167 / 173
10章
166話 生駒くん初めまして
しおりを挟む
♦
今日は晴柊にとって楽しみにしていた日であった。それもそのはず、久しぶりに生駒と会う約束をしたのだ。晴柊の妊娠が発覚してからは、シルバの散歩も控えていた晴柊。
事情を知っている生駒だが、あまり詮索は良くないと変に深追いせず、たまに会う散歩当番の側近たちに経過報告を受けるのみだった。
先日、晴柊が遠慮がちに琳太郎にこう尋ねた。
「ねえねえ、そろそろ芽実もシルバの散歩に連れて行っていい?」
「駄目だ。まだ早い。」
「でもさぁ、まだ1回もお外に出てないんだよ?」
「庭で十分だ。その辺の家よりは広いだろ。」
琳太郎の過保護さは予想通り我が子にも降り注ぐ。しかし、琳太郎の言うことも一理ある。明楼会の組長に子供ができた、なんてニュースが漏れれば一目散に危ないのは芽実である。芽実が産まれたことは未だかなりの極秘である。琳太郎曰く、立ち上がれる歳になるまでは公表は控えたいらしい。
晴柊はそうだよなぁ、と琳太郎の言うことを聞く。しかし、もう一つ晴柊の心につっかえが残る。
「生駒君にも、随分会えてないなぁ。でも、仕方ないかぁ……。」
晴柊がボソリと呟いた。資料を見て何か作業をしていた琳太郎の視線が、晴柊に向く。芽実を膝の上に抱きかかえながら、縁側に腰掛けている。その後ろ姿を琳太郎は仕事場から眺めながら、考える。芽実どころか、晴柊の外出も制限してしまっている。今に始まったことではないのだが、産後はストレスがどうとかいう知識も琳太郎にはあった。
琳太郎は紙を机に置き、立ち上がる。晴柊の背後に歩みを進めると、気配に気付いた晴柊が後ろを振り返り見上げるようにして琳太郎を見た。
「どうしたの?」
「ここに呼ぶのなら……まぁ良い。」
「え?」
「アイツに会いたいんだろ。」
琳太郎が妥協案を示す。晴柊はそんな言葉を想像もしていなかったのか、ぽけっとした表情を浮かべている。しかしすぐに合点がいったのか、抑えられない笑みが零れる。
「えっ、いいの!?」
「まぁ、アイツはカタギだがもう色々知ってるしな。」
そういうと、琳太郎は隣に腰掛け休憩とでもいうように足を放り投げた。
「ありがとー!琳太郎!やった、やった、あっくんに会えるぞ、芽実~!!」
晴柊は嬉しそうに芽実の両脇を抱き上げ、お天道様に掲げる。芽実は勿論何が何だかわかっていないが、ママが嬉しそうな顔をしていると、つられてきゃっきゃと笑った。そんな姿が、琳太郎の心を満たしていった。
そんなこんなで、篠ケ谷から突然晴柊のいる屋敷に招待された生駒。一応手土産を持って、晴柊の暮らす明楼会本家へと向かう。
立派な正門の前に到着し、インターホンを押すと、出迎えてくれたのは天童だった。
「おー、来た来た。中で晴柊待ってるぞ。」
「あざーっす。相変わらずデカい家っすね~お邪魔します。」
久々に屋敷を見て、住む世界が改めて違うなと思わされる生駒は、靴を脱ぎ丁寧にそろえると、天童の案内のもと屋敷の中へと踏み込んだ。もっと怖いお兄さんたちが出入りしているのかと思ったが、人は少なくとても静かな屋内。
「あ、そうだ。天童さんこれ、良かったら皆さんで…」
「ん?あぁ、ありがとな。それは直接晴柊に渡してやってくれ。ほら、生駒が来たぞー。」
天童が一際広そうな部屋の襖を開ける。そこには、久方ぶりに会う晴柊の姿があった。
「あっくん!」
「晴柊!久しぶり!」
変わらない。晴柊の向日葵の様な弾ける笑顔に、生駒が釣られて笑みを零した。
ふと、晴柊が布の塊を抱いていることに気が付く。いや、これは布の塊などではない。俺は、この正体を知っているのだ。
生駒はおそるおそる、というように視線をやる。
「も、もしかして……」
「へへ、俺と琳太郎の子♡」
やっぱり!というように、生駒の顔がぱぁっと晴れた。以前から晴柊の様子は心配で、側近たちから話には聞いていた。
この間会った時は晴柊のお腹にいた赤子が、今こうしてここにいることに、生駒は感動を覚えた。
「本当に……元気に産まれてくれて良かったぁ……晴柊も、ほんと……うわぁ……ちっちゃ、手も足も……え、ちっちゃ……」
無事に赤ちゃんが産まれたと事前に聞いてはいたが、会うことができるのはまだまだ先だろうと思っていた。
それがまさか、もう会えてしまうとは。生駒は今日の日取りが決まった時からずっとソワソワしていた気持ちを抱えていた。
いざ対面すると、赤ちゃんをびっくりさせないようにとどうにか気持ちを落ち着かせようとするものの、奇跡の小さな命を目の当たりにし、感情が忙しい。
晴柊は大事な友人に芽実をやっと会わせられたことをこの上なく喜んでいた。
今日は晴柊にとって楽しみにしていた日であった。それもそのはず、久しぶりに生駒と会う約束をしたのだ。晴柊の妊娠が発覚してからは、シルバの散歩も控えていた晴柊。
事情を知っている生駒だが、あまり詮索は良くないと変に深追いせず、たまに会う散歩当番の側近たちに経過報告を受けるのみだった。
先日、晴柊が遠慮がちに琳太郎にこう尋ねた。
「ねえねえ、そろそろ芽実もシルバの散歩に連れて行っていい?」
「駄目だ。まだ早い。」
「でもさぁ、まだ1回もお外に出てないんだよ?」
「庭で十分だ。その辺の家よりは広いだろ。」
琳太郎の過保護さは予想通り我が子にも降り注ぐ。しかし、琳太郎の言うことも一理ある。明楼会の組長に子供ができた、なんてニュースが漏れれば一目散に危ないのは芽実である。芽実が産まれたことは未だかなりの極秘である。琳太郎曰く、立ち上がれる歳になるまでは公表は控えたいらしい。
晴柊はそうだよなぁ、と琳太郎の言うことを聞く。しかし、もう一つ晴柊の心につっかえが残る。
「生駒君にも、随分会えてないなぁ。でも、仕方ないかぁ……。」
晴柊がボソリと呟いた。資料を見て何か作業をしていた琳太郎の視線が、晴柊に向く。芽実を膝の上に抱きかかえながら、縁側に腰掛けている。その後ろ姿を琳太郎は仕事場から眺めながら、考える。芽実どころか、晴柊の外出も制限してしまっている。今に始まったことではないのだが、産後はストレスがどうとかいう知識も琳太郎にはあった。
琳太郎は紙を机に置き、立ち上がる。晴柊の背後に歩みを進めると、気配に気付いた晴柊が後ろを振り返り見上げるようにして琳太郎を見た。
「どうしたの?」
「ここに呼ぶのなら……まぁ良い。」
「え?」
「アイツに会いたいんだろ。」
琳太郎が妥協案を示す。晴柊はそんな言葉を想像もしていなかったのか、ぽけっとした表情を浮かべている。しかしすぐに合点がいったのか、抑えられない笑みが零れる。
「えっ、いいの!?」
「まぁ、アイツはカタギだがもう色々知ってるしな。」
そういうと、琳太郎は隣に腰掛け休憩とでもいうように足を放り投げた。
「ありがとー!琳太郎!やった、やった、あっくんに会えるぞ、芽実~!!」
晴柊は嬉しそうに芽実の両脇を抱き上げ、お天道様に掲げる。芽実は勿論何が何だかわかっていないが、ママが嬉しそうな顔をしていると、つられてきゃっきゃと笑った。そんな姿が、琳太郎の心を満たしていった。
そんなこんなで、篠ケ谷から突然晴柊のいる屋敷に招待された生駒。一応手土産を持って、晴柊の暮らす明楼会本家へと向かう。
立派な正門の前に到着し、インターホンを押すと、出迎えてくれたのは天童だった。
「おー、来た来た。中で晴柊待ってるぞ。」
「あざーっす。相変わらずデカい家っすね~お邪魔します。」
久々に屋敷を見て、住む世界が改めて違うなと思わされる生駒は、靴を脱ぎ丁寧にそろえると、天童の案内のもと屋敷の中へと踏み込んだ。もっと怖いお兄さんたちが出入りしているのかと思ったが、人は少なくとても静かな屋内。
「あ、そうだ。天童さんこれ、良かったら皆さんで…」
「ん?あぁ、ありがとな。それは直接晴柊に渡してやってくれ。ほら、生駒が来たぞー。」
天童が一際広そうな部屋の襖を開ける。そこには、久方ぶりに会う晴柊の姿があった。
「あっくん!」
「晴柊!久しぶり!」
変わらない。晴柊の向日葵の様な弾ける笑顔に、生駒が釣られて笑みを零した。
ふと、晴柊が布の塊を抱いていることに気が付く。いや、これは布の塊などではない。俺は、この正体を知っているのだ。
生駒はおそるおそる、というように視線をやる。
「も、もしかして……」
「へへ、俺と琳太郎の子♡」
やっぱり!というように、生駒の顔がぱぁっと晴れた。以前から晴柊の様子は心配で、側近たちから話には聞いていた。
この間会った時は晴柊のお腹にいた赤子が、今こうしてここにいることに、生駒は感動を覚えた。
「本当に……元気に産まれてくれて良かったぁ……晴柊も、ほんと……うわぁ……ちっちゃ、手も足も……え、ちっちゃ……」
無事に赤ちゃんが産まれたと事前に聞いてはいたが、会うことができるのはまだまだ先だろうと思っていた。
それがまさか、もう会えてしまうとは。生駒は今日の日取りが決まった時からずっとソワソワしていた気持ちを抱えていた。
いざ対面すると、赤ちゃんをびっくりさせないようにとどうにか気持ちを落ち着かせようとするものの、奇跡の小さな命を目の当たりにし、感情が忙しい。
晴柊は大事な友人に芽実をやっと会わせられたことをこの上なく喜んでいた。
51
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる