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第9話 法務官side 「止まらない殺人の連鎖」
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凍えるように寒い冬の朝、誘拐されていた幼児の遺体が発見された。
2週間ほど前に、ある富豪の屋敷の庭から一人娘のエメリーがいなくなった。
近隣の住民が黒い服を着た中年の女が女の子を抱いて歩いているのを目撃していた。
護衛官に知らせるよりも早く、身代金を要求する手紙が届いた。
両親は金を用意して待っていたが、それ以降、犯人から連絡が来ることはなかった。
「おい、カーティス、この報告書を読め」
フォードが書類を突き出してくる。
「また、リボンがあったのか?」
「それだけじゃない、父親の名前を見ろ!」
幼児の父親の名はボビー・リッチ。
あのサミュエル・ローズの同級生グループのうちの一人だ。
ここまでくれば偶然とはいえまい。
明らかにグループのメンバーが標的になっているのだ。
あくまでも仮定の話だが、もし、サミュエル・ローズが事故死ではなく、彼らに殺されたのならば、復讐のために誰かが連続殺人を犯しているのはストーリーとしては筋は通っている。
しかし、サミュエルの死が殺人だったのか、それを証明する手立てがない以上この仮説で動くことはできない。
まさか、本当にシルビアが兄の復讐をしているのか?
ありえない、子供が誘拐された日には自分と一緒にいた。
初めて彼女と結ばれた日だ。忘れるわけがない。
ふと、シルビアに言葉が頭をよぎる。
ーーーー今、みな出払っていまして、誰も家にいないのです
まさか使用人たちが実行犯なのか?
いや、ただの偶然だろう。あんなにもか弱く繊細な彼女がそんなことにかかわっているわけがない。
カーティスは後輩法務官を伴って、被害者の両親を訪ねた。
応対した秘書によると、母親はショックで臥せっているという。
無理もない。
「ご主人は?リッチ氏に会わせてください」
「それは……」
秘書は言い淀む。
「どうかしたんですか?」
「それが昨日から姿が見当たらないのです。エメリー様を取り返しに行くと仰られて、出かけたきり戻っていません」
誘拐犯から接触があったのか?
「部屋を見せてください」
秘書に案内され、ボビー・リッチの書斎の机の引き出しをかき回す。
差出人が書かれていない一通の手紙が見つかった。
無地の便箋には、ひとりで来るなら娘を返すと記されていた。
指定されたのは湖の近くのボート小屋。
「ここに旦那様がいるのでしょうか?」
秘書はおろおろと狼狽えた。
「わからない、行きましょう」
馬車を走らせ、湖へ急ぐ。
ただならぬ空気を感じながらカーティスは走った。
ボート小屋では、ボビー・リッチが首を括ってた。
そして、その足元には白いリボンが落ちていた。
「だ、旦那様が」
秘書はがっくりとひざをついた。
後輩の法務官に護衛官を呼びに行かせる。
小屋の中を見回すと、隅にちいさな靴を見つけた。
女児用のピンクの靴には、エメリーの名前が刺繍されていた。
護衛官が検視官とともに駆け付けた。
暴力を振るわれた形跡はなく、自発的に首にロープをかけたのだろうということだった。
ボビー・リッチは娘の死を知ったショックで自殺を図ったのか、あるいは、お前が死ねば子供を助けると言われたのだろうか?
混乱する。
すべて後手後手に回り、犯人に翻弄されているのは間違いない。
これだけ被害者がいるのに、少しも真相に近づけていないもどかしさと苛立ち、そして無力感にさいなまれた。
ああ、シルビアに会いたい。
今すぐに押し倒して、あの躰に溺れたい。
2週間ほど前に、ある富豪の屋敷の庭から一人娘のエメリーがいなくなった。
近隣の住民が黒い服を着た中年の女が女の子を抱いて歩いているのを目撃していた。
護衛官に知らせるよりも早く、身代金を要求する手紙が届いた。
両親は金を用意して待っていたが、それ以降、犯人から連絡が来ることはなかった。
「おい、カーティス、この報告書を読め」
フォードが書類を突き出してくる。
「また、リボンがあったのか?」
「それだけじゃない、父親の名前を見ろ!」
幼児の父親の名はボビー・リッチ。
あのサミュエル・ローズの同級生グループのうちの一人だ。
ここまでくれば偶然とはいえまい。
明らかにグループのメンバーが標的になっているのだ。
あくまでも仮定の話だが、もし、サミュエル・ローズが事故死ではなく、彼らに殺されたのならば、復讐のために誰かが連続殺人を犯しているのはストーリーとしては筋は通っている。
しかし、サミュエルの死が殺人だったのか、それを証明する手立てがない以上この仮説で動くことはできない。
まさか、本当にシルビアが兄の復讐をしているのか?
ありえない、子供が誘拐された日には自分と一緒にいた。
初めて彼女と結ばれた日だ。忘れるわけがない。
ふと、シルビアに言葉が頭をよぎる。
ーーーー今、みな出払っていまして、誰も家にいないのです
まさか使用人たちが実行犯なのか?
いや、ただの偶然だろう。あんなにもか弱く繊細な彼女がそんなことにかかわっているわけがない。
カーティスは後輩法務官を伴って、被害者の両親を訪ねた。
応対した秘書によると、母親はショックで臥せっているという。
無理もない。
「ご主人は?リッチ氏に会わせてください」
「それは……」
秘書は言い淀む。
「どうかしたんですか?」
「それが昨日から姿が見当たらないのです。エメリー様を取り返しに行くと仰られて、出かけたきり戻っていません」
誘拐犯から接触があったのか?
「部屋を見せてください」
秘書に案内され、ボビー・リッチの書斎の机の引き出しをかき回す。
差出人が書かれていない一通の手紙が見つかった。
無地の便箋には、ひとりで来るなら娘を返すと記されていた。
指定されたのは湖の近くのボート小屋。
「ここに旦那様がいるのでしょうか?」
秘書はおろおろと狼狽えた。
「わからない、行きましょう」
馬車を走らせ、湖へ急ぐ。
ただならぬ空気を感じながらカーティスは走った。
ボート小屋では、ボビー・リッチが首を括ってた。
そして、その足元には白いリボンが落ちていた。
「だ、旦那様が」
秘書はがっくりとひざをついた。
後輩の法務官に護衛官を呼びに行かせる。
小屋の中を見回すと、隅にちいさな靴を見つけた。
女児用のピンクの靴には、エメリーの名前が刺繍されていた。
護衛官が検視官とともに駆け付けた。
暴力を振るわれた形跡はなく、自発的に首にロープをかけたのだろうということだった。
ボビー・リッチは娘の死を知ったショックで自殺を図ったのか、あるいは、お前が死ねば子供を助けると言われたのだろうか?
混乱する。
すべて後手後手に回り、犯人に翻弄されているのは間違いない。
これだけ被害者がいるのに、少しも真相に近づけていないもどかしさと苛立ち、そして無力感にさいなまれた。
ああ、シルビアに会いたい。
今すぐに押し倒して、あの躰に溺れたい。
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