ウソツキは権利だけは欲する

かかし

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一ヶ月目

だからデートするんだろ、ばーか

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「そういえば、映画観た後どうする?」

いつものように最寄駅へと送る道程で、初日よりはだいぶリラックスした様子で助手席に座る康介に俺はふとそう聞いた。
もうすぐ目的地に着くタイミングだったが、明日一緒に映画観ることは決めたもののその後どうするか全く考えてなかったことを思い出したからだ。
勢いのまま朝一番の上映時間のチケットを取ったが………時間的に昼過ぎに終わるだろうから昼飯は食うにしても、その後どう動くか。

「えっ?映画観たら解散じゃないの?」
「馬鹿か?」

馬鹿か。
コイツ馬鹿か。
デートだっつってんだろ。
もしかして今までの彼氏にもこんな態度取ってたんじゃないだろうな?
だとしたら相当の馬鹿だぞ。

「デートなのにか?」
「デートだけどもさ!まだ付き合って一週間も経ってないんだよ!」

なんだその謎理論。
付き合いたてだからこそデートを重ねてお互いを理解するもんだろ。
デート=セックスという考えなら分からんでもない理論だが、流石に康介はそんな考えを持ってる訳じゃないだろう。
だとしたら歴代の彼氏がそういう考えだったとかか?

「一週間も経ってないから何だよ。」

変なこと言われたらどうしようかと考えながら、取り敢えず聞いてみる。
おい、なんで顔を赤くするんだよ。
変にもじもじさせんなや。
運転に集中できなくなるだろうが。

「だからさ………その、長時間一緒に居るの慣れてない、から………」
「はぁ?」

なんだそれ。
なんだそれ。
もしかして、恥ずかしいとでも続ける気か?
お前、今時高校生でももっと進んだ恋愛するぞ。
初心者か?
恋愛初心者なのか?

「だからデートするんだろ、ばーか。」
「よ、幼稚園児並の罵倒………」

思わず口に出た言葉に、康介が呆れたような声でそう言った。
呆れたようなっつか、ミラー越しに見える表情ももろに呆れているのがムカつく。
なんで俺が呆れられなきゃいけねぇんだよ。

「幼稚園児並で結構。お前も幼稚園児並の恋愛観してるんだからな。」
「なにそれ。ボクだってそれなりの恋愛観はしてるし。」

拗ねたような尖った声に、思わず笑いが込み上げてくる。
それなりって何だよ。
そもそもそれなりの奴は映画観ただけで終わりなんて謎なデートプラン組まねぇよ。

「映画観ただけで、喋る時間も設けずにいるつもりか?見合いでも飯でも食って話に花咲かすだろ。」
「まぁ、確かに?」

ちょっと小首を傾げながらも、俺の至って当たり前な言い分に康介は頷いた。
とはいえ少し不機嫌そうな言い方なのが笑える。
分かりはするけど納得できないと言いたいのがありありと分かる、拗ねた子供のような口調。
まだ付き合って数日ではあるけれど、コイツは意外と頑固だということはもうイヤという程分かっている。

「だから、な?映画終わったら取り敢えず昼飯食いに行くぞ。」
「うーん………」

康介程度にもったいないなと思いながら、俺はめいっぱいキメた声で言ってみる。
スルーはされたものの、それでも検討する余地はあるようだ。
うんうんと唸りながらも、昼飯に行くか行かないかを悩み始めた。
そこまで悩むことか?

「昼飯食ってゆっくり話そうぜ?」
「何を?」
「いっぱい、いろいろ。」

例えばこの短いドライブでは途中で終わってしまって足りないような、そんな話をたくさん。
思えば例の元カレ以外に踏み込んだ話もできてないから、元カレの話は聞きたくないがもっと別の、趣味以外のプライベートの話も聞きたい。
ほら、そうこうしてるともう駅だしな。
路肩に止めてハンドルに寄りかかりながらそう提案してみる。

「例えば?」
「好きな物とか、昔の話とか。」
「昔々あるところに?」
「違ぇよ。」

にやにやとしながらからかってきた康介の頭を、ぐしゃぐしゃと掻き混ぜるように撫でてやる。
けらけらと楽しそうに声を上げる康介の笑い声を、一体何人の男が知っているのだろうかと、ふと、気になった。
つまらねえ冗談を言いたがる時があることも、我慢せずに言って一人で勝手に恥ずかしがって拗ねだすことも、一体何人の男が見てきたのだろうか。

「話そう。明日、いっぱい。」
「うん、いっぱい話す。」

少しだけもやついた気持ちを抑えるように、康介の額に俺の額を重ねる。
まるで女にするような行動を、それでも康介は嬉しそうに受け入れてくれる。
近くなった距離を拒絶せず、はにかんだような照れ笑いで笑ってくれた。
可愛げもない、どこにでも居るような男の顔。
それなのに可愛いと思ってしまったり、キスしたいと思ってしまうのは………気の所為だと思いたい。

「明日どうする?迎えに行くか?」
「ん………まだ恥ずかしいから、まだいい。」

まだ、というからにはいつかは迎えに行っても良いということか?
額を突き合わせたまま、頬を撫でる。
掌の上にほんの僅かに乗せられた体重と暖かさを、俺は誰かと付き合って初めて手放し難いと感じた。
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