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59.メリッサの予想と作戦
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「ここにいる3人はハリーさんに助けられていた事に気付きもせずダラダラと惰眠を貪ったり悪態をついたり、恥ずかしいと思いませんの!?」
「助けられてたって⋯⋯どう言う事? アタシとヒューゴはその男に追いかけられてたんだから! 何度も捕まりそうになって逃げ出したんだからね」
「何度も逃げ出せること自体おかしいと思いませんでしたの!? サリナさんは随分派手に客引きをしてらっしゃいましたわね。ヒューゴさんは同じ酒場に何度も顔を出しておられましたし? 私達がおふたりを探しはじめたら割とすぐに見つかりました。それなのに長い間探しておられたハリーさんに捕まらなかったのは何故か⋯⋯その足りない頭で考えてごらんなさいませ!」
「そ、それは⋯⋯その男が役立たずで」
「本当にそう思われます? 顔がわかっていて堂々と客を探しているサリナさんを捕まえてしまえばヒューゴさんを捕まえるのなんて簡単なのでは? 同じ酒場に何度も足を運ぶならそこを張っていればすぐに捕まえられるのでは?
失礼な言い方ですけど、今のヒューゴさんとハリーさんなら力勝負になってもハリーさんが簡単に勝つと思いますわ」
「嘘! アタシのヒューゴが負ける訳ないじゃん」
子供を捨てて娼婦に身を落としても一緒にいたかった大切なヒューゴをバカにされたように感じたサリナは目を吊り上げてメリッサを睨みつけた。
「ヒューゴさん達とハリーさんには決定的な違いかあるんですもの、勝てるわけがありませんわね」
「⋯⋯なによ、何が違うって言うのよ!」
「ヒューゴさん、子供達の名前を言えますかしら?」
突然話の矛先を向けられたヒューゴはベッドに座ったまま身じろぎして眉間に皺を寄せた。
「え? えーっと、長い間会ってないから⋯⋯確か上の子はジェイって呼んでたから ⋯⋯ジェ、ジェイク?」
「優しいお兄ちゃんのジェイミーはちょっと泣き虫さんでしっかり者のアイラはお歌が上手でしたわ。お爺ちゃんとお婆ちゃんが大好きでいつもお手伝いをしてくれる良い子なんだって言っておられました。
子供を平気で捨てて一度も連絡をしようとしない、お父様のペニー・メールにも返事をなさらない⋯⋯ヒューゴさんやサリナさんは自分達の事が一番なのでしょう? そんな身勝手で無責任な方は守りたい人を守る為に懸命に足掻いている心の強い方には絶対に勝てません」
黙り込んだヒューゴとサリナは気まずそうにメリッサから目を逸らした。人を見殺しにして逃げたことを知られているだけでなく子供を親に押し付けたまま放置している事を指摘されたふたりは流石に言い返す事ができなかった。
「リリアナさんは以前私に『兄さんを助けに行きたい』と仰っておられたのに何を血迷っておられるのかしら? リリアナさんの安全を守る為にひとりで戦ってこられたハリーさんにようやく会えたのに『ありがとう』も『会いたかった』も仰いませんの?」
「⋯⋯だって、アタシは伯爵夫人になるんだもん。だから犯罪者の家族とかマズいと思うし⋯⋯本当にアタシが大事ならちゃんと分かってくれるはずだもん」
気まずそうに下を向いたままぶつぶつと呟いたリリアナがチラチラとハリーの様子を窺ったが、ハリーはそれに気付いた様子もなくずっと下を向いていた。
「では、私がハリーさんを貰いますわね。二度と会ったり連絡をよこしたりしないでくださいませ。ひとりっ子ですからお兄様ができるなんてすごく嬉しいですわ。血は繋がっておりませんけれどハリーさんのような誠実な方ならきっと良い家族になれる気が致します」
本気でびっくりしたらしく目を大きく見開いてメリッサを凝視したリリアナが『犯罪者なのに?』と呟いた。
「何か問題がありますかしら? ハリーさんが今までどんな事をしてこられたのか詳しくは存じませんから、法に触れる事をされた覚えがあるなら罪を償ってこられるのを何年でも待ちますわ。
ほら、別になんの問題もありませんでしょう? ハリーさんのお気持ちは後でお聞かせくださいませね。話し合ってお互いをしっかりと知ってからでなければお返事はしにくいと思いますもの」
ピクリとも動かないハリーはまるで蝋人形か抜け殻のようで生気が全く感じられなかった。
「⋯⋯ダ⋯⋯ダメだよ、ハリー兄さんはアタシの兄さんなんだもん⋯⋯アタシの兄さんなんだから⋯⋯あんたみたいなおばさんにはあげないからね!」
甘やかされた末っ子の特権とでも言うのか、リリアナは何を言ってもハリーは許してくれるからと安心し切って暴言を吐いていた。
自分が伯爵夫人になってからハリーを陰から助けてあげれば昔と同じようにハリーは頭を撫でながら『しょうのない奴だなあ』と笑ってくれる⋯⋯リリアナの頭の中では揺るぎない幸せな未来図が描かれていた。
(それなのに兄さんを取り上げるなんて絶対にダメだから!)
優雅で豪華な生活を保証してくれるケニスとなんでも許して甘えさせてくれるハリーはリリアナの幸せにとって欠かすことのできないふたりだった。
(アタシがお姫様になる為にはどっちもいなきゃ足りないの! 兄さんはいつだってアタシを一番大事にしてくれてたから何をしても何を言っても絶対に許してくれる⋯⋯だから邪魔しないで!)
「え~! 犯罪者の家族はいらないって仰いませんでしたかしら? 本当に犯罪者なのか、罪を犯したと言うのなら何故何をしたのか聞きもせず捨てようとなさったのに今更ですわ。絶対に何があってもリリアナさんにだけはお渡しいたしません!」
「ヤダヤダ⋯⋯ハリー兄さん、さっきはごめんなさい! アタシを迎えにきてくれたんだよね、だからおばさんとこになんか行かないで。もう酷いこと言わないって約束するからぁ、アタシのお兄ちゃんでいてよお」
わんわんと子供のように泣き出したリリアナの鳴き声が地下牢中に響き渡った。
「にいちゃん⋯⋯エグエグ⋯⋯ごべんなだい⋯⋯リリ、良い子にするからぁ⋯⋯エグエグ⋯⋯リリ、にいちゃんと一緒がいいよお⋯⋯にいちゃん、助けて!」
「助けられてたって⋯⋯どう言う事? アタシとヒューゴはその男に追いかけられてたんだから! 何度も捕まりそうになって逃げ出したんだからね」
「何度も逃げ出せること自体おかしいと思いませんでしたの!? サリナさんは随分派手に客引きをしてらっしゃいましたわね。ヒューゴさんは同じ酒場に何度も顔を出しておられましたし? 私達がおふたりを探しはじめたら割とすぐに見つかりました。それなのに長い間探しておられたハリーさんに捕まらなかったのは何故か⋯⋯その足りない頭で考えてごらんなさいませ!」
「そ、それは⋯⋯その男が役立たずで」
「本当にそう思われます? 顔がわかっていて堂々と客を探しているサリナさんを捕まえてしまえばヒューゴさんを捕まえるのなんて簡単なのでは? 同じ酒場に何度も足を運ぶならそこを張っていればすぐに捕まえられるのでは?
失礼な言い方ですけど、今のヒューゴさんとハリーさんなら力勝負になってもハリーさんが簡単に勝つと思いますわ」
「嘘! アタシのヒューゴが負ける訳ないじゃん」
子供を捨てて娼婦に身を落としても一緒にいたかった大切なヒューゴをバカにされたように感じたサリナは目を吊り上げてメリッサを睨みつけた。
「ヒューゴさん達とハリーさんには決定的な違いかあるんですもの、勝てるわけがありませんわね」
「⋯⋯なによ、何が違うって言うのよ!」
「ヒューゴさん、子供達の名前を言えますかしら?」
突然話の矛先を向けられたヒューゴはベッドに座ったまま身じろぎして眉間に皺を寄せた。
「え? えーっと、長い間会ってないから⋯⋯確か上の子はジェイって呼んでたから ⋯⋯ジェ、ジェイク?」
「優しいお兄ちゃんのジェイミーはちょっと泣き虫さんでしっかり者のアイラはお歌が上手でしたわ。お爺ちゃんとお婆ちゃんが大好きでいつもお手伝いをしてくれる良い子なんだって言っておられました。
子供を平気で捨てて一度も連絡をしようとしない、お父様のペニー・メールにも返事をなさらない⋯⋯ヒューゴさんやサリナさんは自分達の事が一番なのでしょう? そんな身勝手で無責任な方は守りたい人を守る為に懸命に足掻いている心の強い方には絶対に勝てません」
黙り込んだヒューゴとサリナは気まずそうにメリッサから目を逸らした。人を見殺しにして逃げたことを知られているだけでなく子供を親に押し付けたまま放置している事を指摘されたふたりは流石に言い返す事ができなかった。
「リリアナさんは以前私に『兄さんを助けに行きたい』と仰っておられたのに何を血迷っておられるのかしら? リリアナさんの安全を守る為にひとりで戦ってこられたハリーさんにようやく会えたのに『ありがとう』も『会いたかった』も仰いませんの?」
「⋯⋯だって、アタシは伯爵夫人になるんだもん。だから犯罪者の家族とかマズいと思うし⋯⋯本当にアタシが大事ならちゃんと分かってくれるはずだもん」
気まずそうに下を向いたままぶつぶつと呟いたリリアナがチラチラとハリーの様子を窺ったが、ハリーはそれに気付いた様子もなくずっと下を向いていた。
「では、私がハリーさんを貰いますわね。二度と会ったり連絡をよこしたりしないでくださいませ。ひとりっ子ですからお兄様ができるなんてすごく嬉しいですわ。血は繋がっておりませんけれどハリーさんのような誠実な方ならきっと良い家族になれる気が致します」
本気でびっくりしたらしく目を大きく見開いてメリッサを凝視したリリアナが『犯罪者なのに?』と呟いた。
「何か問題がありますかしら? ハリーさんが今までどんな事をしてこられたのか詳しくは存じませんから、法に触れる事をされた覚えがあるなら罪を償ってこられるのを何年でも待ちますわ。
ほら、別になんの問題もありませんでしょう? ハリーさんのお気持ちは後でお聞かせくださいませね。話し合ってお互いをしっかりと知ってからでなければお返事はしにくいと思いますもの」
ピクリとも動かないハリーはまるで蝋人形か抜け殻のようで生気が全く感じられなかった。
「⋯⋯ダ⋯⋯ダメだよ、ハリー兄さんはアタシの兄さんなんだもん⋯⋯アタシの兄さんなんだから⋯⋯あんたみたいなおばさんにはあげないからね!」
甘やかされた末っ子の特権とでも言うのか、リリアナは何を言ってもハリーは許してくれるからと安心し切って暴言を吐いていた。
自分が伯爵夫人になってからハリーを陰から助けてあげれば昔と同じようにハリーは頭を撫でながら『しょうのない奴だなあ』と笑ってくれる⋯⋯リリアナの頭の中では揺るぎない幸せな未来図が描かれていた。
(それなのに兄さんを取り上げるなんて絶対にダメだから!)
優雅で豪華な生活を保証してくれるケニスとなんでも許して甘えさせてくれるハリーはリリアナの幸せにとって欠かすことのできないふたりだった。
(アタシがお姫様になる為にはどっちもいなきゃ足りないの! 兄さんはいつだってアタシを一番大事にしてくれてたから何をしても何を言っても絶対に許してくれる⋯⋯だから邪魔しないで!)
「え~! 犯罪者の家族はいらないって仰いませんでしたかしら? 本当に犯罪者なのか、罪を犯したと言うのなら何故何をしたのか聞きもせず捨てようとなさったのに今更ですわ。絶対に何があってもリリアナさんにだけはお渡しいたしません!」
「ヤダヤダ⋯⋯ハリー兄さん、さっきはごめんなさい! アタシを迎えにきてくれたんだよね、だからおばさんとこになんか行かないで。もう酷いこと言わないって約束するからぁ、アタシのお兄ちゃんでいてよお」
わんわんと子供のように泣き出したリリアナの鳴き声が地下牢中に響き渡った。
「にいちゃん⋯⋯エグエグ⋯⋯ごべんなだい⋯⋯リリ、良い子にするからぁ⋯⋯エグエグ⋯⋯リリ、にいちゃんと一緒がいいよお⋯⋯にいちゃん、助けて!」
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