに勤めておりました時には、仰せの通りに変更されていただきます」

 流石にこの嫌味はイライザにも伝わったらしく古びた扇子をライルに突きつけた。

「使用人の分際でわたくしに意見するなんて、身の程をわきまえなさい! お前のような執事なんてステファンに言ってクビにしてもいいのよ?
今日からここに住んでわたくしが使用人達の教育をしますから部屋の用意をなさい。それから、湯浴みと食事の準備と⋯⋯まず最初にお茶とお茶菓子を持って来なさい!」

 顎を上げて『ざまぁ』と言わんばかりに口元を歪めたイライザが扇子でライルの頬を叩こうと手を振り上げた。

「お部屋につきましてはご希望をお聞かせ頂きましたら下級から上級のいずれでもご準備させて頂くことが可能でございます。お茶やお食事につきましては料金表をすぐにお持ちいたしますので、それをご覧になって頂いてご注文いただけますでしょうか?
湯浴みやメイドなどでございますがお部屋のランクによりましては別料金となっております。いずれも前金となっておりますのであらかじめご了承下さい」

「な、何を言ってるの!? わたくしはここの主人のステファンの母なのにお金を払えですって!?」

 一歩後ろに下がったライルが淡々と説明すると振り上げた手を下ろしたイライザが怒りでワナワナと震えはじめた。

「ご存知のようにこの屋敷は全てモートン商会会長の資産でして、使用人も全てモートン商会で雇ったものばかりでございます。
会長の指示で今までご購入された物品のお支払いを頂くまでは『後払い』不可と申しつけられております」

「あの女は義母の食事代や部屋代を取ると言うの? そんな事平民でも聞いたこともないわ」

「生活費は折半、その他ステファン様自身やコーク家に関わる費用は別会計と言うお約束をされたと伺っておりますので致し方ございません」

「なんて傲慢な! 貴族家に迎え入れてあげたと言うのにそんな恥知らずなことを言うなんて! こんな家に誰が住むもんですか! さっさと馬車の準備をなさい」

「では、馬車及び御者代前金でのお支払いを」

 怒りで顔を赤くしたイライザが『ただじゃ置かないんだから覚えてなさい!』と捨て台詞を残して玄関を出た。

「イライザ様、お忘れ物でございます」

 イライザの後ろから声をかけたライルが差し出したのは中身を売り払いからになった鞄。

「ステファン様に結婚後から本日までの生活費とご購入品などの請求書をお送り致しましたのでとご伝言をお願いいたします。次回お帰りになられた際にはお支払い下さいとお伝え下さい」

「ス、ステファンの生活費や必要な品の購入代金くらい払いなさいよ!」

「先ほども申し上げましたが⋯⋯コーク男爵家とのお約束では、生活費は折半その他ステファン様自身やコーク家に関わる費用は別会計でございます」



 頭から湯気を立てて家に帰ったイライザはソファにだらしなく座りワインを飲んでいるステファンに怒りをぶちまけた。

「まあまあ、多分それだけ金に困ってるってことだろ? 奴らの破滅は決まってるんだから好きなだけ言わせときゃいいんだよ」

(奴らはあの島で終わるんだもんな。で、商会も俺の実力を存分に活かせる仕事も全ては俺のものになるんだ)

「でも、言われっぱなしだなんて癪に触るわ! せめてあの生意気な執事だけでもクビにしてちょうだい」

「今度大学時代の仲間を集めてパーティーをやるんだ。それが終わったらなんでも母上の思い通りにできるから、クビなんてケチ臭いことを言わずに無礼打ちにしてやればいいさ」

 ご機嫌を取る為なのか酔いが回っているのか、ステファンがペラペラとパーティーの話をするとイライザが目を輝かせた。



「まあ、無人島でお友達を集めてのパーティーをするなんて楽しそうじゃない。メイルーン様もいらっしゃるなら私も行こうかしら⋯⋯あの方は近々司教になられるって噂だもの、ご挨拶しておいた方がいいんじゃないかしら?」

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