悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里

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 手紙は、王宮からだった。

 殿下からだ。

 最近、剣術の稽古ばかりで、いつからな気にしてなかったけれど、以前気まずい雰囲気になったままだ。

 私はその手紙にあったとおり、急いで王宮に向かった。


「お久しぶりです、殿下」

「マリエッタ……。風の噂で剣術を始めたと聞いたが、最近は忙しくしているのか?」

「日々、精一杯稽古に励んでおります」


 殿下の言葉に深く頭を下げる。


「まあ、そう堅くならないでほしい。君は、僕の大切な友人であり、大切な人であり、何より婚約者だ。以前のように気さくに話してくれないか?」

「はい……」


 殿下の声は、まるで懇願するような物言いだった。
 しかも私に面と向かって婚約者だなんて言葉を発することもこれまでなかったように思う。

 少し疑問に感じながら見ていると、殿下は困ったように笑った。


「……マリエッタ、何かあった?」

「え?」


 どこか心配するような殿下の声色に、思わずどきりとする。


「いや、突然すまない。以前顔を合わせたときも様子がおかしかったし、最近はティーパーティーにも参加してないと聞いてな。そしたら、いつの間にか剣術に打ち込んでいたと聞くから驚いた」

「そうですね。驚かせてしまい、ごめんなさい」

「謝ることない。けれど、君に何か心境の変化があったのかと思って……」


 心境の変化といえば、心境の変化なのだろう。

 未来予知とも捉えられる一度目の人生の記憶を見て、夢だと一言で片づけられるほど私は強くない。

 けれど、その理由を殿下に面と向かって言えるわけがない。

 殿下が、正妻として婚約者の第一候補として扱ってきた私を選ばず、突然現れた女性を選び、結果、彼女の陰謀もあったが殿下により私は処罰されてしまうのだということを……。

 今の殿下に伝えたって、そんなこと僕がするはずないだろうと怒らせてしまうだろう。

 もしくは、根拠のない言いがかりのように聞こえて、殿下の婚約者になるのを嫌がっているように見えるだろう。

 さすがにそれは避けたかった。


 そのとき、殿下の手が私の方に伸びてきて、私はとっさに身をすくめる。


「あ……」

「気のせいだったら申し訳ないのだが、マリエッタ、僕が嫌か?」

「そんなこと……」

「すまない。前回の君の様子や、今の君があまりによそよそしいから……。拒まれているんじゃないかと……」

「そんなことはありません。殿下にそのような無礼を感じさせてしまってすみません」

「君は悪くない!」


 そのとき、こちらに向かって大きく言葉を発した殿下が大股で歩いてきて、私をきつく抱きしめた。


「僕が悪いんだ。君が、僕から離れていってしまうような気がして、胸騒ぎがするんだ」

「で、殿下……!?」
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