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10章
165話 親バカ
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昨晩はかなり盛り上がった2人。約1年ぶりのセックスともなればそれも無理はない。寧ろ、この1年のことは、以前の琳太郎からは考えられないようなことであった。相手に関心はないものの、晴柊と出会う以前から不特定多数と関係をもってきた琳太郎。仕事のストレス、興奮、アドレナリンをまるで発散するために定期的なセックスは最早琳太郎の体調管理の一つでもあった。
それなのに、晴柊が芽実を身籠ってからは、更に人が変わったようだった。勿論、外で誰かを抱こうなんてことは考えすらしなかった。まるで、晴柊の傍にいるだけで、全ての問題が解消されているといっても過言ではない。
先に目覚めた琳太郎は、隣でぐっすりと眠る晴柊を愛おしそうに見つめた。頬にかかる髪の毛を丁寧にどかす。顔を見ていると昨日のことを思い出しもう一度キスでもしたくなるが、こんなに眠っているのを起こすのも悪いと、その感情をぐっと抑えた。
ふと、赤子の泣き声が聞こえてくる。芽実がお腹を空かせているのだろう。もしくは、おしめの交換だろうか。琳太郎は晴柊を起こさないようにそっと身体を起こし、床に放り投げていたシャツを拾い上げるとそのまま離れから出た。
「ふぎゃああ!!」
寝室から爆音で轟く元気な泣き声。篠ケ谷が慣れた手つきであやしていた。部下たちも、まるでヤクザとは思えないほど育児がて慣れてきている。
「おはようございます、組長。」
「ああ、おはよう。替わる。」
琳太郎が篠ケ谷に抱かれていた芽実をそっと抱きかかえる。どうやらお腹が減っているらしい。生まれて間もない小さな我が子をじっと見つめながら、僅かに腕を揺らしてあやした。
「アイツはまだ寝てるんすか?」
「ああ。昨日は少し無理させたからな。今日ぐらいゆっくり寝かせてやりたい。」
「……なんか、意外っすね。組長は赤子とか、なんか苦手なのかと勝手に思ってました。」
朝から泣き喚く赤子の世話を甲斐甲斐しくする姿をみて、篠ケ谷が思わず呟いた。こんな琳太郎の姿は誰も想像ができなかっただろう。
「自分のガキってなると話は別になるんだよ。」
な?と芽実に問いかけるように僅かに微笑む琳太郎。紛れもない親の顔に、普段の仕事場での琳太郎とは別人なのではないかと篠ケ谷は驚いていた。
そんな2人のもとに、ミルクを作っていた遊馬がやってきた。
「組長おはようございます。日下部さんが表の車で待機してますよ。」
あとは俺たちが、と、哺乳瓶を持つには似つかわしくない派手な和彫りの腕を露にした遊馬が琳太郎を仕事へと促す。側近たちにも本業の仕事があるにもかかわらず、こんなベビーシッターのようなことをさせて気が引けないわけではないが、どちらかというと「自分たちもやりたい」と言わんばかりの姿勢に、琳太郎も琳太郎で「意外だな」と感じているのであった。
仕度を始め、日下部と事務所に向かう琳太郎を見送り、篠ケ谷は芽実の世話を遊馬に任せ別室で仕事をすることにした。少しして、離れの方からドタドタと騒がしい音が聞こえる。思わず襖を開け顔をちらりとのぞかせると、廊下を騒がしく走り抜ける晴柊に遭遇した。
「おい、朝からうるせーぞ。廊下は走るなって言ってんだろうが。」
「あ、シノちゃん、おはよう!ごめん、俺寝坊した……!」
琳太郎もタフだが、晴柊も負けじとタフである。あんだけ激しくされたのにもうケロっとしているではないか。晴柊が慌てて芽実のいる寝室に入ると、遊馬がミルクを飲ませてくれていた。
「琉生くん、ごめんね。」
「どうして謝るの?おはよう、晴柊。はは、凄い寝ぐせだね。先にシャワー浴びておいでよ。」
遊馬が晴柊の跳ね上がった前髪を見て仕度を促す。というよりは、昨日のアレからシャワーぐらい浴びたいだろうという遊馬なりの気遣いであった。晴柊はまるで面目ないというような表情でお礼を言うと、いそいそと浴場へと向かっていった。
母親の責務が芽生えているのか、元々の性格もあって晴柊はここ最近変に気負っている。琳太郎も、側近も少し気がかりであった。たまに息抜きさせなければパンクをしてしまうであろうその様が側近たちをはらはらさせた。
♦
「ねぇ~やっぱり可愛いよなぁ~。ひいき目無しにさ、俺の子供、可愛くない~?」
すぴすぴとベビーベッドの上で寝息をたてながら眠る我が子を覗きながら、晴柊は小さな声で呟やいた。傍にPCを置いて仕事をしていた篠ケ谷はまた始まったよと言いたげな表情でタイピングし続けている。
ベビーベッドの上ではくるくると玩具がメリーゴーランドの如く回っており、小さなオルゴールの音が奏でられていた。小さな小さな握りこぶしを顔の横に置き、腕を挙げて眠る様は何枚もカメラのシャッターを切ってしまう。生後半年を迎えようとしている芽実は、すっかり目鼻立ちもはっきりし、最近はうごうごと良く身体を動かすようになってきた。機嫌が良いと笑ってくれることもある。
「ねえねえ、シノちゃんもそう思うでしょ?」
「うるせえな。組長の血引いてんだからあたりめーだろ。タッパはお前に似ないと良いな。」
「そうだよね~可愛いなぁ~。」
相変わらず悪態をつく篠ケ谷の言葉を聞いているのか聞いていないのか、晴柊は空返事をして芽実を眺める。親バカを早速発揮している晴柊の先が思いやられるのであった。
昨晩はかなり盛り上がった2人。約1年ぶりのセックスともなればそれも無理はない。寧ろ、この1年のことは、以前の琳太郎からは考えられないようなことであった。相手に関心はないものの、晴柊と出会う以前から不特定多数と関係をもってきた琳太郎。仕事のストレス、興奮、アドレナリンをまるで発散するために定期的なセックスは最早琳太郎の体調管理の一つでもあった。
それなのに、晴柊が芽実を身籠ってからは、更に人が変わったようだった。勿論、外で誰かを抱こうなんてことは考えすらしなかった。まるで、晴柊の傍にいるだけで、全ての問題が解消されているといっても過言ではない。
先に目覚めた琳太郎は、隣でぐっすりと眠る晴柊を愛おしそうに見つめた。頬にかかる髪の毛を丁寧にどかす。顔を見ていると昨日のことを思い出しもう一度キスでもしたくなるが、こんなに眠っているのを起こすのも悪いと、その感情をぐっと抑えた。
ふと、赤子の泣き声が聞こえてくる。芽実がお腹を空かせているのだろう。もしくは、おしめの交換だろうか。琳太郎は晴柊を起こさないようにそっと身体を起こし、床に放り投げていたシャツを拾い上げるとそのまま離れから出た。
「ふぎゃああ!!」
寝室から爆音で轟く元気な泣き声。篠ケ谷が慣れた手つきであやしていた。部下たちも、まるでヤクザとは思えないほど育児がて慣れてきている。
「おはようございます、組長。」
「ああ、おはよう。替わる。」
琳太郎が篠ケ谷に抱かれていた芽実をそっと抱きかかえる。どうやらお腹が減っているらしい。生まれて間もない小さな我が子をじっと見つめながら、僅かに腕を揺らしてあやした。
「アイツはまだ寝てるんすか?」
「ああ。昨日は少し無理させたからな。今日ぐらいゆっくり寝かせてやりたい。」
「……なんか、意外っすね。組長は赤子とか、なんか苦手なのかと勝手に思ってました。」
朝から泣き喚く赤子の世話を甲斐甲斐しくする姿をみて、篠ケ谷が思わず呟いた。こんな琳太郎の姿は誰も想像ができなかっただろう。
「自分のガキってなると話は別になるんだよ。」
な?と芽実に問いかけるように僅かに微笑む琳太郎。紛れもない親の顔に、普段の仕事場での琳太郎とは別人なのではないかと篠ケ谷は驚いていた。
そんな2人のもとに、ミルクを作っていた遊馬がやってきた。
「組長おはようございます。日下部さんが表の車で待機してますよ。」
あとは俺たちが、と、哺乳瓶を持つには似つかわしくない派手な和彫りの腕を露にした遊馬が琳太郎を仕事へと促す。側近たちにも本業の仕事があるにもかかわらず、こんなベビーシッターのようなことをさせて気が引けないわけではないが、どちらかというと「自分たちもやりたい」と言わんばかりの姿勢に、琳太郎も琳太郎で「意外だな」と感じているのであった。
仕度を始め、日下部と事務所に向かう琳太郎を見送り、篠ケ谷は芽実の世話を遊馬に任せ別室で仕事をすることにした。少しして、離れの方からドタドタと騒がしい音が聞こえる。思わず襖を開け顔をちらりとのぞかせると、廊下を騒がしく走り抜ける晴柊に遭遇した。
「おい、朝からうるせーぞ。廊下は走るなって言ってんだろうが。」
「あ、シノちゃん、おはよう!ごめん、俺寝坊した……!」
琳太郎もタフだが、晴柊も負けじとタフである。あんだけ激しくされたのにもうケロっとしているではないか。晴柊が慌てて芽実のいる寝室に入ると、遊馬がミルクを飲ませてくれていた。
「琉生くん、ごめんね。」
「どうして謝るの?おはよう、晴柊。はは、凄い寝ぐせだね。先にシャワー浴びておいでよ。」
遊馬が晴柊の跳ね上がった前髪を見て仕度を促す。というよりは、昨日のアレからシャワーぐらい浴びたいだろうという遊馬なりの気遣いであった。晴柊はまるで面目ないというような表情でお礼を言うと、いそいそと浴場へと向かっていった。
母親の責務が芽生えているのか、元々の性格もあって晴柊はここ最近変に気負っている。琳太郎も、側近も少し気がかりであった。たまに息抜きさせなければパンクをしてしまうであろうその様が側近たちをはらはらさせた。
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「ねぇ~やっぱり可愛いよなぁ~。ひいき目無しにさ、俺の子供、可愛くない~?」
すぴすぴとベビーベッドの上で寝息をたてながら眠る我が子を覗きながら、晴柊は小さな声で呟やいた。傍にPCを置いて仕事をしていた篠ケ谷はまた始まったよと言いたげな表情でタイピングし続けている。
ベビーベッドの上ではくるくると玩具がメリーゴーランドの如く回っており、小さなオルゴールの音が奏でられていた。小さな小さな握りこぶしを顔の横に置き、腕を挙げて眠る様は何枚もカメラのシャッターを切ってしまう。生後半年を迎えようとしている芽実は、すっかり目鼻立ちもはっきりし、最近はうごうごと良く身体を動かすようになってきた。機嫌が良いと笑ってくれることもある。
「ねえねえ、シノちゃんもそう思うでしょ?」
「うるせえな。組長の血引いてんだからあたりめーだろ。タッパはお前に似ないと良いな。」
「そうだよね~可愛いなぁ~。」
相変わらず悪態をつく篠ケ谷の言葉を聞いているのか聞いていないのか、晴柊は空返事をして芽実を眺める。親バカを早速発揮している晴柊の先が思いやられるのであった。
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