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69.グレッグからのぷででんと
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今回の夜会の会場は王宮から離宮へと変更になったそうです。
「久しぶりのパーティーで遠出になったのは申し訳ない」
迎えに来られたノア様が真っ先に頭を下げられました。
「おやめ下さいませ。戦場が変わろうともやることは同じ! 気合いで乗り切ってみせますわ」
ぐっと握り拳を作ったわたくしを見たコナー氏がお腹を抱えて笑っておられます。ムムッ? そんなに可笑しかったでしょうか、納得がいきませんね。
「リィ、ちれいね。おくのぷででんともった?」
「ええ、持ちましたわ。お陰で勇気百倍です」
グレッグは今日のためにハンカチをプレゼントしてくれたのです。セルゲイ爺ちゃんに教わって? 草木染めをしたそうで、当日はマダラ模様の顔や服で屋敷に戻ってきました。
『とくべちゅ、あげゆね。リィ、がんばれゆ?』
満面の笑顔で笑ったグレッグは自信満々でハンカチを差し出していました。規則性のない濃淡の緑色に染まった世界で一つのハンカチは、皺だらけでグレッグの汗でしっとりしています。
『すごく素敵に染まったのね。グラデーションがとても綺麗だわ』
『エヘヘ、ぼくがんばった。えらい?』
『ええ、とっても偉いし凄い職人さんみたい』
『ちょくにんたん!? かっくいい? じいちゃみたい?』
グレッグの『目指せ、セルゲイ爺ちゃん』熱はまだまだ上昇してるようです。
その後メイサに追いかけられて逃げ回っていた職人さんは『おぷろ、やなのぉ』といつも通りの可愛さを撒き散らしていました。
離宮までは馬車で4時間もかかります。今は朝食が済んだばかりの時間ですが着いた頃にはお昼になり、それから激動の磨き上げタイムになるとか。
「リィ、がんばれ。おーえんちれるちね。あらったらどまかてる」
「リィ、ね~」
「洗う⋯⋯どま⋯⋯今日のは難解だな。助けてもらえないかな?」
ノア様が近くに来られて耳元で囁かれましたが⋯⋯それは反則です。くすぐったすぎて声が出ませんから。
「ティア? 顔が赤いけどどう⋯⋯あ、すまない」
近すぎることにようやく気付いていただけました。
「多分ですけど『笑ったら誤魔化せる』だと思います」
これもターニャのセリフの丸パクリです。この戦いが終わったら少しターニャと話さなくては、グレッグに悪い影響が出そうで心配になってきました。
フォレスト公爵家に行った後『笑ったら誤魔化せる』と得意そうな顔で言うグレッグを想像したら顔が引き攣ってしまいそうです。注意されてもキョトンと首を傾げるグレッグしか思い浮かびませんから。
隣に並ぶチェイスがグレッグの真似をするのも間違いありませんね。
ノア様のエスコートで玄関を出て馬車に向かいます。涙と鼻水だらけのグレッグはターニャに捕獲され『リィ~、おいてたなっでぇぇぇ!』と叫んでいますが、チェイスは花壇に敵を見つけたらしく腰を屈めて潜入を開始しています。
「グレッグ様、笑顔でお見送りですよ~。一回寝たらお嬢様に会えますからね」
「ちなないでぇ、ぱーちーでたべられないでね。えと、えと、かいぶちゅはおとちあなね」
ターニャが慌てて横を向きました。グレッグに怪しいパーティー知識を与えた犯人確定です。
「グレッグ、パーティーでは誰も死なないし、食べられたりしないから大丈夫よ。それに怪獣もわたくしを陥れには来ないから安心してお留守番しててね。
ターニャ~、帰ったらゆ~っくりお話ししましょうね」
「グレッグをあれほど悲しませてしまうなんて」
馬車に乗り込んだ途端落ち込んだノア様ですが、お顔は外に向けて泣き叫ぶグレッグに手を振っておられます。
チェイス? 自由を愛する彼は大きな虫を捕まえて得意満面です。周りの阿鼻叫喚などどこ吹く風でメイドに見せびらかそうと追いかけまわしています。
「あれは⋯⋯父親の血かもな。辺境伯も弟も傍若無人を絵に描いたようなやつだから」
溜め息と共に吐き出された情報に思わず笑ってしまいました。どうやらチェイスが巻き起こす惨劇は永遠に続くようです。
「メイド達に申し訳ない。それに、ティアも前泊できれば少しは疲れも軽減できたはずだし」
「もう謝るのはなしに致しませんか? 皆、子供達のお陰で楽しくしておりますもの。それよりも離宮のお話をお聞かせくださいませ」
虫を捕まえる子供など可愛いものです。蛇を掴んで帰ってきた子も⋯⋯ターニャでした。カエルが食べられると聞いてから虫籠を抱えて毎日歩き回っていた子はパン屋の見習いになりましたし。
前泊だなんて想像しただけで恐怖です。だって、魑魅魍魎がどこに潜んでいるのか分かりませんし、昨日も夜遅くまで自主練しておりましたからね。
「久しぶりのパーティーで遠出になったのは申し訳ない」
迎えに来られたノア様が真っ先に頭を下げられました。
「おやめ下さいませ。戦場が変わろうともやることは同じ! 気合いで乗り切ってみせますわ」
ぐっと握り拳を作ったわたくしを見たコナー氏がお腹を抱えて笑っておられます。ムムッ? そんなに可笑しかったでしょうか、納得がいきませんね。
「リィ、ちれいね。おくのぷででんともった?」
「ええ、持ちましたわ。お陰で勇気百倍です」
グレッグは今日のためにハンカチをプレゼントしてくれたのです。セルゲイ爺ちゃんに教わって? 草木染めをしたそうで、当日はマダラ模様の顔や服で屋敷に戻ってきました。
『とくべちゅ、あげゆね。リィ、がんばれゆ?』
満面の笑顔で笑ったグレッグは自信満々でハンカチを差し出していました。規則性のない濃淡の緑色に染まった世界で一つのハンカチは、皺だらけでグレッグの汗でしっとりしています。
『すごく素敵に染まったのね。グラデーションがとても綺麗だわ』
『エヘヘ、ぼくがんばった。えらい?』
『ええ、とっても偉いし凄い職人さんみたい』
『ちょくにんたん!? かっくいい? じいちゃみたい?』
グレッグの『目指せ、セルゲイ爺ちゃん』熱はまだまだ上昇してるようです。
その後メイサに追いかけられて逃げ回っていた職人さんは『おぷろ、やなのぉ』といつも通りの可愛さを撒き散らしていました。
離宮までは馬車で4時間もかかります。今は朝食が済んだばかりの時間ですが着いた頃にはお昼になり、それから激動の磨き上げタイムになるとか。
「リィ、がんばれ。おーえんちれるちね。あらったらどまかてる」
「リィ、ね~」
「洗う⋯⋯どま⋯⋯今日のは難解だな。助けてもらえないかな?」
ノア様が近くに来られて耳元で囁かれましたが⋯⋯それは反則です。くすぐったすぎて声が出ませんから。
「ティア? 顔が赤いけどどう⋯⋯あ、すまない」
近すぎることにようやく気付いていただけました。
「多分ですけど『笑ったら誤魔化せる』だと思います」
これもターニャのセリフの丸パクリです。この戦いが終わったら少しターニャと話さなくては、グレッグに悪い影響が出そうで心配になってきました。
フォレスト公爵家に行った後『笑ったら誤魔化せる』と得意そうな顔で言うグレッグを想像したら顔が引き攣ってしまいそうです。注意されてもキョトンと首を傾げるグレッグしか思い浮かびませんから。
隣に並ぶチェイスがグレッグの真似をするのも間違いありませんね。
ノア様のエスコートで玄関を出て馬車に向かいます。涙と鼻水だらけのグレッグはターニャに捕獲され『リィ~、おいてたなっでぇぇぇ!』と叫んでいますが、チェイスは花壇に敵を見つけたらしく腰を屈めて潜入を開始しています。
「グレッグ様、笑顔でお見送りですよ~。一回寝たらお嬢様に会えますからね」
「ちなないでぇ、ぱーちーでたべられないでね。えと、えと、かいぶちゅはおとちあなね」
ターニャが慌てて横を向きました。グレッグに怪しいパーティー知識を与えた犯人確定です。
「グレッグ、パーティーでは誰も死なないし、食べられたりしないから大丈夫よ。それに怪獣もわたくしを陥れには来ないから安心してお留守番しててね。
ターニャ~、帰ったらゆ~っくりお話ししましょうね」
「グレッグをあれほど悲しませてしまうなんて」
馬車に乗り込んだ途端落ち込んだノア様ですが、お顔は外に向けて泣き叫ぶグレッグに手を振っておられます。
チェイス? 自由を愛する彼は大きな虫を捕まえて得意満面です。周りの阿鼻叫喚などどこ吹く風でメイドに見せびらかそうと追いかけまわしています。
「あれは⋯⋯父親の血かもな。辺境伯も弟も傍若無人を絵に描いたようなやつだから」
溜め息と共に吐き出された情報に思わず笑ってしまいました。どうやらチェイスが巻き起こす惨劇は永遠に続くようです。
「メイド達に申し訳ない。それに、ティアも前泊できれば少しは疲れも軽減できたはずだし」
「もう謝るのはなしに致しませんか? 皆、子供達のお陰で楽しくしておりますもの。それよりも離宮のお話をお聞かせくださいませ」
虫を捕まえる子供など可愛いものです。蛇を掴んで帰ってきた子も⋯⋯ターニャでした。カエルが食べられると聞いてから虫籠を抱えて毎日歩き回っていた子はパン屋の見習いになりましたし。
前泊だなんて想像しただけで恐怖です。だって、魑魅魍魎がどこに潜んでいるのか分かりませんし、昨日も夜遅くまで自主練しておりましたからね。
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