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PROLOGUE

0-0「僕のジョブは……キモオタだお」

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第0話を追加しました。なんちゃって三人称が見づらかったらごめんなさい。

(2022/8/20)第0話を追加しました。
ある程度未来の話ですが普通に読んでもらって問題ないかと思います。
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 そこはとある都市の駅の前、通常なら人で賑わうはずの日曜午後……しかし今は異形に溢れていた。

 突如大量に現れた緑色の肌をもつ豚顔の化け物達が剣や棍棒を手に人々へ襲いかかる。まるで昔、流行った三部作のファンタジー映画のようだ。

 車はひっくり返されて、あちこちで火の手が上がり煙が上っている。駅前の交番の警察官ではこの状況を止める事は出来ない。

 8年ほど前から閉鎖されている飲食店施設からそれらは現れた。最初は映画の撮影かと皆は手持ちのスマートフォンのカメラで撮影していたが、先頭にいた若者が緑の異形に殴り倒されたのを合図に人々を襲い始めたのだった。

 ダンジョンの存在が世間に報じられてまだそれほど経っていない。人によっては未だに信じていない者も多いだろう。実際には遙か昔からダンジョンは存在して、人知れずそこからモンスターが溢れないよう討伐し、時にはそのダンジョン自体を消す者もいたのだ。

「支部からの応援はまだ来ないのか!! このままでは保たんぞ!!」

「所属のスレイヤーズには連絡を入れているようです……順次こちらに来るはずです!!」

 エネミースレイヤーズギルド西東京支部の副長は焦りながら部下に確認する。昔から人知れず異形のモンスターと戦うその組織TOP2の彼は、既に現役を退いてそれなりの年数が経っている。

 その手にはまさにファンタジー映画で見かけるような刃渡り1メートル程、光を受けて銀に輝く剣が握られている。それに対して服装は年齢相応の一般人の物だった。

 彼は駅前の交番からギルドへの連絡を受けて、直ぐ動ける部下を伴い現場に急行したのだ。彼らのお陰で被害は駅前で食い止められているがダンジョンと化した施設から現れる緑の異形達の数は減らない。

「オークどもの強さが異常だ……もしかしたらジェネラル以上のボスがいるかもしれんぞ」

「まさか……あのダンジョンは出来てからまだそんなに時間は経っていないですよ」

「コソコソ隠れてダンジョンの討伐した奴がいたのかもしれん」

 発現したばかりのダンジョンは階層が浅いため攻略がしやすいが、急激に中のモンスターを討伐すると、防衛本能が働きモンスターレベルが上がったり強力なボスモンスターが現れると言われている。

「来るぞ!! ここを抜かれたらマズいぞ」

「わかってます!! 前衛は足止め! 後衛はできる限り数を減らせ!!」

 大きな盾を構え鎧を身に纏った者達が身をかがめて警戒する。後ろには比較的軽装な者が弓をつがえ、ある者は杖を構えると一斉に問題の建物から現れた異形……オーク達に攻撃を開始した。

 矢、炎、氷が飛んでゆく……幻想的な情景だがこれはCGではない。こちらに向かって来るオーク達に命中すると何体かは倒れるが、後続のオーク達はそんな事を気にもせずに前進を続けている。

 やがてオークの群れが盾を持つ前衛に到達すると激しい戦闘が開始した。雄叫びをあげる異形の魔物……それに負けぬように鼓舞するように声を上げる人間。激しくぶつかり合う金属音。


 ……ここは紛れもなく戦場であった。


「大変です!! ダンジョンの施設の裏側からも奴らが現れました!! 今の人数じゃ捌ききれません!!」

「くぅっ、マズいな……近隣の住民の避難は終わっているのか?」

「いえ、まだのようです……民間の防災会社にも協力を要請していますが、ダンジョン関連の対応に慣れていないため連携が取れてません」

「くそ、俺が行く」

「駄目です!! 副長には指揮を執って貰わないと!!」

「誰か!! 何とかならないのか!!」

 その時、施設の近くで大きな爆発が起こった……施設側面側のオーク達が炎に消えていく。味方の魔法かと副長は思ったが、あんなに強力な魔法を使える部下はいなかったはずだ。

「間一髪でござるな……アニメなら次回に引くシーンでござる」

 そこには長めのポニーテールで少しふくよかな眼鏡少女が立っていた……しかしその格好はこれはまたファンタジー映画に出てくるような魔法使いの装いだ。

「応援に来た魔術師か……なんて強力な炎の魔法だ……」

 炎が収まった後からもオーク達は飛び出してくる……さすがにつぎの広範囲魔法を直ぐ撃てないのか魔術師の少女は炎の矢の魔法を連発している。これはこれであり得ない早さなのだが、しかし数に任せて現れるオーク達がじわりじわりと戦線を押し上げてくる。

「わたくしのナイツ達!! やっておしまいなさい!!」

 その隣に現れた金髪の少女……その身に纏うのは細身の甲冑、腰の下はスカートのような装甲……高貴なオーラを醸し出している。そしてその少女の合図と共に輝く甲冑を纏った数にして10ほどの騎士達が施設を包囲するように突撃した。

「騎士のジョブか……いや、この指揮能力は上位クラスなのか?」

 剣と盾、槍に弓など、様々な武具を装備した騎士達は連携を取ってオーク達を駆逐してゆく。しかし騎士達の人数に対してオークの数は多い……包囲を抜けたオークも何体か現れる。しかしその瞬間にその額に何かが刺さり次々と倒れていく。

「お嬢様の騎士との戦いを放棄するのは許せませんね……万死に値しますよ」

 次に現れたのは黒いタキシードに身を包んだ初老の男性。

「あなたは? その投擲技術……斥候か盗賊か?」

「私はラヴレス家に仕えるただの執事でございます」

「嘘だ! そんな執事がどこにいる!!」という言葉を副長は飲み込むと、情勢がやや有利になった戦場を確認して再び指揮に専念する。

「あら、困りましたわね……ナイツ達がやられてしまいましたわ」

 その言葉を聞いて施設の方を見ると、今までのオークとは一回り……いや二回り大きいオーク達が続々と現れる。不思議な事に戦っていた騎士達はどこにもいなくなっていた。もしかしてこの少女のスキルなのだろうか?

「レベル30以上のオークジェネラルでしょうか?」

 状況とは裏腹に落ち着いた執事の言葉を聞くと「レベル30以上だと!?」と、これまた副長は叫びたくなるのを堪えた。今連れてきている部下や手の空いていた者達は大体レベル20~25主にランクEの人間達だ。レベルが10違うと余程装備が良くないと歯が立たないと言われている。

 既に副長の部下達はオークジェネラルに押され始めて負傷者も出始めた。一旦下がらせるか? しかし少しでも人数が減れば防衛ラインが崩れてしまう。

「みゅーに任せて!!」

 この場所には不釣り合いな中学生くらいに見える……既に不釣り合いな人物が多すぎて副長は感覚が麻痺してきたが……少女が何かつぶやくと膝をついていた部下達の周りに光が差してみるみる傷口が塞がっていった。更に淡い青色に輝く光が包み込んでいく。

「ぜ、全回復に高位の防御魔法? あんな小さい少女が……信じられん」

『ブゴゴゴゴッ!!』

 突然副長の立っていた後ろから細身のオークが飛び出してくる。オークスカウトがスキルで身を隠し指揮官を直接狙ってきたのだ。彼はその不意打ちに対応出来ずその刃が首に掛かろうという時……逆に襲撃者であるはずのオークスカウトの首を何かが薙いだ。オークはそのまま倒れて消えていった。

「気配がバレバレね……指揮官を狙う策は悪くないけれど腕が伴っていなかったわ」

 振り返るとそこには長く美しい金色の髪を靡かせた少女が立っていた。副長自身のレベルはそれなりに高い、だがそれでもその気配に気付かせなかったオークスカウトを、いとも簡単に屠った少女は一体どれほどの腕なのだろうか?

「君達は……たしか東東京の支部からやってきた……」

『ヴォゴオオオオオオオオオオッッッ!!』副長の言葉はそこで中断された。凄まじい雄叫び……これには威圧の効果があるようだ。雄叫びをあげた者よりもレベルが低い者は立ちすくんでいる。その中には先程目を見張る回復魔法を使った少女も含まれていた。

「オークキング……キングクラスが出ただと……もはやこれは撤退しか……」

 オークキングがその場に現れるだけで、周りのオークのレベルが10は上がると言われている。そのレベルが10上昇したオークジェネラルの群れを突破したとしても、キングの強さはジェネラルの比では無い……いくら応援出来た彼らの強さがあろうと、こちらの戦力が足りないだろう。

「まぁ、オークキングなんて困りましたわね……でも巧美様がいれば問題ないですわ」

「そうでございますね、まだ力は温存されていたようですし」

「うう、痺れるよ~おにぃ~はやく倒しちゃって~」

「やはり巧美殿は主人公属性があるでござるな」

「巧美、早くやっちゃいなさい」

 本来ならオークキングと部下のジェネラルがいるのならランクBのスレイヤーズか、ランクCを何十人と集めて当たらねばならない戦力だ。だが彼らは全く不安を感じていない様子だった。果たして彼らはただの無知なのかそれとも、この状況を打破する何かがあるのだろうか?

「任せておくんだお!! 今日は早く帰って『冥王星の魔女』を見たいんだお!! ……録画予約はしているけれど、僕はリアルタイムで見る派だお!!」

 緊張感のかけらも無い発言をしたふくよかな体型をした眼鏡少年は、チェックのシャツをジーンズにシャツインした格好をしている……これは俗に言うオタクファッションだろうか?

「待つでござる、拠点のプロジェクターを使って皆で見るのでは無かったでござるか?」

「茜、その話は今はいいから、ほら、巧美も行きなさい」

「わかったお……ダンジョン名は『蜂王子浪漫地下』? 変な名前だお」

 彼は見ただけでダンジョン名がわかるのだろうか? 緊張感の無い会話が終わると彼の服装が一変する。何かのキャラクターのキーホルダーがついていたリュックは消えて無くなり、青白く光る鎧に剣と盾を装備……彼もスレイヤーズだったのか……その装いは戦士と言える姿だった。そして颯爽とオークの群れに飛び込んでいく。

「駄目だ、一人では危険だ!! 彼を止めるんだ!!」

 焦る副長とは裏腹にその連れと思われる彼らは取り巻きのオークを倒している。副長が再びオークに飛び込んだ戦士を見ると……戦士なのか?

 とんでもなく早い連撃でオークジェネラルを倒したかと思うと、後ろから狙っているオークメイジにいつの間に装備したダガーを投げつけて倒し、明らかに魔法だと思われる光を体に纏うと、その瞬間加速して群がるオークの背後に連撃を食らわせて倒していく。

「なんだ、彼は戦士……いや魔法戦士なのか?」

 魔法戦士は戦士や魔法使いから派生する上級のクラス……しかし彼は斥候や盗賊かと思われるほど鋭い投擲を使った。副長は彼のジョブがわからなくなってしまった。

 そうしている間にもオークジェネラルの取り巻きが減り、キングまでの道のりが見え始めてくる。しかしオークキングが大きな雄叫びをあげると人間一人の体よりも大きな戦斧を振り上げ味方のオークごと切り裂いてきた。圧倒的な暴力を前に彼は手に持った盾を構えると、驚くべき事にそれを弾き飛ばした。

 すかさずキングの懐に飛び込んだかと思うと……彼の姿が消えてしまった。副長は目を擦り再びオークキングに目を向けると……なんと、オークキングは地面に倒れ伏しているではないか。キングは倒れ、その取り巻き達も全て討伐されている。

 彼が一体何をしたのか……それはきっと彼らの仲間にしかわからないのだろう。

「ふひぃぃ~きついお、もう帰っておやつ食べたいお」

 すぐさま金髪縦ロールの少女がいつの間にオタクファッションに戻った少年の腕を取る。

「巧美様、お疲れ様ですわ。おやつでしたらわたくし『いちごシャンパン大福』をご用意しておりますの。以前、お昼の番組で紹介されて人気だとクラスメイトに伺ったので準備させましたのよ」

「そ、それは聞くだけでも美味しそうだお」

「だめー! 今日はおにぃはみゅーとテレビみるんだもん」

 彼の反対の腕を少女が取ると自分の方へ引っ張る。彼らは兄妹なのだろうか?

「むふふふふ、モテモテでござるな巧美殿……まぁ、拠点で全員まとめて予定をこなせば良いでござるよ」

「はいはい、まずはギルドへの報告が先よ」

「報告は私がしておきますので皆様は先にお帰りください」

 彼の周りに少女達が集まると先程の戦いが嘘のように賑やかになる。それはまるで学校の授業が終わった放課後のようだ。

「君、たしか東東京の支部から来た子達だね? 多彩な魔法もスキルをも使う君のジョブは……一体何なんだ?」

 副長が戸惑いながら……いとも簡単にオークキングを屠った少年に問うと、彼はこう答えた……



「僕のジョブは……キモオタだお」



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