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一回目 (過去)
117.枷
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軽快なスピードで走るナスタリア神父の後を元気良く着いていくハリーと、少しゆっくりペースで走るローザリア。
「あー、ハリーは終わったな」
「ナスタリア神父のペースで5周は無理だって」
2周目に入る頃には徐々に加速していくナスタリア神父とハリーの間は大幅に開いてきた。ローザリアはそれよりも遅れている。
ナスタリア神父が5周目を走り終わり腕立てを終わらせる頃、ハリーは脇腹を抑えて歩いている状態で3周目に入ったばかり。ローザリアはもうすぐ4周目に入るところで走りはじめと同じゆっくりペースをキープしている。
「ローザリア様、頑張れ!!」
とにかく元気が残った状態で終わってくれと祈るのに忙しく、ハリーの様子を気にする者はいなかった。
「おお、ローザリア様が腕立てをはじめられたぞ!!」
「腕立てやった事ないんだ、説明聞いておられる」
「腕がプルプルしてる~、回復してあげたい」
ナスタリア神父は既に腹筋も終わらせて、いつもと変わらない様子でローザリアを見つめていた。
ハリーが腕立てをはじめ半分を過ぎた頃、ローザリアが説明を聞いてから腹筋をはじめた。
「ローザリア様の腹筋、可愛い~」
「ちっこくて丸まってるよぉ」
「おっ、起きろ。頑張れ~」
野太い声が大きくなる度にナスタリア神父は苛立たしげな顔で舌打ちをするが誰も聞いていない。
聖騎士達みんながローザリアを応援する中でひとり黙々と腕立てをするハリーを見て、ネイサンは腹が立って仕方がなかった。
(仲間だけを応援して、ハリーだって頑張ってるのに)
ローザリアが腹筋を終わらせた。満面の笑みを浮かべ大の字になって寝転がると野営地に大歓声が響き渡った。
「うおー! やったー!」
「ローザリア様、すげえー!!」
指笛が鳴り暑苦しい祝福の声がこだまする。
腹筋をはじめたばかりだったハリーは驚きと悔しさで座り込んだまま動けなくなった。
ローザリアの元へ行き手を差し伸べるナスタリア神父。ヨロヨロと立ち上がったローザリアはナスタリア神父の腕を支えにナザエル枢機卿のところへやって来た。
「頑張ったな。ローザリアのお陰で金が浮いた」
「借金増やしたら返せないですから」
ローザリアの返事に大笑いをはじめたナザエル枢機卿の元にネイサンに支えられたハリーがやって来た。
「⋯⋯狡いよ。その子、強いじゃん」
「そうやって何でも人のせいにして生きてくなら好きにしたらいいぜ。俺には関係ねえ」
「だって、そんなちっこい子に負けるとか⋯⋯ズルしたに決まってる」
「ズルしましたよ。借金増やしたくないって枷をつけて貰いました」
「は?」
「私お金をぜんぜん持ってないんです。今は教会でご飯とか食べさせてもらってるから、その分をいつか働いて返さなきゃって思ってます。だから、これ以上借金が増えるのは困るんです。
3位になったら払わなきゃいけないお金が増えるから⋯⋯そう思ったから絶対負けられないって思いました。
それが私のズルです。だって、負けても借金が増えないって思ったら諦めてたかもしれないから」
「とりあえず2人は回復魔法かけてもらっとけ。足がプルプルしてるぞ」
「⋯⋯俺、腹筋途中だから⋯⋯終わってからでいい」
「あの、ありがとうございました」
野営地の隅で腹筋をしているハリーをネイサンが見つめながらローザリアに礼を言った。
「えっ?」
「ローザリア様が勝ってさっきの話聞かせてくれて、ハリーの奴も少しは変われるかも。
アイツ、母親から虐待されてたんです。殴ったり蹴ったり⋯⋯飯もろくに食わせてもらえなくて。それで捻くれて」
「そうなんだ」
「俺んちすぐ隣で、怒鳴り声とか毎日聞こえてきてたからなんかほっとけなくて。
ローザリアさんみたいな人にはそう言うのわかんないと思うけど、悪い奴じゃないんです」
「お友達が近くにいて良かったです」
「ローザリア様、向こうで休憩して下さい。シスター・タニアがお茶を淹れています」
「ありがとうございます」
ヨタヨタと歩くローザリアに精霊師が声をかけて回復していた。笑顔でお礼を言うローザリアと精霊師が楽しそうに話している。
「ハリーはまだ幸せな子供時代だったと思いますよ」
「はあ? さっきの話聞いてました?」
「あー、ハリーは終わったな」
「ナスタリア神父のペースで5周は無理だって」
2周目に入る頃には徐々に加速していくナスタリア神父とハリーの間は大幅に開いてきた。ローザリアはそれよりも遅れている。
ナスタリア神父が5周目を走り終わり腕立てを終わらせる頃、ハリーは脇腹を抑えて歩いている状態で3周目に入ったばかり。ローザリアはもうすぐ4周目に入るところで走りはじめと同じゆっくりペースをキープしている。
「ローザリア様、頑張れ!!」
とにかく元気が残った状態で終わってくれと祈るのに忙しく、ハリーの様子を気にする者はいなかった。
「おお、ローザリア様が腕立てをはじめられたぞ!!」
「腕立てやった事ないんだ、説明聞いておられる」
「腕がプルプルしてる~、回復してあげたい」
ナスタリア神父は既に腹筋も終わらせて、いつもと変わらない様子でローザリアを見つめていた。
ハリーが腕立てをはじめ半分を過ぎた頃、ローザリアが説明を聞いてから腹筋をはじめた。
「ローザリア様の腹筋、可愛い~」
「ちっこくて丸まってるよぉ」
「おっ、起きろ。頑張れ~」
野太い声が大きくなる度にナスタリア神父は苛立たしげな顔で舌打ちをするが誰も聞いていない。
聖騎士達みんながローザリアを応援する中でひとり黙々と腕立てをするハリーを見て、ネイサンは腹が立って仕方がなかった。
(仲間だけを応援して、ハリーだって頑張ってるのに)
ローザリアが腹筋を終わらせた。満面の笑みを浮かべ大の字になって寝転がると野営地に大歓声が響き渡った。
「うおー! やったー!」
「ローザリア様、すげえー!!」
指笛が鳴り暑苦しい祝福の声がこだまする。
腹筋をはじめたばかりだったハリーは驚きと悔しさで座り込んだまま動けなくなった。
ローザリアの元へ行き手を差し伸べるナスタリア神父。ヨロヨロと立ち上がったローザリアはナスタリア神父の腕を支えにナザエル枢機卿のところへやって来た。
「頑張ったな。ローザリアのお陰で金が浮いた」
「借金増やしたら返せないですから」
ローザリアの返事に大笑いをはじめたナザエル枢機卿の元にネイサンに支えられたハリーがやって来た。
「⋯⋯狡いよ。その子、強いじゃん」
「そうやって何でも人のせいにして生きてくなら好きにしたらいいぜ。俺には関係ねえ」
「だって、そんなちっこい子に負けるとか⋯⋯ズルしたに決まってる」
「ズルしましたよ。借金増やしたくないって枷をつけて貰いました」
「は?」
「私お金をぜんぜん持ってないんです。今は教会でご飯とか食べさせてもらってるから、その分をいつか働いて返さなきゃって思ってます。だから、これ以上借金が増えるのは困るんです。
3位になったら払わなきゃいけないお金が増えるから⋯⋯そう思ったから絶対負けられないって思いました。
それが私のズルです。だって、負けても借金が増えないって思ったら諦めてたかもしれないから」
「とりあえず2人は回復魔法かけてもらっとけ。足がプルプルしてるぞ」
「⋯⋯俺、腹筋途中だから⋯⋯終わってからでいい」
「あの、ありがとうございました」
野営地の隅で腹筋をしているハリーをネイサンが見つめながらローザリアに礼を言った。
「えっ?」
「ローザリア様が勝ってさっきの話聞かせてくれて、ハリーの奴も少しは変われるかも。
アイツ、母親から虐待されてたんです。殴ったり蹴ったり⋯⋯飯もろくに食わせてもらえなくて。それで捻くれて」
「そうなんだ」
「俺んちすぐ隣で、怒鳴り声とか毎日聞こえてきてたからなんかほっとけなくて。
ローザリアさんみたいな人にはそう言うのわかんないと思うけど、悪い奴じゃないんです」
「お友達が近くにいて良かったです」
「ローザリア様、向こうで休憩して下さい。シスター・タニアがお茶を淹れています」
「ありがとうございます」
ヨタヨタと歩くローザリアに精霊師が声をかけて回復していた。笑顔でお礼を言うローザリアと精霊師が楽しそうに話している。
「ハリーはまだ幸せな子供時代だったと思いますよ」
「はあ? さっきの話聞いてました?」
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