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82.午後の職業が決定しました

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 昼食の後、グレッグは聞いたことのない歌を歌いながらお絵描きを作りはじめ、チェイスは積み木を壁に沿って積み上げはじめました。

 午後の仕事は吟遊詩人と左官職人に決まったようなので、楽しそうに遊んでいる隙にこっそりと出かける事にしました。

 ターニャや子供達のいない買い物は久しぶりです。お父様にバレたらメイドも連れずに行くなんてと叱られそうですが、今日は誰ともいたくないのです。

 愚痴や不安を口にするのは嫌ですし、誰かに気を配りながら行動できる自信もありません。

 今日の予定はセルゲイ爺ちゃんから頼まれた花の種や苗の注文とグレッグ達二人の誕生日プレゼント選びです。行く店は決まっていますし、店の前で馬車を降りて買い物を済ませたらすぐに馬車に戻る約束をしています。

「じゃあ、行ってくるわね」

「本当の本当にお気をつけ下さいね。ひとりで買い物だなんて心配でたまりませんよ」

 御者のラウルが顎髭を触りながら怪しい人物がいないかとキョロキョロ周りを見回しています。

「大丈夫、ここのお店のハンスさん達は昔からの知り合いだもの」

 ハンスさんは昔から我が家と取引をしている商会の商会長ですし、商会員の方達も顔見知りの方ばかり。今日の必要な物はここで全部決める予定でいますし、心配するようなことが起きるとは思えません。



「こんにちは、注文書を持って来たのでお願いできますかしら」

「これはリリスティア様! ご連絡いただければこちらから伺いましたのに。まさかおひとりで?」

「わざわざ来ていただくほどの量ではないの。表に馬車を停めさせていただいているから心配はいらないわ」

 マーベル侯爵家にいた頃にはちょくちょくひとりで出歩いていましたから全く問題はないのですが、ひとり歩きする貴族は珍しいですものね。

「ラングローズ様のお屋敷にお届けで宜しかったですか?」

「ええ、急ぎではないそうだから何かのついでの時で構わないみたい」

「いつもお気遣いいただいて感謝しかありません。えーっと、この種と苗なら三日後にはお届けできるかと思います」

「セルゲイ爺ちゃんに伝えておくわね。あと、誕生日プレゼント用にいくつか探しているものがあるのだけど」

「畏まりました。ご注文の品なら出来上がっておりますが、他にはどのような物をお探しですか?」

 二ヶ月前に注文したのはグレッグ用の木箱とチェイス用の手押し車です。

 グレッグの木箱は宝物を入れる為の少し凝った装飾で鍵付きの物です。物を大切にするグレッグは今でも色々な宝物を持っていますが、これからもどんどん増えていく事でしょう。

 チェイスの手押し車は大きな車輪がふたつついていて小さな子供でも安全に使えるサイズです。こだわりは周りに彫ってもらった動物達の絵です。外遊びの道具を部屋に持ち込まなくなるといいなという狙い付きです。

 今日探しに来たのはチェスとボールを作る材料です。チェスは少し早い気もしましたが、長く使えるしっかりした材質とデザインの物にすれば大きくなるまで使ってくれそうな気がします。

 ボールは牛皮に羊毛と羽毛を詰めてみようと思っています。グレッグには手に握れるくらいの大きさ、チェイスには抱えて走れるくらいの大きさで。

 少し前から最初で最後の誕生日プレゼントになる可能性もあると思っていたので早めに手配しておいて正解でした。

「羊毛と羽毛ですか?」

「ええ、本当は羽毛だけにしたかったんだけど、予算がね」

 今回は盛大に予算オーバーしていますから苦肉の策です。木箱と手押し車に気合が入りすぎてしまった上にチェスも追加することにしてしまったものですから、わたくしにとっては目が飛び出しそうな金額になりそうな予感がしています。

 ノア様のところにいるなら来年以降もプレゼントを届けることができるかもと期待していましたが、辺境伯のところに行くのならご迷惑になるかもしれません。

 チェスは来年以降のプレゼントの前倒しといったところですね。


 さすがハンスさんの商会です。少し大人向けですがとても丁寧に仕上げられたチェスがありました。木箱や手押し車と一緒に届けてもらうことにして、ボールの材料だけ持って帰ることにしました。

「馬車までお持ちいたします」

「ありがとう、お手数をおかけします」

 大した量ではありませんが貴族への対応としてはこれが普通ですから従わざるを得ませんね。でなければ周りの方から『この店は貴族に荷物を持たせた』と悪評を立てられます。

 面倒な約束事だと思いながら荷物を持ってくれた商会員と一緒に店を出ました。

 チェスを選ぶのに結構時間がかかりましたし、家についてお客様の馬車がまだあるようならセルゲイ爺ちゃんのところへ行く予定でいます。

 余計な事は考えず家に帰りましょう。

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