十年先まで待ってて

リツカ

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過去話・後日談・番外編など

もう一方のメリーミー 4

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 夜彦の手が誠の肌の上を這うように滑っていく。ただそれだけで、誠の腹の底がずくりと疼いた。

「っ……」

 誠は唇を噛んで、顔を背けた。
 肌を這う手はそのまま、誠の首筋に顔を埋めた夜彦がくつくつと低く笑う。

「嫌なの?」
「…………」
「嫌なわけないよな。俺のこと嫌いでも、これは好きだもんな」

 ──そんなわけあるか……!

 喉まで込み上げていた反論をすんでの所で飲み込んだ。
 不快だが、ここで反抗的な態度を取ったらさっきまでのすべてが無駄になる。
 誠は大きく息を吐いて、夜彦の後頭部に手を置いた。ぎこちなく撫でるように手を動かすと、誠の首筋に顔を埋めていた夜彦がのそりと顔を上げた。

「本当にどうしたの? なんか変なものでも食った?」
「そうじゃない……どうしたら信じてくれる?」
「なにを?」
「……俺が、お前のこと愛してるって」

 夜彦の目が訝しむようにすがめられた後、なにかを思案するように数秒宙を眺めた。
 そうして再び誠と視線を合わせ、ニッと笑う。

「じゃあ、おねだりしてみてよ。これから俺にどうしてほしいか。気持ちが入ってたら俺も信じられるかもよ?」
「っ!」

 言いながら、夜彦の指先が直に誠の乳首を弾いた。じんと痺れるような刺激に、誠の息が詰まる。
 その間にも、夜彦の指は誠の乳首を押しつぶすようにゆっくりと前後に動きはじめる。

「んんっ……」
「ほら、どうしてほしいの?」
「……抱いてほしい」
「どんな風に?」

 誠を辱めようとする質問ばかりでうんざりする。
 誠はしばし黙考した後、ぼそぼそと小さな声で答えた。

「……むちゃくちゃにしてほしい」

 嘘ではなかった。
 馬鹿みたいな話だが、これが誠の本心だ。

 意外なことに、夜彦は誠を抱くときいつだって優しかった。セックス自体をやめてくれることはなかったが、それでも誠を傷つけないよう、苦しめないよう、指で、舌で、時には性具を使って誠の体を徐々に慣らして、長い日数をかけて誠の肉体を自分のものにした。
 屈辱だった。
 けれど、誠にとって本当につらかったのは、それに自身が快感を覚えるようになってしまったことの方だ。

 女でもないのに、オメガでもないのに、夜彦を愛しているわけでもないのに。
 口付けられ、触れられ、ナカを穿たれるだけで絶頂できるようになった自分の浅ましさが未だに受け入れられない。

 だから、酷くしてほしかった。
 なにもわからなくなるくらい、むちゃくちゃにしてほしかった。

 誠の言葉を聞いた夜彦の目が弧を描いた。
 ゆっくりと顔が近付いて、唇に触れるだけのキスをされる。ちゅっと可愛らしい音を鳴らして唇が静かに離れると、夜彦はうっとりと笑みを深めた。

「いいよ。じゃあ、むちゃくちゃ優しく抱いてやるからな」
「…………」

 誠の唇の端がひくりと引きつったが、文句を言うことはなかった。言ったところで、夜彦が誠の思い通りになることはないとわかっている。

 夜彦の唇が誠の首筋に吸い付く。舌を這わされ、甘く歯を立てられ、その合間に服を脱がされていく。
 誠の唇から熱い吐息が漏れた。自分の浅ましさに苛立ちながら、誠は夜彦の髪に手を置き、何度も染髪を繰り返している割には指通りのいい髪を撫でる。

「夜彦……」
「なに?」
「……愛してるよ」

 肌を這っていた夜彦の手の動きが一瞬ぴたりと止まった。直後、夜彦がくつくつと笑いだす。

「嘘ってわかっててもなんか可愛いなぁ」

 楽しげな声で言いながら、夜彦が誠の胸元に頬擦りをする。
 なにもかも見透かされている気がして恐ろしい。
 けれど、本当に恐ろしいのはこの地獄が死ぬまで続くことだ。

 ──絶対逃げだしてやる。

 誠は自分の体を好き勝手に弄びはじめた夜彦を抱きしめたまま、白い天井を睨んだ。その顔は次第に快楽にとろけていったが、夜彦の元から逃げ出したいのだという気持ちは変わらなかった。

「ンッ、あ、ああッ」

 夜彦のものでゆっくりとナカを掻き回され、奥に白濁を注ぎ込まれ、その刺激であっけなく達する自身に絶望感を覚えながらも、誠の心は折れてはいなかった。

 逃げたい。
 あわよくば、雅臣に会いたい。やり直したい。

 暗闇の中の微かな光のように、まだ誠の中には雅臣が生きていた。愛していた。
 目の前の誠を好き勝手に抱く男なんて、誠にとっていっときの隠れ蓑に過ぎない。

 達して少したった後も、腹のナカが痺れるような悦楽が続く。それに屈辱を感じながら誠が呼吸を整えていると、夜彦が身を屈めて誠の唇にキスを落とした。
 そして、愛おしそうに目を細め、蜜のようにどろりとした声で囁くのだ。

「一生逃さねぇからな」
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