その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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光への細い道

辺境の仲間からの「贈り物」

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 ” フルーリー総合商会 ”


 その設立経緯は、普通の商会とは、かなり違っているの。 何かを売ろうって始めた、商会じゃないわ。 云わば、フルーリー様の ” 商いあきない ” を理解する為の、勉強の場でもあるのよ。


 フルーリー様がお父様のグランクラブ準男爵様に、私との取引をするに当って、彼女を窓口としたのよ。 そのときに、商会内にもう一つの商会をお立てになったの。


 それが、フルーリー総合商会なのよ。


 次代のグランクラブ商会の『 女性会頭商会長 』を志す彼女。 一人娘ですものね。 そして、その彼女を真正面から、商人として鍛えようとされているのがグランクラブ準男爵様。 えっと、物凄く甘いお父様なんだけれど、こと商売となると本当に別人のように成られるのよ。

 流石は政商の誉れ高い、グランクラブ準男爵様よ。 その鍛え方って云うのが、なんて云うか…… そう、実践的。 いきなり、彼女を長とした商会内商会を立ち上げてね、仕入れ、値決め、財務、配送業務、の各業務を、” 彼女に一手 ” に、引き受けさせられたの。


 勿論、必要な知識を持った、グランクラブ商会の人達が補佐に入ってはいるけれどもね。 物凄く厳しい事には変わりないけれどね。 それを、嬉々として受け入れてらっしゃるフルーリー様も、フルーリー様だけどね。


 主な取引相手は…… 『 私 』。 そう、『第四軍、軍属薬師錬金術師 リーナ』。 本当だったら、お父様であられる、グランクラブ準男爵様が第四軍…… または、執政府と新たな契約を結ぶだけだったのよ。 それを、新商会を起こし、私個人と、フルーリー様との間での商売として、成立させたのよ。

 こんな小娘が、政商相手に個人的に商売する事は、まぁ、有り得ないわ。 でも、新規に設立された、商会なら…… って事ね。 商売の実態は、私が直接 イグバール様に商品、つまりは薬草箱とか、符呪した魔道具とかを、お願いして、代金の決済をして貰っているの。


 ―――― いわゆる金融って事ね。


 大金を運ぶのは、とても危ないし、その為の護衛を雇うのもとても非効率的。 だから、商業ギルドのある、各都市間を繋ぐ、商会の決済口座を利用させてもらっている。 信用状態も加味して、色々な特典もあるし、皆がスムーズな取引が出来て、本当に有り難いの。

 でも、この頃、決済をわざと遅らせて、イグバール様も王都の品物をご購入されているのよね。 決済時にその代金を代引きして貰っているって、お手紙に書いてあったわ。 お取引の物品は主に女性の装飾品、靴、そして、下着類。 軽くて小さくて高価なモノなのよ。

 南方辺境域は、ベネディクト=ペンスラ連合王国との貿易が活発になり、かなり潤い始めているんですって。 そこでね、辺境域の全ての御領で税収も向上して余裕も出始めているんですって。 余裕が出れば、ほら、男爵家とか子爵家とか、王都に出て来れない方々だって、着飾ったりしたいのが心情よね。

 男爵家、子爵家の御夫人、お嬢様が、イグバール様の顧客って事。 一体、お師匠様は何になろうとされているのかしら? あの方…… 馬車屋さんなのよ? そういえば、馬車屋さんのお仕事も順調に拡大しているって、そうお手紙にあったわ。 緩衝装置もブギットさん印のものが、この王都でも普及し始めているしね。



 フルーリー総合商会は、とっても上手くいっていると思うの。



 ^^^^^^




 新年初日の祝祭日にわざわざ、窓口を開けてくださったの。 申し訳ないわ。 玄関ホールで待っていらしたフルーリー様。 私の姿を認めると、両手を一杯に広げて、歓待してくださったの。





「リーナ様!!」

「フルーリー様。 祝祭日に…… ごめんなさいね」

「それを云うのは、私の方よ。 大晦日にトンデモナイお願いをしてしまって…… ごめんなさいね。 でも、ユーリも本当に助かったって。 今朝、ユーリが飛んできてね、神官長様が恙無く新年祈願祭を終えられたって。 それは、それは興奮して報告に来られたのよ。 何でも、わ、脇侍? とかに、任じられて、その任を全うしたって…… 鼻の穴大きくして、とても誇らしげに、云ってきたわ。 ホホホホッ 子供みたいにねぇ」

「脇侍ですか? それは、凄い。 確か、『 ” 迎人 ”に認められれし、真摯な信仰を精霊様に捧げ給いし者 』だったかしら? 普通は、枢機卿様とかの高位の神官様が勤められる筈のお役目ですわよ、それ」

「そうなの?! あら、やだ! 其れがどうしたの?って、応えちゃった! あとで、謝っておかなくちゃ!!」

「ええ、それは、御謝りに成った方が宜しいわ。 聖堂教会の神官ならば、誇るべき事柄ですものね」




 出会い頭のお話としては、途轍もない異例なお話を聞いてしまったわ。 異例中の異例よ。 助祭様が、脇侍を勤めたなんて話、聞いた事がないもの。 それに、勧請できた精霊様が、闇の精霊ノクターナル様だったんでしょ? 光の精霊 グローリアス様と同様に、最高の精霊様のご光臨って、そう街の人が囁きあっていたもの。


 やはり、新年祈願祭って、階位じゃなくて、祈りの深さが精霊様に繋がるのね。 そうだと思っていたわ。


 玄関ホールでそんなお話をしつつ、中に入る。 既に、沢山の下着が準備されていて、更にお針子さん達が、いまや遅しと、私の来るのを待っていたみたいなの。 なんで?





「リーナ様は、今年から又、学院にも通学されますでしょ? だったら、御衣装も沢山必要になりますわ。 だって、今年は私達のデビュタントの年で御座いましょ? それに「礼法の時間」もそれに掛かりきりになるはずですもの」

「えっ、い、いや、わたくしは…… えぇっと…… その……」

「なんですの?」

「は、はい………… 実は、そのデビュタントの時には、アンネテーナ様の護衛に入ると、そう申し付かっておりますわ。 だから……」

「えぇぇぇ! 知らなかったわ!! ユーリは知っているはずよね、あの子、王太子府に通っているんだもん。 なんで、教えてくれなかったのかしら!」

「えっと…… 護衛の人選は極秘なものですから…… 多分口止めされていたのでは?」

「リーナが其れを云うの?」

「えっ! あっ!!」

「なら、私は知らない。 いい? 私は知らなかったのよ。 リーナ、一杯ドレスを作りましょう! デビュタントの為のドレスもねッ! 代金はイグバール様から頂いております。 可愛い弟子が可愛く装う様にって!! これは、イグバール商会からの「贈り物」だそうです。 商会の仲間への「贈り物」だそうです。 いいですわよね。 出来る限り、お手伝いすると云う事で、お話は付いておりますからね」




 満面の笑みを浮かべて、フルーリー様がそう云うの。



 イグバール様……

 イグバール師匠様……

 ご好意有り難く思います。 




 『』 確かに…… 確かに感謝と共に、お受け取り致します。









 はぁ…… 会いたいなぁ…… 皆に……  辺境に…… 辺境に帰りたいなぁ……















 ところで、フルーリー様?


 このって…… 



 レース編みの向こうが透けて見えるような、

 装甲にもならないコンナモノデ……




 『 誰 』と『 何 』を、勝負するんですの?



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