ウソツキは権利だけは欲する

かかし

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隣の芝生はなんとやら

現実が崩れてく

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鬱々とした気分のまま食堂に着くと、もう既にあの6人は席に着いて学生みたいにワイワイと食事をしていた。
あ、よく見るとあの地味男と営業部のキレイめの美形の男の人とのランチトートもお揃いだ。
ジェンダーフリーって聞いてたけど、こんなにも同性愛者って多いのか。

―――この国の同性愛者は10%程居る

大学生の頃、どんどん冷たくなる宗太郎に耐えられなくなってなんとなく調べた言葉が頭を過ぎる。
左利きの人と同じ割合。
宗太郎は同性愛者ではないけど諫山だけは特別だったと、喧嘩したある日苦しそうにそう言ったことがあった。
だから責任を取れと、責められたこともあった。
選んだのは宗太郎なのに。

「そういえばと蘭って、引っ越さないの?」

あの6人と離れた席に座りたかったけど空いてなくて、話が聞こえるような近くに座った。
嫌だなと思いながら聞こえた言葉に、私は内心首を傾げた。
発言をしたのは女性の声だったから、多分、蘭さん達と一緒に居た営業部の女性だろう。
でも、

「引っ越さねぇよ、俺ん家分譲だし。」
「は?生意気。」
「うるせぇ。」
「ファミリー向け分譲だから、部屋も広いし築年数も若いからこのまま住もうって話で落ち着いてるよ。」

蘭さんと女性の言い争うような固い声が聞こえたかと思えば、諫山の間抜けな声が聞こえた。
最近聞いたばかりだ、聞き間違える筈がない。
でも、聞いたことない苗字に混乱してしまう。

「銀山と下館は?あ、養子縁組したから2人共銀山か。」
「引越し?考えてなかったな………」
「侑士ん家居心地良いからそのまま俺が転がり込んだ形だしねー。でも確かに、前々からペット飼いたいって話してたし、この際戸建てに引越すのも良いかもな。」

混乱する私を置いて、会話は別に移っていく。
戸建て派だとかマンション派だとか、庶民的な話題。


「こうす………あ、藤代、俺も今度引っ越す予定なんだ!遊びにおいで!」
「そうなんですねー、旦那が嫌がるし興味無いから遊びには行かないかな。」
「行かせる訳ねぇだろうが、馬鹿か。」
「じゃあ藤代、私の家においで。そのまま住んでも良いわよ!」
「お前も馬鹿か!バーカ!!」

蘭さんに負けず劣らずな甘ったるい声で、誰かが諫山に話し掛けた。
多分、一緒に居た一番ガタイが良い無愛想そうな感じの美形だと思う。
物語に出てくる堅物の騎士様みたいな人。
でも何であの人が諫山に対してそんな声で話かけるの?
もしかして、あの人も諫山のことが?
あの女性だって諫山を気にかけてるっぽいし、なんであんなどこにでも居るような奴がモテてるの!?

「そういえば、どっちの戸籍で養子縁組するか決まったのか?」
「ああ。俺が藤代になる。婿入り。」
「ドヤるなー、その顔可愛いって言うの藤代だけだぞ?」
「お前に可愛いなんて思われたくねぇから、安心しろ。」

ぽんぽんと弾む、仲の良さが伺える幸せそうな会話。
私はその会話を聴きながら、必死にお弁当を口の中に入れた。
味なんて全然分からない。
ただ虚しさだけが、胸に広がっていく。

嗚呼、蘭さんあの人を手に入れれたら、私も幸せになれるのかな?
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