【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

文字の大きさ
69 / 97

67. あと4日、動きはじめたメイルーン

 火曜日、ゲーム開始まであと4日。

 朝の3時頃ようやく病院から帰宅したワッツは薄暗いランプをつけて朝一番で飛脚便に託す為の手紙を認めかけていた手を止めた。

『待てよ⋯⋯何故今なんだ? まるでセオドアの確認に行けない時を狙ったみたいじゃないか! ハリーが最高のタイミングを知っていたと思われても仕方ない⋯⋯ 今この時に事を起こしたのは何故だ? 
賭けの事は誰も知らな⋯⋯まさかハリーはメイルーンと繋がっていたと言うのか!? 俺の目を盗んでメイルーンに連絡を取っていたか、メイルーンから近付いたのか⋯⋯』

 メイルーンとハリーに騙されていたと信じ込んだワッツは復讐の方法を考えはじめた。

『俺様が大事に育ててきた獲物を奪いやがったメイルーンも俺様に逆らうハリーも絶対に許さん! 俺様に逆らってのうのうと生きていけると思うなよ!』

 旅支度を済ませていた鞄の底にいつもお楽しみで使っていた道具のいくつかを丁寧に隠し入れた。



「メイルーンが移動をはじめるとしたら今日ですけど教会関係者に変わった動きは見られないんで大丈夫そうですね」

 サリナの両親と子供達を逃がしてから王都の中には聖職者の姿が増え、ハリーやヒューゴ達を探していた調査員達は何度も職質されて冷や汗をかいていたと言う。

 街を警備する第三騎士団より派手に人探しをしていた聖職者にヒューゴ達が見つからなかったのはサリナがどの娼館にも勤めていない『もぐりの娼婦』だったから。

 一口に娼婦と言っても呼び名や待遇には大きな開きがあり、貴族専用の高級娼婦は『名誉ある娼婦』で娼館に勤める大勢の娼婦は『蝋燭の娼婦・明かりの娼婦』と呼ばれそれなりに存在を許されていた。

 ところがもぐりの娼婦は男達に襲いかかりお金を貰おうとする女乞食と同列に扱われ『形の崩れた靴・救い無き女性』と呼ばれていた。彼女達は真面目に働く市民達にも忌避されていたが、聖職者からは蛇蝎の如く嫌われ見つかり次第容赦なく切り捨てられていた。

 彼女達は普段の恨みを晴らすべく聖職者に偽の情報を渡したりサリナ達を逃したりしていた。

「そのお陰で聖職者に何も情報がいかないうちにハリーやヒューゴ達を捕まえられたんだから、人生ってのは何が幸運を齎すかわかんねえよな」



「先週メイルーンがフェリントス商会に借り入れをしたんだって。かなりの金額なのに急だし翌日もってこいとかって言われて慌てたみたい」

「メイルーンは案の定金が準備できなかったんだろ。フェリントスの奴め、何が慌てただよ! 少し前に準備しとけって言ったら大喜びしてたくせによお、メリッサがそれを知らねえと思って恩を売りつけてきやがった。百倍返しにしてやるから覚えてろよ」

 これだから金貸しやら銀行やらをやってる奴は嫌いだと鼻息を荒くしたルーカスは楽しそうに仕返しの方法を考えはじめた。

「やっぱ奴らに一番効くのは⋯⋯」



 選りすぐりのメイルーン信者を引き連れ教会の馬車を使って堂々と出発したメイルーンは⋯⋯。

『いつまで馬鹿げた遊びをやっているのか低脳な奴らには呆れてしまうね⋯⋯今回は付き合ってやるがこれで最後にしてもらおう、と言うか最後にしてやろうじゃないか。真珠さえ手に入れば全員私の世界には邪魔な奴ばかりだから』

 過去の悪戯全てを揉み消すのに無人島は都合がいいとほくそ笑んだメイルーンはふと、いなくなった老夫婦と御者の子供達のことを思い出した。

『これだけ探してもどこへ行ったのか見つからないとは⋯⋯それができる知恵があるのはワッツくらいかもな。なんにせよ私の邪魔をする者は神に楯突く者、全員粛清されても仕方ないんだし。愚かなステファンが初めて神の役に立ってくれたようだね』



「今日はステファンがお金をせびりに来るはずなんだよな~、代わりに渡してお⋯⋯」

「さ~て、俺はちょびっとリチャード・メイソンに会いに行ってケツを叩いてくるとするか」

 現侯爵で数少ない特別級⋯⋯最高裁判所所属の裁判官リチャード・メイソンはルーカスの長年の友人で、ここ最近発見したステファン達の犯罪の履歴や集めた証拠の全てを無理やり押し付けてきた相手。

「教会と直接対決する腹を括ってもらわにゃならんからな、怖気付いてるようなら何歳までおねしょしてたのか裁判所中にバラしてやるぜ」

 ステファンの顔を見たくないルーカスがさっさと逃げ出した。



 旅行の資金を強請りにきたステファンから無人島での接待の準備を念押しされながら景品が入っていると言って渡された箱を持ったメリッサはひとり馬車に揺られていた。

(後戻りはできないししたくない⋯⋯人の命がかかってるんだから絶対に負けられない)

 バトルとなるのは島の南側の防風林で囲まれた廃村。ほんの数年前まで住んでいた人達が残していった物があちこちに見受けられ、雑草の陰から覗く小さな花々が今でもこの村を守るように風に揺れていた。⋯⋯本土に面した島の東側にある小さな砂浜がゲーム参加者達の待機場所になる。贅沢しか知らない彼らの為に天幕・ソファ・コーヒーテーブルやクッションやクロス・食器などが前日運び込まれ、調理済みの料理や酒は当日の朝運ぶ予定になっている。

 切り立った崖になっている島の北側は斜めに傾いだ数本の大木が海を隠しているが足を滑らせたらひとたまりもないと思わせる激しい波の音が聞こえてくる。西側は壊れた倉庫と小さな漁港しかないが遠くの島々が一望に見渡せる絶景で水深も深くそれなりに大きな船を停泊できる。



 購入する際にルーカスと一緒に何度も訪れた島の様子を思い出したメリッサは目を瞑って大きく息を吸い込んだ。

(きっと大丈夫、準備は完璧のはずだよね。私達にできる全てを使ってやり切ったって自信を持って言える⋯⋯最初で最後の大勝負ってやつだから頑張らなくちゃ)

 ゲーム当日に何か不測の事態が起きても大丈夫なように人や物の手配は済ませた。

 メリッサがはじめ多くの人を巻き込んでここまできたが、失敗すれば彼ら全員が口封じされる可能性が高い。

(誰ひとり傷付けず終わらせる! 思慮深くいつも遠くを見据えていた大切な幼馴染のミゲルと彼の周りにいて幸せを与えてもらっていた私達の為に全てを公にしてやる)

感想 4

あなたにおすすめの小説

夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです

藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。 理由は単純。 愛などなくても、仕事に支障はないからだという。 ──そうですか。 それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。 王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。 夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。 離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。 気づいたときにはもう遅い。 積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。 一方で私は、王妃のもとへ。 今さら引き止められても、遅いのです。

幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。 卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。 二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。 私は何もしていないのに。 そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。 ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。 お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。 ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。

王子に婚約破棄されて国を追放「魔法が使えない女は必要ない!」彼女の隠された能力と本来の姿がわかり誰もが泣き叫ぶ。

佐藤 美奈
恋愛
クロエ・エルフェシウス公爵令嬢とガブリエル・フォートグランデ王太子殿下は婚約が内定する。まだ公の場で発表してないだけで、王家と公爵家の間で約束を取り交わしていた。 だが帝立魔法学園の創立記念パーティーで婚約破棄を宣言されてしまった。ガブリエルは魔法の才能がある幼馴染のアンジェリカ男爵令嬢を溺愛して結婚を決めたのです。 その理由は、ディオール帝国は魔法至上主義で魔法帝国と称される。クロエは魔法が一番大切な国で一人だけ魔法が全然使えない女性だった。 クロエは魔法が使えないことに、特に気にしていませんでしたが、日常的に家族から無能と言われて、赤の他人までに冷たい目で見られてしまう。 ところがクロエは魔法帝国に、なくてはならない女性でした。絶対に必要な隠された能力を持っていた。彼女の真の姿が明らかになると、誰もが彼女に泣いて謝罪を繰り返し助けてと悲鳴を上げ続けた。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。