上 下
16 / 17

16

しおりを挟む
 控室に戻ると衣装や化粧をする人でみな忙しそうにしていた。

「フレア!! 早く着替えるわよ」

「あ、はい。すみません」

 あれよあれよと衣装の着替えを済ませる。

「フレアちゃん準備はできたかい?」

「ジョージ様できました」

「うん、いつもは可愛いけど今日の姿は美人で清楚系って感じでそそるね」

 ジョージ様は色っぽく舌なめずりをした。

「えっ、ありがとうございます」

「一つだけ言っておくよ。何があってもそのまま演劇を続けること。約束できるかい?」

「はい。私は覚えたセリフを言えばいいのですよね?」

「そうだよ。もしアドリブで来られた場合は自分の意思で答えること。わかったかな?」

「……なんだか意味がわかりませんが、なんとかやってみます。舞台に立っている間は恥を捨てて演じ切ります」

「そうだね。では頼むよ」

 そう言ってジョージ様は去っていくと、レオがこちらにやってきた。」

「ねぇ、ジョージ様の言葉の意味わかってる?」

「ん? 意味ってそのままでしょ?」

「……なんでもないです」

 レオはそう言ってジョージ様の後をついていく。

「いったいなんだったんだろう」

「あの子もね……色々複雑なのよ」

 教えてくれた女性は悲しそうに言ったのだった。

 ジョージ様が集合をかける。

「今日が上演最後の日だからみんな気を引き締めていくように」

「「はいっ」」

「あと今日はスペシャルなことが起きるクライマックスを準備してある。己の役者魂を試すときだ。それぞれがそのとき感じた役の感情で演じてくれ。お前たちならそれができると信じている」

「えっ、それはどういうことですか?」

 ルーベルトが尋ねるとジョージ様はフッと笑った。

「お前ならできるよ。未来のエースなんだからな」

「……そんな……」

 恥ずかしそうに照れるルーベルトが可愛く見える。レオはそれを見てズボンを強く握りしめていた。

 あんなに小さいのにもうちゃんとした立派な役者なのだ。

 お父さんに認められたいんだろう。

「それでは本日もよろしくお願いします」

「「おぉっ!!」」

「おっ」

 遅れて返事をした私に注目が集まるとジョージ様は言った。

「フレアちゃんは私の魅力に取り込まれなかった唯一の大切な女性だ。舞台上でミスをしてしまう可能性があるかもしれない。だがお前たち全員でフォローしてやってくれ。頼む」

 ジョージ様が頭を下げるとみんなは驚くように顔を見合わせている。

「ジョージ様が誰かのために頭を下げる……なんて」

「どうしてよ。何でも興味を示さない冷徹なジョージ様が……? ジョージ様……こんなにも着飾っているジェニファーが目に入りませんか?」

「……うん。今の君は平民だろう? 着飾っていないけれど」

 まっとうな意見を素で言えるあたりがなんとも恐ろしい。

「そうですけど……今日の相手は私ジェニファーでございます」

「フフフ。そうだといいな」

 ジョージ様の意味深な言葉と共に開幕を知らせる音が鳴り響いたのだった。


※次こそ最終話です※
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,743pt お気に入り:3,673

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:208,565pt お気に入り:12,423

夫の不倫相手は妹でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:68,536pt お気に入り:660

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,853pt お気に入り:1,477

メイドを妊娠させた夫

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,888pt お気に入り:250

モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:379

処理中です...